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おいしいごはん
しおりを挟む「おにーちゃん起きてくださーい!」
ハッと目を覚ませばソファに横になる僕を覗き込むチッチ。
「わぁ、寝ちゃってた、ごめんね。」
「チッチもね、ここで寝てたよ!だんちょーさんはテーブルとか持ってくるねって。」
「そうなの?起こしてくれてありがとう。今からお仕事頑張っているこどもたちにさっきチッチも食べたグラタンを焼こうと思ってるんだけど、チッチはどうする?遊んでいても良いよ。」
3歳じゃ遊びたい盛りだろう。
「チッチおじゃましないから見ていてもいーい?」
「もちろん。お手伝いしてくれる?」
「するー!」
お母さんを求めて泣いていた事は覚えていないのだろう、にこにこと笑顔で気丈に振る舞って…本当に偉い。
「チッチなにする?」
「もうね、ほとんど出来ているからチーズパラパラしてくれる?」
あとはカロリーを取って欲しいからシュガートーストも焼こう。食べ合わせ?僕はグラタンに甘いパンいける…!一応ノーマルな普通のパンもトーストして持っていこう。
どんどん焼いて、横長な棚があったから道沿いに出してどんどん並べる。
あー、だめ。可愛い。
匂いに釣られたのか、こちらを伺うチッチよりも大きな子どもたち。子どもたちと言っても大きいな…流石獣人さん…シュロも凄く大きいもんね。ぴょこりぴょこりと塀や壁からお耳やしっぽがはみ出している。
「ごはんどうぞ!美味しいよー!」
「だぁれもこないねぇ…おーい!このおにーちゃんのごはんおいしーよぉ!」
チッチも声を張り上げるけど、中々…まず大人の獣人さんも怪しげに見てくるし…うん…いきなりヒトがごはんを配るのは怪しいか。毒見とかすればいける…?
「チッチ、グラタンは同じだけど食べる?」
「え!またたべてもいいの!?このあまいにおいのパンたべたい!」
両手で掴んであぐりと齧りついてもぐもぐ。小さなおくちで頬張るチッチ。可愛過ぎる。
「あまぁぁぁぁい!」
お!皆一歩前に出る。でもまだ警戒されているな。どうしたものかと思案していると遠くの方からノシノシとテーブルと椅子を運ぶ……シュロとシュロのように体格の良い軍服の獣人さんたち。
目が合うと嬉しそうには見えるけど…しっぽ…パタパタしてない。
「ヒカル、起きたか。1人にしてすまなかった。」
「チッチもいるよ!」
僕より先にチッチが答える。うん、可愛い。
「中へ2台、庭へ2台配置してくれ。」
お庭へ持っていたテーブルを下ろして隣へ来てくれるから、ふかふかな腕へ擦り寄る。
「はぁ、落ち着く。」
「ヒカル…止めてくれ。尻尾が動いてしまう。」
「え?」
「尻尾はそう動かすものじゃない。」
散々パタパタしていたのに、騎士団の方たちの前だから…?え、シュロ可愛いんですけど。
「ぶはは!団長!あんなに尻尾を持たせて嬉しそうに歩いていたんだから今更取り繕っても無駄ですよ!」
そうだそうだと沢山の声。
「ってかめっちゃ旨そうなんですけど、俺たちも頂いて良いですか!?」
「これはヒカルが身寄りのない子どもたちや食うものに困っている者たちの為に用意してくれたものだ。お前らは酒場にでも行け。」
「っあ!いえ!あの、これからそのような食堂を開きたいのですが、僕はヒトだし、子どもたちも気にはなっているみたいだけど中々手に取れないみたいで…皆の前で食べて頂けたら…あの、毒とかは入っていないので!」
「そんなの匂いでわかるし、ヒカルが毒など盛るわけない。」
それはシュロが僕をす…好きだと思っているからで、きっと子どもたちにとったら怖い筈だ。
それでも出会ったばかりで信用してくれている事が嬉しい。
「シュロ、しっぽ触りたいな。」
今、シュロに触れたくて仕方がないのだ。
「くふふっ、」
わざと鼻先を擽るしっぽ。
「あのー、いちゃつくのは家でお願い出来ます?あと、これすげぇ旨いっす。多めに料金払うのでまた食いに来ても良いですか?」
転移前の子ども食堂でも支援者や余裕のある方からは通常の料金を貰っていた。それで備品や材料を購入出来ていたのだ。チラリとシュロを見れば同じように考えてくれていたのか一度頷かれる。直ぐには無理だろうけど、いつか神様のくれた保管庫に頼らないでお店を動かして行きたい。
「はい。ではそのようにお願いします。今日はまだ試作なので料金はかかりません。メニューや料金表も作りますね。おかわりも沢山あるので、沢山食べてください。」
「やった!ほら、お前らも食え!今食わないと俺等が食い尽くすぞ!」
そう言って本当にバクバクと大口開けて食べてくれるから、様子を窺っていた子どもたちも小走りで来てくれる。美味しい美味しいと声が聞こえてほっと一安心。お腹も落ち着いたのか食べるペースが落ちて、今は味わってくれているように見える。
「あの、僕はヒトだけどここに子ども食堂っていう子どもたちが来やすい食堂を作るね。お金はいらないからお腹がすいたら来てね?もしも余裕がある時は自分で決めた代金を払ってくれるとその時に余裕のない子の分の食材が買えるから、その時は考えたり、わからなかったら相談してね。」
もぐもぐしながら各々頷いてくれたから僕も満足。
聞くと普段はパンだけで済ませたり、たまに惣菜。成長期なのにと目頭が熱くなる。
パンはパン屋さんから買うようにして、惣菜もうまく使えば敵も作らないだろうか…考える事が沢山だ。頭がパンクしそうだけど、やり甲斐がある。
「くふっ!」
もー、鼻はくすぐったい。
その後シュロに生活魔法のクリーンを教えてもらって片付けた後、チッチの荷物を取りに自宅へ向かった。
持っていくものを鞄に詰めようとしたけれど、楽しそうだったチッチは荷物を持ち出すのを嫌がった。
「チッチね、このにゃーにゃもってくね!」
猫ちゃんの小さな人形はお母さんの手作りらしい。
「それだけで良いの?その猫ちゃん、チッチの色とお揃いで可愛いね。」
「…うん。かわいいね。」
「チッチも可愛いよ?」
「チッチかわいい?おにーちゃんもかわいいね!」
はやくチッチのお母さんが帰って来ますようにと願うことしか出来なかった。
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