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甘いフレンチトースト
しおりを挟む「こんこーん。おにーちゃん、だんちょーさん、おはよぉ!はいってもいーい?」
「んー、チッチおはよう!どうぞ。」
ノックなんてしなくても良いのに、エチケットだと胸を張るチッチが可愛い。
隣でもぞもぞと動くシュロが珍しくてゆさゆさと揺り起こす。
「シュロおはよう。寝坊するの珍しいね…?体調悪い?」
「あぁ、おはよう。いや、体調は悪くない。小悪魔がな、俺を寝かせてくれなかったんだ。睡眠が取れなくても余裕な体の造りなのだが…小悪魔がな…悪魔に見えてきた…自分の忍耐と鋼の理性を褒めてやりたい…」
夢の話?小悪魔とか可愛いな。忍耐と理性の話は良くわからないけど、団長ともなると色々とあるのだろう。よし!今日はシュロの好きな朝ごはんにしよう。
ぐぬぬ、と眉間によったシワを人差し指でスリスリ。
「シュロはもう少し寝てて。僕シュロの好きな朝ごはん作ってくるね。」
「チッチもー!」
「ふふ、朝から元気だね?一緒に作ろう。」
チッチをそっと抱き上げればきゅっとしがみついてくれる。今日は抱かせてくれるみたいで嬉しい。お兄さんなチッチはたまにしか抱き締めさせてくれないのだ。
「出来たら呼ぶね?」
「よぶねぇ!」
「…可愛いな。」
呟くシュロの言葉にうんうんと頷きながら可愛いチッチを抱いたまま階段へ向かう。
「チッチおりるよ!」
「軽いから大丈夫だよ。」
「あっ!おにーちゃん、ふんふんしないよ!」
「したいぃ。もふもふきゅっきゅしたいぃ…!」
「いやぁぁ…!」
キャッキャしながら体を捻って抱っこから降りてダッシュ。あああ、かわいい。大きな猫が二足歩行でてちてち走ってる…何度見てもいつでもかわいい。
「おにーちゃん!なにつくるの?」
「うーん…シュロは意外と甘党だからフレンチトーストでも作ろうか。」
「チッチもすきだよ!」
「そうだよね。今日は朝からホイップクリームもつけちゃお!」
「わーい!」
朝から疲れた様子だったし、うんと甘くしよう。
シュロの家のキッチンで腕まくり。子ども食堂とは違ってこちらでは、この国の食材を使っている。何でも魔法や神様に頼るのは気が引けて…子ども食堂の方は遠慮なく使ってしまうけど。
チッチがボウルの前で泡だて器を持って待機してくれているから、卵とミルクとお砂糖を順に入れればカシャカシャとリズミカルに混ぜていく。はぁ、もふもふなおててがまた可愛い。
硬めのバゲットを切って染み込ませている間にホイップクリーム作り。
やりたいというチッチの後ろから一緒に泡だて器を持って頑張るけど…電動じゃないとキツイ。
「腕が…痛い…」
「いたいの!おにーちゃんだいじょうぶ!?」
「うん?これくらい大丈夫だよ。」
「チッチやるよ!」
やりたい気持ちを優先させてあげたいけど…流石に3歳のチッチじゃホイップクリームは作れないだろう。
「俺がやろう。」
後ろからぬっと現れたシュロに驚く。
「わ、寝てても良いよ?最近お仕事も忙しかったでしょう?今日は非番って…」
少し前に大きめの魔獣が出た。すぐにシュロ率いる地の騎士団が駆けつけて事なきを得たけれど、それからバタバタとしていてやっと今日はお休み。
「おにーちゃんがいたいってしたらだんちょーさん、すぐにきてくれたね!きこえるの?」
「聞こえるぞ。俺は耳も鼻も良いからな。」
「え、そうなの?煩かった…よね。ごめんなさい。」
「チッチうるさいよねぇ、ごめんねぇ!」
鼻が良いのは何となくわかっていたけど、そっか、耳も。獣人さんだと身体能力も違うから気をつけないと。
「全然煩くない。お前たちの声が聞こえると安心するし嬉しい。これを混ぜれば良いのか?」
ガシャガシャと少々飛び散らせながら生クリームを混ぜるシュロのしっぽはパタパタ。本当に嬉しいと思ってくれてるのがわかる。
「だんちょーさん!チッチ入れ物押さえとくね!」
「あぁ、頼んだ。」
楽しそうな二人を横目にバターを引いたフライパンでフレンチトースト作り。
「ふふ、どうしたの?」
腰に巻き付くしっぽがかわいい。
「今朝は甘いものの気分だった。ありがとう。」
「こちらこそいつもありがとう。」
出来上がったフレンチトーストに生クリームとフルーツを添える。沢山混ぜてくれたから固めのクリーム。
「おいひぃ…」
「チッチクリームついてるよ。」
用意しておいた布巾で口元を拭う。
「ヒカルもついているぞ。」
ぺろりと頬を舐められる。そしてほっぺをあぐあぐ。もぉー…
「嫌だったか?」
「嫌じゃないけどさ…ドキドキするよ。」
とにかく甘々なシュロは距離が近いのだ。
「片時も離れていたくない。」
「それはわかるけど。」
離れていたくないのは本当にわかる。
今までね、あまりヒトに会う機会がなかったけど…数人会ってわかった。獣人さんとヒトだと、やっぱり最初は離れたくなくて、魔力の交換…キスやセックスも含むみたいなんだけど…そうするともう媚薬を使ったみたいにぐでんぐでんになるよって教えてくれた。
項を噛んで正真正銘の番になれば落ち着くみたいだけど…うん、獣人さんは難しい。
鼻が良いから匂いとかにも敏感で他の獣人さんの匂いがついてると嫌な気持ちになるとか…
シュロ曰く、子どもは大丈夫みたいだから、子ども食堂に来る子たちをもふもふするのはやめられない。爬虫類系のつるつる鱗に触れるのもやめられない。
お弁当を買いに来てくれた子に余った生クリームとフルーツを挟んだフルーツサンドをおまけに渡す。冷たいままにしておく魔法をかけて紙に包む。
お店の前で渡してぎゅう。年頃だったりで嫌がる子もいるけど、やって良い子にはぎゅう。
ちょっと恥ずかしそうにそっぽを向いていてもしっぽはパタパタ。
「行ってらっしゃい、気を付けてね。」
早く結界が張れるようになりたい。
そうしたら、哀しい思いをする子どもたちが減るのに。
「おにーちゃん!チッチにも甘いサンドイッチくれますか!」
「もー、チッチは食べたからだめです。また今度ね?」
「俺もだめか…?」
「シュロも食べたでしょう?だめです。」
思い悩むと優しく気を反らしてくれるふたり。
「…ありがと。」
聞こえたかはわからないけど、二人のしっぽが腰に回った。
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