伯爵閣下の褒賞品(あ)

夏菜しの

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23:ハンカチ

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 俺はすっかり満足しているのだが、ベリーに言わせると家の中はまだまだ不十分だと言われた。
 しかしストレートに「何が足らんのだ?」などと聞けば、さすがのベリーも不機嫌になるに決まっている。
 ここは判ったフリをして、では一緒に買い物に出かけようかと誘った。


 雪こそ降っていないが今日の気温はかなり低く、隣を歩くベリーの頬は真っ赤に染まっている。小さな口から洩れる息も真っ白だ。
「寒くないか?」
 答える代わりにベリーはこちらを見上げてきた。形の良いアーモンド形の瞳が不満げに歪み、『寒いに決まってます』と主張しているような気がした。
「むぅ……
 これで足しになるか分らんが」
 そう言うが早いか、俺はベリーの手を取りコートのポケットに導いた。
 目を丸くするベリー。
 しかし次の瞬間、俺の腕にピタリと体を寄せてきて、「この方が温かいです」と言いニンマリと笑った。

 俺たちが暮らす居住区と店のある区は正反対。
 だから適当に歩いていても店のある通りには辿り着く。しかし何が足らぬか分らぬ俺に、目的の店が探せるわけがない。
 先ほど稼いだポイントに期待して、「ベリーがいい店を選んでくれ」と伝える。
 見上げてくるアーモンド形の瞳がすっと細くなった。
 ああこれは気づかれたかな。
 だが何も言わないのできっとポイントが足りたのだろう。


 さて大きな通りはお洒落で綺麗な店が多く、ついでに言うと値段も高い。そこから通りを一本中に入るたびに値段は落ちていくが当然質も徐々に落ちていった。
 何を買うのかは知らないが、俺なら迷うことなく、可もなく不可もない三本目の通りあたりを散策するだろう。しかしベリーが使うのならば大通りが似合いそうだ。
 しかしベリーが入ったのは、三本目の通りにあった糸や生地を扱うお店だった。
「まさか服を手作りするつもりか?」
「作れないことはないですけど手間を思うとちょっと~って感じですね」
 そう言ってベリーは残念そうな表情を浮かべたが、その手にはしっかり鮮やかな色をした布を抱えていた。
「ではそれは何に使うのだろう?」
「テーブルクロスにハンカチ、それからシーツやクッションカバーを作ろうかと思っています。ところでフィリベルトは何色がお好きですか?」
「特にこだわりはないぞ」
「本当に?」
 こちらを覗き込んできたアーモンド形の瞳がくるりと煌めいた。
 これは何か悪戯を思いついた時の目だ。しかし今の問いかけでどんな悪戯を思いついた? そもそも悪戯の要素などあっただろうか?
「……本当だ」
「じゃあこちらのピンクにしようかなー」
 語尾を伸ばしつつチラッと目くばせ、完全に遊ばれている。
「悪かった、降参だ。
 無難な濃いめの色か白か黒が希望だ」
 ピンクのハンカチなんて出してみろ、それを見た部下がどんな顔をするやら分かったもんじゃない。
「う~ん。それはそれで面白みがないですねえ」
 俺の答えはお気に召さなかったようで、即刻却下された。
 じゃあなんで聞いた?
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