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27:青い血

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 あの件から一週間も経つと、わたしとルーカスがしでかした事は、公然の秘密といった感じで社交界に広まっていた。
 きっと誰もが『なんと馬鹿なことを!』と思っただろう。
 しかしそれを声に出して言わないのは、国王陛下が直々に裁きを言い渡したことに加えて、事を起こした双方が最高位の公爵家だからに違いない。

 ただし例外はやっぱりいるもので、
「いやー馬鹿だとは思ってたけどここまで馬鹿だったなんてねー」
 半謹慎状態でシュナレンベルガー公爵家じっかで反省させられている間、毎日の様に訪ねてきては、貶しにやってきたグレーテル。
「ねえその台詞、とっくに聞き飽きたわ」
「聞き飽きたじゃないわよ。まだまだこれから何回でも言って上げる。
 なーにが『愛かしら?』よ!」
「……あんまりしつこいと嫌われるわよ」
「あら別に嫌ってくれてもいいわよ。
 嫌われたみたいだしお暇するわ、じゃあねエーデラ、さ・よ・う・な・ら」
「ご、ごめんなさい!」
「まっ今日はこのくらいで勘弁してあげるわ」
 本当に意地悪な人はとっくに目の前から消えて行ったから、グレーテルのこれは本人曰く『愛の鞭』だそうだ。
 こんなわたしをまだ友人だと言ってくれるのは有難いのだけど、手加減なしなので時々耐え切れなくて衝突するのよね……

「ところでさ、二度目の結婚式はいつやるの?」
「いまはやる方向とやらない方向で意見が割れてるわ」
「ちなみにどっちがどっち?」
「ハロルドがやるで、うちが条件付きでやるで、おじ様たちがやらないよ」
「三つなんだけど?」
「あら〝やる〟か〝やらないか〟で言えば二つでしょ?」
「ふーんまっいいや。でもさぁ今の流れだとしれっとやっても誰も何も言わなさそうじゃない。パパッとやっちゃえばいいのにね」
「わたしもそう思うんだけど、ルーカスが……」
「あーそっちね」

 ヴェーデナー公爵は非常にも、国王陛下の前で長男ルーカスを廃嫡した。
 しかし決して親子の情まで失った訳ではなく、別れの手向けに、わたしとルーカスが住んでいたあのお屋敷二つをそのまま彼に譲っていた。
 屋敷二つが建つ広い敷地に、二つ分の家財一式。あれを売れば親子三人が今後を暮らすに十分な財になるはずなのだが、ルーカスは子供が生まれたてと言うのを理由に、まだあの屋敷に住みついていた。

 それを踏まえて解説をすると……
 ハロルドはわたしと結婚式がしたいと言う純粋な気持ちから〝やる〟。
 そしてシュナレンベルガーうちは、ルーカスの子は今後の火種になりえるから、〝彼ら親子の国外追放〟がなされるならば〝やる〟。
 そしてヴェーデナー公爵は、〝国外追放そこまで〟するなら〝やらない〟。
 って感じかしら。
 ついでに言うと、わたしには意見を言う資格はないらしくて、発言権は無しよ。

「なんか面倒ね」
「そうねって……、わたしが言ったらダメよね。ハァ……」
「まっいいわ。結婚式やるなら呼んで、絶対行くわ」
「ありがとうグレーテル」
 彼女はまたねと言って帰って行った。







 ハロルドとわたしは、ルーカスの元を訪ねていた。
 実はハロルドはあれから毎日訪ねていたそうで、何度もルーカスの説得に失敗していた。このままでは不味いと頭を悩ませていたので、無理を言って今日はわたしも連れてきて貰った。
「またお前か……」
 久しぶりにあったルーカスは痩せたと言うよりも、やつれたと言う方が正しいほどに病的に痩せていた。
 彼はハロルドの後ろに立つわたしを見て不機嫌そうに眉を顰めた。
 その気持ちは分かるつもりだ。
 廃嫡されたルーカスに比べて、わたしの処分はとても甘い。
「いいかい兄さん」
「やれやれ、もう話すことはないだろうにお前も暇だな。
 好きにしろと言いたいところだが、エーデラ、お前は駄目だ」
「どうしてだい」
「マルグリットがちょっとな」
 彼女から嫌われている自覚は当然ある。
 だからこそ、わたしが直接彼女を話をする必要があると思ってここに来たのだ。当然このまま帰るつもりはなかった。
「悪いけどそれで『はいそうですか』と言えるほどこっちも暇じゃないんだよ」
「チッ一応聞いてやる、ちょっと待ってろ」
 ほとんど待たされることなくルーカスは帰って来た。
「二人きりなら会うってさ。
 おいエーデラ解ってるよな? 下手な事をするなよ」
「安心して何もしないわ」


 カーテンが開けられただけの薄暗い部屋にマルグリットがいた。赤子は居なくて彼女一人きりなのは配慮してくれたのだろうか?
「マルグリット久しぶりね」
「ルーカスがあんなに馬鹿じゃなければ、きっと立場は逆だったはずなのに……
 ふんっ笑いたければ笑いなさいよ」
「笑うつもりなんてないけど、折角だし貴女の勘違いを正して上げるわ。
 例え貴女の言うとおりに事が運んだとしても、きっとその瞬間は絶対に来なかったでしょうね」
「どうしてそう言えるのよ!?」
「だってわたしたち貴族は青い血だもの。おじ様も国王陛下もそのような事を許すわけがないのよ。
 つまりその事実を隠ぺいするために、貴女はきっと殺されたと思うわよ。いいえ貴女だけじゃない、ルーカスやわたしだって同じ運命を辿った可能性があるわ」
「そこまでするわけが……」
「いいえするわ。だってわたしたち貴族の血は青いんですもの」
「そんな……だったらあたしは……」
「マルグリット聞きなさい。
 貴女はもうルーカスの子を産んでしまったの。子供を健やかに育てたいと言うのならば、速やかにこの国を出なさい。
 じゃないと近い将来、きっと同じことが起きると予言するわ」
「本気……みたいだね。
 ルーカスはこのことを?」
「もちろん知っているわ。
 でもあの人って馬鹿だもん。そこがいいのだけど今回ばかりは相手が悪いのよ」
「まさかあんたもルーカスの事を?」
「あー悪いけどそれだけは無いわ。
 だから気兼ねなく、彼を連れて国を出なさい。そして決して戻ってきてはいけないの」
 伝えるべきことは伝えたつもりだ。
 後は正しい判断をして欲しいと願いわたしは沈黙する彼女を残してそっと部屋を出た。
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