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第一話 まずはプレイしてみましょう。

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 十九歳。大学一年生の夏。

 わたしはゲームに対して二度目の挑戦をした。バイトをして貯めたお金で最新のゲーム機と話題のゲームを買った。わたしのイメージでは最新のゲームはCDのようなディスクを入れるものだと思っていたが、そのゲーム機のソフトはひどく小さくて薄いチップのようなものだった。

 時代は変わっていた。わたしがゲームに背を向けている間に。

 それはさておき、わたしは人生で初めて自分でゲーム機とソフトを買った。アクションアドベンチャーゲーム。プレイヤーは冒険者となって広大なフィールドを探索し、世界を悪しき者の魔の手から救う。そこに至るまでの道のりは険しくも自由で、美しい音楽、映像、まるでキャラクターそのものになり切ったかのような操作性が、プレイヤーをゲームの世界に没入させる。

 家電量販店のモニターで見かけた瞬間、どうしようもなく惹かれてしまった。

 わたしはゲームが苦手だった。でも別に嫌いだったわけじゃない。SNSで時たま流れてくるゲーマーらしい人の熱っぽい呟きは興味深かったし、インターネットの記事で読んだゲームの歴史や開発のための試行錯誤、あるいはプレイヤーによるクリアや、対人戦での勝利へのための研鑽はかっこよく見えた。

 正直に言えば、わたしはゲームに憧れていた。楽し気に、夢中になってゲームをする人に憧れていた。
 ゲーマーになりたかった。幼馴染のように器用に、ゲームをしてみたかった。
 お姉ちゃんのように強く、ゲームで活躍してみたかった。

 だから変わろうと思ったのだ。
 一念発起してゲームを買ったのだ。
 パッケージを開け、ゲーム機本体にソフトをセットし、起動した。説明書はなかった。どうも最近のゲームはそういうものらしいと、後日ネットで調べた。

 細かい事はさておいて、プレイした。わくわくしている自分に気が付いた。ゲームを買ってきて、プレイする。ただそれだけの事だけど、まるで行った事のない場所へ行くかのような期待と興奮があった。

 説明書はなくても、直感的に遊べる。昔握った事のあるコントローラーと似たような感じだ。わたしはゲームに詳しくはないけれどチュートリアルは親切に感じた。

 広大フィールドはどこに何があるかもわからないが、動き回るのは楽しかった。現れる敵モンスターはいかにも序盤の敵という風情で、ゲームに慣れないわたしでも容易に蹴散らせた。

 やがて、序盤のボスに出会った。
 負けた。
 何でか知らないが、負けた。

 序盤のボスくらいで攻略記事を見ていては、ゲームは上手くなれないだろうと思って、意地でもネットは開かなかった。
 二時間戦った。
 負けた。

 ゲームソフトを買った時の興奮は、もはや消えていた。
 下手だった。あまりにも、プレイが。
 時計を見ると、そろそろ課題をやらなければならない時刻だった。ゲームを楽しくプレイしても、提出期限は伸びてくれないし、課題を提出しなければ単位は取れない。

 ひとまず、その日はゲームをやめた。また折りを見て挑戦すればいい。そう思った。
 結局、あの日から今日に至るまで、ゲームの電源が入る事はなかった。
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