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第一話 まずはプレイしてみましょう。
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「どした? 本千葉さん」
「……そういえばさ、蘇我さんってカードゲームやってる?」
頭の中で結論が出るより先に、口が問いを発していた。
「え。どうした、急に。……ああ、デッキ拾ってくれたからか。うん。やってるよ」
蘇我さんはローテーブルにコップを置くと、自分のリュックサックを開けて、中からデッキケースを取り出した。
「これね。《彼方ノ国物語》」
――ああ、やっぱり。
別に、このカードゲームブームの世の中で不思議な事ではないのに、わたしは何だか胸を突かれたような思いになる。
「面白い? そのゲーム」
「え、そりゃもう。めちゃくちゃ面白いよ! このゲームかれこれ四十年前に発売されたんだけど、未だに新しいエキスパンションが出てるのね。で、四十年前のカードから今のカードまで全部使ってデッキ組んでいいの! それだけ要素が多くてバランスも取れてるか微妙なところだけど、世界観とゲーム性がめちゃくちゃいいの! まじで!」
どうやらよっぽど思い入れがあるようで、蘇我さんはワイファイの時の語り口よりはるかに上のテンションでぶわーっと語り始めた。
「あ、ごめん。ついつい、このゲームめちゃくちゃ好きだから、ついね」
たはは、と蘇我さんは笑う。
「でも、カードゲーム興味あるの?」
「うん。その、実は……」
「まじか! 嬉しいよ! このゲーム、今年がまさに四十周年記念でね。もとはアメリカで開発されたゲームなんだけど、日本でもかなり人気で、女性プレイヤーもかなり多いんだよ。このあいだ世界大会制覇したプロも女流プロでね、名前は聞いた事あると思うんだけど、知ってるかなー、〝azumatsu〟っていうんだけど」
「……うん。知ってる。やっぱり有名だよね、azumatsu」
蘇我さんの熱っぽい語りが止まる。何だか、微妙そうな顔をしている。
「ナニカ、よくわからないけれど、ナニカ、違和感があるような気がするんだケド……」
「ああ、ごめん。実はその、さっきのお母さんの話とも関連するんだけど」
自分の本心には気付いている。聞くべきかどうかなんて、迷ったフリをしただけだ。
結局、やりたい事はわかっている。
「お姉ちゃんなんだ、azumatsu」
蘇我さんの顔が、しばらく固まっていた。ちょっと待って、とジェスチャーで示して、スマホを取り出して調べ始める。
「…………あ、そうか。本千葉東か。本名」
蘇我さんはネットの記事の文面を目で追っている。
お姉ちゃんは配信者であり、《彼方ノ国物語》カードゲームのほか、いくつかのゲームのプロプレイヤーであり、eスポーツチームにも所属している。その顔はインターネットにアクセスすれば、いつでも確認可能だ。金髪にピンクのインナーカラーを入れた長髪がトレードマークで、小顔なうえに高身長、ここ数年はジムで鍛えていたので体つきもがっしりしている。
「……そういえばさ、蘇我さんってカードゲームやってる?」
頭の中で結論が出るより先に、口が問いを発していた。
「え。どうした、急に。……ああ、デッキ拾ってくれたからか。うん。やってるよ」
蘇我さんはローテーブルにコップを置くと、自分のリュックサックを開けて、中からデッキケースを取り出した。
「これね。《彼方ノ国物語》」
――ああ、やっぱり。
別に、このカードゲームブームの世の中で不思議な事ではないのに、わたしは何だか胸を突かれたような思いになる。
「面白い? そのゲーム」
「え、そりゃもう。めちゃくちゃ面白いよ! このゲームかれこれ四十年前に発売されたんだけど、未だに新しいエキスパンションが出てるのね。で、四十年前のカードから今のカードまで全部使ってデッキ組んでいいの! それだけ要素が多くてバランスも取れてるか微妙なところだけど、世界観とゲーム性がめちゃくちゃいいの! まじで!」
どうやらよっぽど思い入れがあるようで、蘇我さんはワイファイの時の語り口よりはるかに上のテンションでぶわーっと語り始めた。
「あ、ごめん。ついつい、このゲームめちゃくちゃ好きだから、ついね」
たはは、と蘇我さんは笑う。
「でも、カードゲーム興味あるの?」
「うん。その、実は……」
「まじか! 嬉しいよ! このゲーム、今年がまさに四十周年記念でね。もとはアメリカで開発されたゲームなんだけど、日本でもかなり人気で、女性プレイヤーもかなり多いんだよ。このあいだ世界大会制覇したプロも女流プロでね、名前は聞いた事あると思うんだけど、知ってるかなー、〝azumatsu〟っていうんだけど」
「……うん。知ってる。やっぱり有名だよね、azumatsu」
蘇我さんの熱っぽい語りが止まる。何だか、微妙そうな顔をしている。
「ナニカ、よくわからないけれど、ナニカ、違和感があるような気がするんだケド……」
「ああ、ごめん。実はその、さっきのお母さんの話とも関連するんだけど」
自分の本心には気付いている。聞くべきかどうかなんて、迷ったフリをしただけだ。
結局、やりたい事はわかっている。
「お姉ちゃんなんだ、azumatsu」
蘇我さんの顔が、しばらく固まっていた。ちょっと待って、とジェスチャーで示して、スマホを取り出して調べ始める。
「…………あ、そうか。本千葉東か。本名」
蘇我さんはネットの記事の文面を目で追っている。
お姉ちゃんは配信者であり、《彼方ノ国物語》カードゲームのほか、いくつかのゲームのプロプレイヤーであり、eスポーツチームにも所属している。その顔はインターネットにアクセスすれば、いつでも確認可能だ。金髪にピンクのインナーカラーを入れた長髪がトレードマークで、小顔なうえに高身長、ここ数年はジムで鍛えていたので体つきもがっしりしている。
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