忘れられた妻

毛蟹葵葉

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旅行を終えたチネロは修道院に行く事を考え直した。
幸い家族はずっと居てもいいとは話してくれるけれど、ジョージもいつか家庭を持つのだから、いずれ出ていかなくてはならないと考えていた。
チネロはいつか出ていくのだから、今は家族と一緒に居る時間を楽しむことにした。

サラは、役目を終えるとオグト家に帰っていった。


「チネロさん。お久しぶりです」

「ローディンさん」

今日は、久しぶりにローディンとピクニックに行くことになっていた。
いつもなら、サラとユリが同行するのだが、今日はローディン一人で来たようだ。

2人の交流は断たれる事はなく穏やかに続いている。

そして、胸の内に秘めた想いもゆっくりと育てていった。

「随分と暖かくなりましたね」

春の日差しは2人を包み爽やかな風は、悪戯に通り抜けていく。

「ここに座りましょうか」

ローディンは大きな木を見つけると、チネロに座るように声をかけた。
チネロは言われたまま、無防備にローディンのすぐ側に座った。
貴族の未婚の男女がこんなにも近い距離で一緒にいるなんて、眉を顰める者も多いだろう。けれど、チネロの家族はそれを黙認している。メリッサも2人の交流を止める事なかった。
チネロにとってローディンの存在はとても大きくなっていた。

そんなローディンが今日はどこかよそよそしい。表面上はわからないけれど、チネロはそれすらもわかるくらいに彼のことをよく知っていた。
そもそも、サラとユリを同行させない事が怪しいのだけれど。

はあ、と、ローディンは、大きく息を吐いた。
顔は強張ったままで、「チ、チネロさん」と声をかける。

「はい?」

「僕が、貴女を愛することを許してくれますか?」

その突然すぎる言葉に、チネロは驚いて口をぽかんと開けてしまう。
そして、その言葉の意味を噛み締める。
自分はローディンに愛されていたのか、それがとても嬉しくて、心臓が破裂しそうなくらいに強く脈打ち出すのがわかった。

「もちろんです。ありがとう。凄く嬉しい」

ポロリと涙が出た。ローディンの言葉が苦しくて辛かった日々を浄化させてくれるように。

ローディンからいつも感じていた。負い目はきっと教えてはくれないだろう。
けれど、彼の悪意のない行為で自分が苦しんでいたとしても、チネロはそれを許している。
それよりも、ローディンがそのせいで苦しんでいた事の方が辛かった。
ローディンは自分の事を許す事ができたのなら。それでいい。





「僕が、貴女を愛することを許してくれますか?」

言いたかった謝罪をローディンは、チネロに言えなかった。
それをしたところで、救われるのは自分だけだから、十字架を下ろす事は許されないと思っていた。

「もちろんです。ありがとう。凄く嬉しい」

贖罪に満ちた愛の告白にチネロは、嬉しいと言ってくれた。
それは、あの時、自分が言った愚かな言葉を許してくれたように聞こえて。
嬉し涙を流すチネロに、呼応するように涙が出てきた。
泣くことなんて子供の時以来だ。

「ありがとう。ありがとう、チネロさん……。大切にするから、もしも、酷い事をしたら、ちゃんと言ってくれ」

「泣いてるの?」

「うん、少し」

二つの影は一つに重なり合った。
きっと、何があってもチネロとなら乗り越えていけるだろう。彼女の優しさや強さはいつだってローディンを元気付けてくれた。
ローディンはチネロを抱きしめる腕に力を込めた。












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予約投稿ミスりました。
申し訳ありません。まだ続きます。
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