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硬い表情の水津に促されて、私は車に乗り込んだ。
その瞬間、私は違和感を覚える。何かが足りないような気がして。
「……?」
私がそれを思い出そうと考え込んでいると、水津が声をかけてきた。
「何か食べたい物あります?」
「え?」
彼は相談がしたかったのではないのだろうか。
水津が当初の目的を見失っていて、私は首を傾ける。
「ご飯食べに行きませんか?」
「え?相談したい事があるんじゃないの?」
「建前ですよ」
なぜ一緒に食事をしたいのか、私にはわからなかった。行く必要なんてないじゃないか。
「アパートに来ればよかったじゃない」
「直接行って誘ったり、メールして応じますか?」
「……」
そう言われて、私は少し逡巡する。水津の言う通り何か理由をつけて断っていた気がした。
「応えないじゃん。だから、誘ったの。で、何食べたいの?」
水津は苦笑いして私の手を握った。機嫌を損ねた恋人を甘やかすかのように。
どちらかというと、クールな印象のある水津の甘やかな態度に鈍器で殴られたような衝撃を受ける。
いや、もしかしたら彼が誰かに殴られて性格が変わってしまったのかもしれない。
「何でもいいよ」
水津はにっこりと笑って私に顔を近づけてくる。
怪しいセールスマンが笑顔でにじり寄ってくるような、なんとも言えない恐ろしさに顔を背けたくなる。
とにかく、食欲はないけれど何を食べたいか言わないと、この羞恥と恐怖のプレイが続きそうな気がした。
「ラーメン」
咄嗟に出た言葉は、ちょっと、この状況で行くには疑問に思うような食べ物の名前で、私はしくじったと思ってしまった。
「は?」
水津は現に明らかに唖然としている。言い直そうと思ったけれど、ほかに食べたい物が思い浮かばない。
「ラーメン」
やっぱりラーメンしか思い浮かばなかった。
「ラーメン!?」
再びのラーメンコールに水津は、目を見開いている。
「ダメなの?」
機嫌を損ねた子供のように水津を見据えると、口元を押さえてくすくすと笑っているのが見える。
「いや、あの、凛子って天然だよね」
こういう場では、デートらしい物を食べたいというのが普通と水津は言いたいのだろうか。
『天然』という単語に私はムッとなった。
「あのね、私は天然じゃないわよ。少し鈍臭いけど」
私は天然じゃなくて少し鈍臭いだけだ。勝手に決めつけることはよくないと思う。
「そういうことにしておくよ」
水津は私の食べたい系統を聞くと、車を発進させた。
「お腹いっぱいだわ」
ラーメンを食べ終えて私はお腹を撫でた。いつもよりもよく食べた気がする。
「いい食べっぷりだったね」
水津はラーメンを啜る私の姿を思い出したのか、クスリと笑った。
彼は車に乗ってからずっと笑っている気がする。
「あんなに美味しそうに食べるんだ」
そう言われて、欠食児童のようにがっつくように食べているように見えたのだろうか。
「連れていってよかったです。じゃあ、帰りますかね」
水津は本当に私と食事をしたかっただけのようだ。いつものように、私のアパートでセックスでもするつもりなのだと思っていたけれど。
「最寄り駅でいいわよ」
「眠ってていいよ。着いたら起こすから」
「でも」
最寄り駅で下ろしてもらうのに、短時間でも眠るのは失礼ではないだろうか。
「疲れてるでしょ?少し眠ってなよ」
「ありがとう」
瞼は少しだけ重たいので眠らせてもらおう。車の揺れがゆりかごのように心地いい。
その瞬間、私は違和感を覚える。何かが足りないような気がして。
「……?」
私がそれを思い出そうと考え込んでいると、水津が声をかけてきた。
「何か食べたい物あります?」
「え?」
彼は相談がしたかったのではないのだろうか。
水津が当初の目的を見失っていて、私は首を傾ける。
「ご飯食べに行きませんか?」
「え?相談したい事があるんじゃないの?」
「建前ですよ」
なぜ一緒に食事をしたいのか、私にはわからなかった。行く必要なんてないじゃないか。
「アパートに来ればよかったじゃない」
「直接行って誘ったり、メールして応じますか?」
「……」
そう言われて、私は少し逡巡する。水津の言う通り何か理由をつけて断っていた気がした。
「応えないじゃん。だから、誘ったの。で、何食べたいの?」
水津は苦笑いして私の手を握った。機嫌を損ねた恋人を甘やかすかのように。
どちらかというと、クールな印象のある水津の甘やかな態度に鈍器で殴られたような衝撃を受ける。
いや、もしかしたら彼が誰かに殴られて性格が変わってしまったのかもしれない。
「何でもいいよ」
水津はにっこりと笑って私に顔を近づけてくる。
怪しいセールスマンが笑顔でにじり寄ってくるような、なんとも言えない恐ろしさに顔を背けたくなる。
とにかく、食欲はないけれど何を食べたいか言わないと、この羞恥と恐怖のプレイが続きそうな気がした。
「ラーメン」
咄嗟に出た言葉は、ちょっと、この状況で行くには疑問に思うような食べ物の名前で、私はしくじったと思ってしまった。
「は?」
水津は現に明らかに唖然としている。言い直そうと思ったけれど、ほかに食べたい物が思い浮かばない。
「ラーメン」
やっぱりラーメンしか思い浮かばなかった。
「ラーメン!?」
再びのラーメンコールに水津は、目を見開いている。
「ダメなの?」
機嫌を損ねた子供のように水津を見据えると、口元を押さえてくすくすと笑っているのが見える。
「いや、あの、凛子って天然だよね」
こういう場では、デートらしい物を食べたいというのが普通と水津は言いたいのだろうか。
『天然』という単語に私はムッとなった。
「あのね、私は天然じゃないわよ。少し鈍臭いけど」
私は天然じゃなくて少し鈍臭いだけだ。勝手に決めつけることはよくないと思う。
「そういうことにしておくよ」
水津は私の食べたい系統を聞くと、車を発進させた。
「お腹いっぱいだわ」
ラーメンを食べ終えて私はお腹を撫でた。いつもよりもよく食べた気がする。
「いい食べっぷりだったね」
水津はラーメンを啜る私の姿を思い出したのか、クスリと笑った。
彼は車に乗ってからずっと笑っている気がする。
「あんなに美味しそうに食べるんだ」
そう言われて、欠食児童のようにがっつくように食べているように見えたのだろうか。
「連れていってよかったです。じゃあ、帰りますかね」
水津は本当に私と食事をしたかっただけのようだ。いつものように、私のアパートでセックスでもするつもりなのだと思っていたけれど。
「最寄り駅でいいわよ」
「眠ってていいよ。着いたら起こすから」
「でも」
最寄り駅で下ろしてもらうのに、短時間でも眠るのは失礼ではないだろうか。
「疲れてるでしょ?少し眠ってなよ」
「ありがとう」
瞼は少しだけ重たいので眠らせてもらおう。車の揺れがゆりかごのように心地いい。
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