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年末年始を明けて、出社すると柏木が私よりも先にフロアで待っていた。
どうやら先を越されたみたいだ。
柏木は私に気が付くとニッコリと笑った。
「おはようございます。この前はありがとうございました。楽しかったです」
もしかしたら、わざわざこれを言うためだけに出社したのだろうか?
律儀だが、彼らしいな、と、私は思った。
「こちらこそ、ありがとう。今日は早いのね」
「凛子さんの顔見たくて」
夏休み明けに友達に会いたくて早く学校に来た子供のような事を柏木は言い出す。
わかりやすい好意を出されるとなんだか照れ臭い。
「ありがとう」
「何か悩んでいそうだったから、休みの間、心配だったんです」
柏木は私が悩みを打ち明けられなかった事を気にしていたようだ。
彼の前では隠し事が難しいのかもしれない。
「悩んでても仕事には行くよ?」
思わず口からでてきたのは本音だ。そう、どんなに辛くても仕事には行かないといけないんだ。
「悩んでるのは認めるんですね」
「う、うん」
「解決できるかわからないけど、いつでも相談にのりますよ」
本当に柏木は親切で優しい。なんで今まで疑ったりしていたんだろう。
「ありがとう」
「進藤さんの件は任せて下さい」
柏木なりに進藤の悩みを聞いたり、私との間に入ってうまく人間関係を調整するつもりなのだろう。
私ではなくて柏木みたいな人が上司になるべきだとつくづく思う。
「うん。本当にごめんなさい」
「気にしないで。凛子さんが居なくなったらやっていけないですよ。想像もしたくないけど」
彼にとっては良くない事かもしれないけど、そう思ってくれるなら嬉しい。
「うん、ありがとう」
「もう少し、自分の良さを認めて下さいよ。それに救われてる人間もいるんですから」
柏木はポンポンと私の肩を叩いた。本当に年明け早々、励まされてどうするんだ。
「あ、ありがとう」
「今週も頑張りましょう。ね?」
「う、うん。頑張ろう」
そうだ、今週も頑張ろう。
柏木と話をしている間に少しずつ人がやってきた。
そろそろだろうか、彼女達が来るのは。
「おはようございます」
進藤が水津に腕を絡ませてやってきた。
相変わらず照れたように俯き表情は見えない。進藤はいつも以上に自信ありげに立っていた。ふと、目が合うとフフフと意味ありげに笑いギロリと睨み付けてきた。
水津は予定があると話していたけれど、進藤と一緒に過ごしていたのだろうか、考えないようにしよう。嫉妬でもしたら目も当てられないから。
水津が居なかった日々は少しだけ寂しかったけれど、慣れてしまえばなんともなかった。
あんなに優しくしてくれても、心の中で彼が何を考えているのなんてわからないから。
私との変な噂を水津が肯定しているのか、否定しているのかすらも知らない。
確認しようにも休みの間、彼とは一度も会っていない。
正直にいうと彼が何を考えているのか私にはわからない。
無意識に水津の方に目をむける。
彼も私を見ていたらしくバッチリと目が合う。感情もなく無表情で私を見ている。
空恐ろしい物を私はなぜか感じる。彼の今の表情は出会った時のそれによく似ていたのだ。
そう遠くない未来に私は芋虫のように無様に踏み潰されるのかもしれない。
「……さあ、仕事を頑張りましょうかね」
私を気遣ってなのか、柏木が気分を変えるようにそう言った。
「そうね。年明けから頑張りましょうか」
私にはそれが申し訳なかった。
「……」
不安に苛まれなても仕事には案外身が入るものだ。過去に同じ経験をしたからかも知れないけれど。
今日は念の為に頭痛薬を内服していたが正解だった。もしも、飲まなかったらその痛みに苦しんでいたのが想像できてしまうから。
「あ、お昼」
仕事に集中しすぎていて、昼休憩のチャイムでそれに気がついた。
柏木や他の社員たちが声を掛け合ってフロアから去っていくのを見届けて、弁当を取り出そうと私は鞄の中を見た。
「嘘」
鞄の中が荒らされている事に気が付く。今回は物の位置が変わっている程度では済まなかった。
弁当箱はひっくり返り、ハンカチは破れていた。
ティッシュは細切れにされて無惨に鞄の中で散っている。
どのタイミングでこんな事をしたのだろうか、おそらく鞄を持ち歩けないトイレに行った間に誰かがやったようだ。
幸い何か盗まれた物はなさそうだ。
嫌がらせをしたとしてもその人からすれば、私が悪人だからやって当然だと思っているのかもしれない。おかしな事なのに。
しかし、だからといって私が酔っ払って水津を押し倒した事実は変わらない。その件は私が加害者なのだ。
どうしたらいいのだろう。柏木との関係は良好になりつつあるというのに、私は仕事を辞めないといけないのか。
だけど、私に出来るのはその日まで待つことだけだ。どんなに嫌がらせをされても受け入れるしかない。
どうやら先を越されたみたいだ。
柏木は私に気が付くとニッコリと笑った。
「おはようございます。この前はありがとうございました。楽しかったです」
もしかしたら、わざわざこれを言うためだけに出社したのだろうか?
律儀だが、彼らしいな、と、私は思った。
「こちらこそ、ありがとう。今日は早いのね」
「凛子さんの顔見たくて」
夏休み明けに友達に会いたくて早く学校に来た子供のような事を柏木は言い出す。
わかりやすい好意を出されるとなんだか照れ臭い。
「ありがとう」
「何か悩んでいそうだったから、休みの間、心配だったんです」
柏木は私が悩みを打ち明けられなかった事を気にしていたようだ。
彼の前では隠し事が難しいのかもしれない。
「悩んでても仕事には行くよ?」
思わず口からでてきたのは本音だ。そう、どんなに辛くても仕事には行かないといけないんだ。
「悩んでるのは認めるんですね」
「う、うん」
「解決できるかわからないけど、いつでも相談にのりますよ」
本当に柏木は親切で優しい。なんで今まで疑ったりしていたんだろう。
「ありがとう」
「進藤さんの件は任せて下さい」
柏木なりに進藤の悩みを聞いたり、私との間に入ってうまく人間関係を調整するつもりなのだろう。
私ではなくて柏木みたいな人が上司になるべきだとつくづく思う。
「うん。本当にごめんなさい」
「気にしないで。凛子さんが居なくなったらやっていけないですよ。想像もしたくないけど」
彼にとっては良くない事かもしれないけど、そう思ってくれるなら嬉しい。
「うん、ありがとう」
「もう少し、自分の良さを認めて下さいよ。それに救われてる人間もいるんですから」
柏木はポンポンと私の肩を叩いた。本当に年明け早々、励まされてどうするんだ。
「あ、ありがとう」
「今週も頑張りましょう。ね?」
「う、うん。頑張ろう」
そうだ、今週も頑張ろう。
柏木と話をしている間に少しずつ人がやってきた。
そろそろだろうか、彼女達が来るのは。
「おはようございます」
進藤が水津に腕を絡ませてやってきた。
相変わらず照れたように俯き表情は見えない。進藤はいつも以上に自信ありげに立っていた。ふと、目が合うとフフフと意味ありげに笑いギロリと睨み付けてきた。
水津は予定があると話していたけれど、進藤と一緒に過ごしていたのだろうか、考えないようにしよう。嫉妬でもしたら目も当てられないから。
水津が居なかった日々は少しだけ寂しかったけれど、慣れてしまえばなんともなかった。
あんなに優しくしてくれても、心の中で彼が何を考えているのなんてわからないから。
私との変な噂を水津が肯定しているのか、否定しているのかすらも知らない。
確認しようにも休みの間、彼とは一度も会っていない。
正直にいうと彼が何を考えているのか私にはわからない。
無意識に水津の方に目をむける。
彼も私を見ていたらしくバッチリと目が合う。感情もなく無表情で私を見ている。
空恐ろしい物を私はなぜか感じる。彼の今の表情は出会った時のそれによく似ていたのだ。
そう遠くない未来に私は芋虫のように無様に踏み潰されるのかもしれない。
「……さあ、仕事を頑張りましょうかね」
私を気遣ってなのか、柏木が気分を変えるようにそう言った。
「そうね。年明けから頑張りましょうか」
私にはそれが申し訳なかった。
「……」
不安に苛まれなても仕事には案外身が入るものだ。過去に同じ経験をしたからかも知れないけれど。
今日は念の為に頭痛薬を内服していたが正解だった。もしも、飲まなかったらその痛みに苦しんでいたのが想像できてしまうから。
「あ、お昼」
仕事に集中しすぎていて、昼休憩のチャイムでそれに気がついた。
柏木や他の社員たちが声を掛け合ってフロアから去っていくのを見届けて、弁当を取り出そうと私は鞄の中を見た。
「嘘」
鞄の中が荒らされている事に気が付く。今回は物の位置が変わっている程度では済まなかった。
弁当箱はひっくり返り、ハンカチは破れていた。
ティッシュは細切れにされて無惨に鞄の中で散っている。
どのタイミングでこんな事をしたのだろうか、おそらく鞄を持ち歩けないトイレに行った間に誰かがやったようだ。
幸い何か盗まれた物はなさそうだ。
嫌がらせをしたとしてもその人からすれば、私が悪人だからやって当然だと思っているのかもしれない。おかしな事なのに。
しかし、だからといって私が酔っ払って水津を押し倒した事実は変わらない。その件は私が加害者なのだ。
どうしたらいいのだろう。柏木との関係は良好になりつつあるというのに、私は仕事を辞めないといけないのか。
だけど、私に出来るのはその日まで待つことだけだ。どんなに嫌がらせをされても受け入れるしかない。
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