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「凛子ちょっといい?」
昼休憩になると、柴多がコンビニの袋をぶら下げて声をかけてきた。
そして、いつものようにデスクでお互いの弁当を広げ始める。柴多は私の顔色を伺うようにチラリと一瞥した。
「あのさ、今日。凛子と水津くんの変な噂してた子が『あれは嘘だった。進藤が水津くんと付き合ってるって思い込んで言ってた。私も騙されていたの』って話してたよ。たぶんそのうち噂が広がると思うけど」
柴多は申し訳なさそうに話し出した。
「そう、良かった」
柴多の話を聞きながら水津と一緒に居た女子社員の事を思い出す。
彼と同じ部署であの女子社員はスピーカーだったようだ。
柴多はわざわざこれを言うために来たのだろう。
「……あの子もあの子だ。不確かな情報で変な噂流して、いや、噂を流すのもどうかと思うんだけど。凛子が嫌な思いをしたと思ってるんだ」
この件で女子社員は白い目で見られながら、この会社で過ごすしかなくなるだろう。
進藤に責任を全て押し付けて逃げたが、それなりの報いは受ける事になると思う。
私が『本当の事』を話したらきっと会社にも居られなくなるだろうが、そのつもりはない。
彼女は進藤に騙された被害者だと言い切り自分の保身に走ったが、誰が聞いてもそれは言い訳にしか聞こえない。
彼女が根も葉もない噂を流した張本人なのだから。
それに、水津の言う通りなら進藤を唆してあんな事をさせたのは彼女自身だ。
「そうよね、自分だって人を傷つける事をしておいて被害者なんてどの口が言えるのかしら」
私は気がついたらとても辛辣な言葉を吐いていた。
それは、女子社員にだけじゃない。柴多にもだ。
なぜ、あの吊し上げの場を作っておいて彼だけは何の処分もなかった。自分も被害者だと上に報告したからに決まっている。
恐らく、私を病院に運んだ後に「後処理はオレがする」とかなんとか言って、同期達を口車に乗せて『自分だけが助かる方法』を考えてそれをしたのだろう。
表面だけで見れば真っ先に私を助けて、逃げることもなく説明をしたのも彼だけだから。上は彼の言うことを信じるはずだ。
柴多もグルだ。と、言ったところで、足の引っ張り合いにしか思われないだろう。同期の心象が悪くなるだけだ。
それを見越して柴多は後処理をしてくれたのだと思う。
私は柴多の事が憎くて仕方ない。
ネクタイピンを用意したのも、これで刺してやりたいと心の底でそう思ったからかもしれない。だけど、その反面感謝もしている。
柴多以外の人間が後処理をしたら間違いなく私が悪者にされていたと思うから。助けられたことは事実だ。
「そう、だね」
柴多は自分の事が思い当たったのか、歯切れの悪い返事をした。
「水津君、私のせいで出生コースから外されないかしら?」
私が一番危惧していたのはそれで思わず不安が口から漏れた。
「その点は大丈夫だと思うよ。あの噂はガセだって流れるし、水津君も否定してると思うから凛子は心配しなくていい」
柴多は安心させるように私の肩をポンと叩く。
噂の主が保身の為に必死で否定して回っているのだからある意味安心かもしれない。そう思うことにしないとやってられない。
「それならいいけど」
「俺は凛子の事を信じているから」
柴多は心にも思っていない事を言いながら私の目を見つめた。
本当によく嘘が言えるわ。
昔は騙されて信用しかけたけれど、もう何があっても私は彼を信用することはない。
婚約破棄された直後は私の事を信じてくれた彼に友情を感じていた。だけど、今は違う。
あの女子社員以上の事を彼は私にしたが、それに対しての罪悪感なんて一切感じていないのだろう。
もし、少しでもあったら私の顔なんて見れるわけない。
だけど、彼は平然と私の顔を何度も見に来るのだ。
きっと彼にとって私は踏み潰してもいい芋虫程度にしか思っていないのだろう。
「ありがとう」
私はうっすらと笑って柴多と同じように心にもない言葉を吐き出す。
だけど、これ以上話したらきっと私は彼を責めそうな気がしてきた。
「それにしても、変な噂は流れるのに浮いた話一つもないって悲しいわね」
私は苦笑いして話を逸らした。別に浮いた話なんてなくてもいいけれど、自虐的な話しの方が柴多は喜びそうな気がしてその話を私はした。
「ないの?」
柴多はやや食い気味に私の方に身を乗り出してきた。
「ないわよ?」
私が苦笑いして答えると柴多は納得したように頷いた。
「そっか。そうだよな」
どこか自分に言い聞かせるように柴多は呟いていた。
「オレが本社に行っても、会って……」
それ以上は声が小さくなって聞こえなかった。
「何?」
私は聞き取ることが出来ずに首をかしげながら聞き返すが、柴多は眉間にシワを寄せて何かを考え込むような仕草をした。
「何でもない、その時に話す」
それ以上は何も聞かないで欲しいと言わんばかりに話しを無理矢理終わらせた。
「わかったわ」
そう言われると私は追究できる事なんて出来ずに『わかった』と返事をするしかなかった。
しばらく当たり障りのない話しをして昼休憩はすぐに終わった。
昼休憩になると、柴多がコンビニの袋をぶら下げて声をかけてきた。
そして、いつものようにデスクでお互いの弁当を広げ始める。柴多は私の顔色を伺うようにチラリと一瞥した。
「あのさ、今日。凛子と水津くんの変な噂してた子が『あれは嘘だった。進藤が水津くんと付き合ってるって思い込んで言ってた。私も騙されていたの』って話してたよ。たぶんそのうち噂が広がると思うけど」
柴多は申し訳なさそうに話し出した。
「そう、良かった」
柴多の話を聞きながら水津と一緒に居た女子社員の事を思い出す。
彼と同じ部署であの女子社員はスピーカーだったようだ。
柴多はわざわざこれを言うために来たのだろう。
「……あの子もあの子だ。不確かな情報で変な噂流して、いや、噂を流すのもどうかと思うんだけど。凛子が嫌な思いをしたと思ってるんだ」
この件で女子社員は白い目で見られながら、この会社で過ごすしかなくなるだろう。
進藤に責任を全て押し付けて逃げたが、それなりの報いは受ける事になると思う。
私が『本当の事』を話したらきっと会社にも居られなくなるだろうが、そのつもりはない。
彼女は進藤に騙された被害者だと言い切り自分の保身に走ったが、誰が聞いてもそれは言い訳にしか聞こえない。
彼女が根も葉もない噂を流した張本人なのだから。
それに、水津の言う通りなら進藤を唆してあんな事をさせたのは彼女自身だ。
「そうよね、自分だって人を傷つける事をしておいて被害者なんてどの口が言えるのかしら」
私は気がついたらとても辛辣な言葉を吐いていた。
それは、女子社員にだけじゃない。柴多にもだ。
なぜ、あの吊し上げの場を作っておいて彼だけは何の処分もなかった。自分も被害者だと上に報告したからに決まっている。
恐らく、私を病院に運んだ後に「後処理はオレがする」とかなんとか言って、同期達を口車に乗せて『自分だけが助かる方法』を考えてそれをしたのだろう。
表面だけで見れば真っ先に私を助けて、逃げることもなく説明をしたのも彼だけだから。上は彼の言うことを信じるはずだ。
柴多もグルだ。と、言ったところで、足の引っ張り合いにしか思われないだろう。同期の心象が悪くなるだけだ。
それを見越して柴多は後処理をしてくれたのだと思う。
私は柴多の事が憎くて仕方ない。
ネクタイピンを用意したのも、これで刺してやりたいと心の底でそう思ったからかもしれない。だけど、その反面感謝もしている。
柴多以外の人間が後処理をしたら間違いなく私が悪者にされていたと思うから。助けられたことは事実だ。
「そう、だね」
柴多は自分の事が思い当たったのか、歯切れの悪い返事をした。
「水津君、私のせいで出生コースから外されないかしら?」
私が一番危惧していたのはそれで思わず不安が口から漏れた。
「その点は大丈夫だと思うよ。あの噂はガセだって流れるし、水津君も否定してると思うから凛子は心配しなくていい」
柴多は安心させるように私の肩をポンと叩く。
噂の主が保身の為に必死で否定して回っているのだからある意味安心かもしれない。そう思うことにしないとやってられない。
「それならいいけど」
「俺は凛子の事を信じているから」
柴多は心にも思っていない事を言いながら私の目を見つめた。
本当によく嘘が言えるわ。
昔は騙されて信用しかけたけれど、もう何があっても私は彼を信用することはない。
婚約破棄された直後は私の事を信じてくれた彼に友情を感じていた。だけど、今は違う。
あの女子社員以上の事を彼は私にしたが、それに対しての罪悪感なんて一切感じていないのだろう。
もし、少しでもあったら私の顔なんて見れるわけない。
だけど、彼は平然と私の顔を何度も見に来るのだ。
きっと彼にとって私は踏み潰してもいい芋虫程度にしか思っていないのだろう。
「ありがとう」
私はうっすらと笑って柴多と同じように心にもない言葉を吐き出す。
だけど、これ以上話したらきっと私は彼を責めそうな気がしてきた。
「それにしても、変な噂は流れるのに浮いた話一つもないって悲しいわね」
私は苦笑いして話を逸らした。別に浮いた話なんてなくてもいいけれど、自虐的な話しの方が柴多は喜びそうな気がしてその話を私はした。
「ないの?」
柴多はやや食い気味に私の方に身を乗り出してきた。
「ないわよ?」
私が苦笑いして答えると柴多は納得したように頷いた。
「そっか。そうだよな」
どこか自分に言い聞かせるように柴多は呟いていた。
「オレが本社に行っても、会って……」
それ以上は声が小さくなって聞こえなかった。
「何?」
私は聞き取ることが出来ずに首をかしげながら聞き返すが、柴多は眉間にシワを寄せて何かを考え込むような仕草をした。
「何でもない、その時に話す」
それ以上は何も聞かないで欲しいと言わんばかりに話しを無理矢理終わらせた。
「わかったわ」
そう言われると私は追究できる事なんて出来ずに『わかった』と返事をするしかなかった。
しばらく当たり障りのない話しをして昼休憩はすぐに終わった。
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