芋虫(完結)

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 改めて私は水津に助けられたのだと思いながら午後からの仕事に集中した。
 気分は最悪だ。進藤を感情のままに追い詰めすぎてしまったことが、胸につかえている。
 水津は気にするなとは話していたけれど、あそこまで好きな相手に切り捨てられるのは可哀想だった。
 それに、友人も保身のために進藤に全ての責任を被せた。
 二人でどのようなやり取りをされたのかわからないけれど、二人から裏切られた進藤があの時の自分とどこか重なって見えていた。
 もやもやした気分で仕事をこなしていると、いつの間にか終業時間になっていた。
 それから、私はアパートに帰り熱いシャワーを浴びてベッドに寝そべると、瞼が重たくなって来るのを感じる。
 私はその心地よさを感じながらぼんやりと考え事をする。

 今日、水津とは挨拶程度でいつも通り当たり障りなく接して終わった。
 特に親しげに話しかけられたりはされなかった。水津は進藤がいなくなっても今まで通り変わりなく過ごしていた。
 彼はこれから進藤との噂をどうやって後始末をつけるのか私にはわからなかったし、考えない方がいいだろうと思った。
 きっと彼もあの女子社員と同じように進藤を切り捨てるのだろう。
 信じられないが彼の言い分が正しければ、私と同じように進藤によって迷惑をかけられた人間の一人になるのだろう。

 ……だけど。

 キスをするとか思わせぶりな態度をとっておいて今さら『好きだったかもしれない』と言い切ってしまった水津を私は信じられるわけがなかった。
 好きだと思えた人ですら簡単に切り捨てられる彼が私は怖かった。
 それはいつか私に返ってくる事なのだから。もし、どれだけ水津に惹かれてもきっと根底では信じられないのだと思う。
 何で最初から私の事を嫌っていたのだろうか?まるで憎しみでも向けるようになんで私を抱いたのだろうか?
 その答えがわからない限りきっと水津に不信感を持ち続けるのだと思う。
 面倒な人間になったなとつくづく思う。でも、私の心はあの時にそれだけ壊されたのだ。

 プルルル……。

 私の部屋にスマホの着信音が響く。電話なんて滅多にないのに。気だるさを感じながら身体を起こして、スマホの所定の位置である机に向かった。
 スマホの画面を見ると、そこには非通知と記されていた。
 詐欺とか安全の面で非通知の電話を取るのはかなり勇気のいることだ。
 私はそれを取る事が出来ずに着信音が止むまでしばらく待った。
 非通知の着信は五分ほど鳴り響いて切れた。それは、その日は一回だけで終わった。
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