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「そうですね。婚姻するまでは接触しない。という誓約でいいですか?」

 書きながらネイトに確認を取る。
 当事者に聞かないと、意味がないからだ。

「……え?」

「お茶会の同伴や、夜会のエスコートも正直したくないんでしょう?それなら、婚姻するまで顔を合わせない。とした方がいいと思うんですよね」

「あ、あの、ヘスティアさん」

 ネイトの母が、申し訳なさそうな顔をして私を止めに入った。

「あ、大丈夫ですよ。気にしてませんので、私が婚約者であることを周囲に知られたくないようですから、私はそういった公の場に一切でません。そうすれば彼も過ごしやすいでしょう?」

「ち、ちょっと、ヘスティア!」

 ずけずけとものを言う私に母が慌てて止めに入る。
 だが、気にせず続ける。

「冴えない私の存在が恥ずかしいのでしょう?」

「……いや、そこまで言ってない」

 ネイトはモゴモゴと否定するが、それが腹が立つ。自分は悪者になりたくないのなら、余計なことなど言わずに当たり障りなく接すればよかったのに。

「あら、自分の言葉に責任も取れないのにそんな事を口にしたの?」

「何だと!?そんな無責任な事は言わない!」

 怒るだろうと思いながら、あえて煽るように返すと、ネイトは顔を真っ赤にさせて食いついてきた。

「そうですね。屋敷から一歩も出ないわけにもいかないので、どこかで顔を合わせないように、気がついた方が姿を隠すということでいいですかね?あと、付け加えたい内容はあります?」

「別に」

 ネイトは、私と顔すら合わせずにそう答える。

「そうですか、それなら、私は、もしも、どちらかに好きな人ができたら円満に婚約を解消すると付け加えておきます。よろしいですか?」

「構わない」

 どうでもよさそうな返事に、私は書き上げた誓約書を差し出す。
 念の為に用意してよかった。

「じゃあ、書いたので確認してサインしてください」

「ま、待ってくれ、俺の意志は?」

 ネイトはようやく冗談ではなく、私が本気なのだと気がついたようだ。
 馬鹿なのか、馬鹿だからそんな事を言ったのだろうけれど。やはり、馬鹿なのだと思う。

「……は?なぜですか?嫌な相手と関わらないで済むのならそれに越したことはないでしょう?」

「いや、だから」

「まさか、勝手に婚約者を決められて腹が立ったから、とりあえず私に八つ当たりしたとか子供じみた言い訳なんてしませんよね?貴族の令息とあろう方が幼児まがいのことなんてねぇ?」
 
 私は白々しくネイトを煽る。

「し、しない!」

「それなら、問題ないですよね。読んでください。不備があったら言ってくださいね」

 ネイトに誓約書を差し出して、しっかりと読むように声をかける。
 ネイトは、真剣な表情で誓約書を読むと、難しい顔でサインを始めた。
 私はそれを満足げに見守る。
 面倒な貴族の付き合いとこれでしばらくはおさらばできるのだから儲け物だ。

「早く好きな人が見つかるといいですね。婚約の解消が決まることを祈っております」

 私はにっこりと笑うと誓約書を手に取り、ネイトの顔すら見ずにその場から去っていった。

「お、おい」

 ネイトが声をかけてきたが、婚姻するまでは接見禁止なので無視してやった。
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