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園庭で ①

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 殿下はいいと仰ったけれど、また同じ失敗をしないように、僕はあの日以来、窓に近ずいていない。
 そしてあの日以来、僕の部屋に毎日届けられていた青い花は、届けられなくなった。その代わり、園庭のいろんな花が届くようになる。
 園庭を見なくても、部屋の中でいろいろな花が見られるのは嬉しい。でも、あの青い花が恋しい。僕が一番心寂しい時に、いつもそばにいてくれた、あの青い花。僕を見守ってくれているようだった。
 部屋にとじこもり、部屋にあった本は全て読み尽くした。本から様々な知識は得られたけれど、もう本当にすることがなくなってしまった。でもそんなことは誰にも言えない。
 自然とベッドのヘリにただ座り、家族のこと、孤児院のことを思い出す日々がつづいた。

「ユベール様、お茶はいかがですか?クッキーもありますよ」
 毎日、クロエはお茶と菓子を持ってきてくれ、僕の話し相手をしてくれる。
「ありがとう」
 微笑み、ティーセットが準備されたテーブルに向かう。クッキーを一口食べたけれど、味がしなくて
二口目を食べる前に、皿に戻した。お茶を飲んだが、また味がしなくてティーカップをソーサーの上に戻す。
「お口に合いませんでしたか?」
 クロエは冷めたお茶を入れ直してくれる。
「そんなことはないよ。とても美味しい」
 もう一口食べた。味はしなかったけれど、せっかくクロエが僕のことを心配して用意してくれたもの。残すのはわけには、いかない。
 口の中でもそもそするクッキーを、お茶で流し込んだ。
「ユベール様、もう園庭は見られないのですか?」
 まだクッキーは残っていたが、クロエが下げながら訊いた。
「うん。もう同じ間違いはできないからね」
 誰の手も煩わせないようにしないといけない。
「僕はここにいるだけで、誰のなんの役にもたっていない」
 そういうと、
「そんなこと思わないでください」
 クロエが僕の手を取る。
「私は優しくて、一緒にいてくださるだけで癒してくださるユベール様が大好きです」
「僕もクロエが大好きだよ」
 この後宮で心を許せるのは、クロエだけ。
「ユベール様は殿下のことは、お好きですか?」
「え?」
「私は殿下はユベール様のことが、大好きだと思います」
「殿下が?僕のことを?そんなのありえないよ」
「どうして、そう思われるのですか?」
 どこからかクロエは、部屋に飾る新しい花束を持ってきた。
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