Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第七話 美女と最強の獣(4)

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 だからシャロンは迎え討つことにした。

「鋭ぃぃっや!」

 飛び掛ってきた豹を針で一閃。
 斜めに振り下ろす袈裟の軌道で放たれた針が、豹の体を胴の内部にあるエネルギー源である核の球まで真っ二つに切り裂く。
 これで感電の危険性は激減した、シャロンはそう思っていたゆえに、直後に降りかかってきた残骸の糸束をその身で受けたのだが、

「っ!」

 瞬間、得たいの知れない痛みが走った。
 火傷した?! 一瞬そう思った。
 その感覚は直後に修正された。
 正しくは熱いのでは無く冷たい、であった。
 火傷と錯覚するほどの冷却魔法。
 それが糸に練りこまれていたのだ。

 冷却魔法、それは体内の熱エネルギーを処理するために用いられている神秘。
 ゆえに全人類が有している神秘であるが、攻撃に使えるほどの強度で、かつ体外に放出出来る人間は意外にも少ない。

 だが、それだけならばシャロンは驚かなかった。
 問題は事前に察知できなかったことだ。心を読めなかったことだ。
 シャロンやサイラスなどが相手の心を読めているのは、受信した相手の脳波を解析しているからである。
 生まれつき持っている機能の使用を読み取るのは簡単である。本能や方向認識などの生存に基づく基本機能や魔法などがそうだ。これは神経回路が人類共通のものとなっているため、波形がみな同じなのだ。
 理性など、成長と共に発達する神経網の解析は少し手間取る。神経網にオリジナリティがあるため波形に個性が生じるのだ。
 今回の場合は冷却魔法であったので容易に読み取れるはずだった。
 だが、被弾するまでわからなかった。なぜか。それは、

(暗号化か!)

 だと、シャロンは答えを心の声で響かせながら、迫る爪を斬り払った。
 その証拠はキーラの頭の中で輝いていた。まるで星空のように煌いていた。
 虫の集合体の輝き。
 脳のある部位で作られている虫は神経網の代わりにもなれるのだ。
 だから処理を変えずに脳波を加工する、なんていう芸当も出来る。
 だが、キーラが使っている手はもうシャロンには通じない。
 結局、脳波を変えているだけであり、冷却魔法の神経回路自体は使われているからだ。
 どこの回路が動いたのか、その位置を調べるだけでいい。脳波を解析するまでも無い。
 はっきり言って、騙し技としては安っぽい。
 自分ならばこんな一度しか通じない手は使わない。
 自分ならば、冷却魔法の回路そのものを虫で別の場所に移植して使う。
 そしてその回路も普段はバラバラにしておき、必要な時だけ結合させる。
 当然暗号化も施す。まるで秩序の無い混沌のように見せかける。そう、『前の私のように――』

「……!?」

『前の私』、その言葉が響いた瞬間、シャロンの思考は止まった。
 まるで霧がかっているかのように、その先が浮かばなかったからだ。
 どうして――高速演算をもってしても、その答えを探す余裕はいまのシャロンには無かった。
 そしてやはり、魔王の称号を継ぐ者の冷却魔法は別格であった。
 糸との接触時間はわずかであったにも関わらず、確実に凍傷になることがわかる強度。
 直撃すればそれだけで行動不能になりかねない。
 さらに、もう二匹目がこちらへと向かってきている。もう三匹目が生み出されつつある。
 大きく動けない乱戦状態ではあの人形の突進を無傷でやり過ごすことは難しい。
 だからシャロンは一度集団の中から抜け出そうとした。
 それを当然のように影達の爪が阻む。
 針で迎え討つが、冷却魔法のせいで手足の反応が鈍い。
 背後から冷気を纏った豹が迫り、シャロンの背中に冷たい汗が流れ落ちる。
 この豹を無力化するには即座に行動に移す必要があった。
 防御魔法を展開し、その中心に針を向ける。
 が、

「っ!」

 針で対処する予定だった影の一撃が、シャロンの右肩に赤い線を引き残した。
 シャロンはその痛みと引き換えに、

(消し飛びなさいっ!)

 襲い掛かってきた豹とその周囲にいた影達を、光る嵐で散り飛ばした。
 眼前が閃光に包まれ、赤い雨が降る。
 されど、この攻撃は型が突きに限定されるゆえに、背後はがら空きになる。
 直後、

「蛇ッ!」「っ!」

 その隙を突いて放たれた影の爪がシャロンの背中をなぞった。

「く……鋭ィッヤ!」

 背中に刻み込まれたその痛みを振り払うように、回転切りを一閃。
 回転しながら同時に左手で防御魔法を展開。
 次の目標は三匹目の豹では無かった。
 安全な場所に逃げ込まなくてはならない。このままではジリ貧。
 包囲を突破する必要がある。
 ゆえに初手は、

(散れぇッ!)

 という心の声を響かせながら、シャロンは下に向けた防御魔法に針を突き立てた。
 シャロンを中心とした光の嵐が生まれ、周囲をなぎ払うように旋回しながら広がっていく。
 これに影達はシャロンの言葉通りに動いた。
 迫る嵐から全力で距離を取る。

「ぐああっ!」

 逃げ遅れた者の悲鳴がその足をさらに急かす。
 そしてシャロンはその光の嵐の中で次の防御魔法を展開し、

「邪魔よッ!」

 そこをどけ、という思いをのどから響かせながら、嵐の中から飛び出した。

「「!?」」

 シャロンの進行方向にいる影達が慌てて跳び退く。
 だがこれはただの脅しであった。
 その盾の使い道はもう決まっていた。
 そして使う相手はもう真後ろにまで迫っていた。
 背後に迫ったそれがシャロンの背中めがけて跳躍した瞬間、

「破ッ!」

 シャロンは振り返らず、再び下に向けて針を突き立てた。
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