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51.前途多難な予定(前)
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「んー……」
あぁ、この二日酔い特有の気怠さ。昨日はちょっと飲み過ぎたってことね。
ぼんやりとした頭で起き上がった私は、とりあえずトイレに向かう。
「大丈夫か、足元に気をつけろ」
「わかってるー……」
これでもれっきとした成人なので、飲み過ごした後で転倒してケガするなんて、後々まで心の傷になりそうな黒歴史は作らないのだ。黒歴史滅すべし、慈悲はない。
「……は?」
出すもの出してスッキリして、ついでに顔も洗ったところで、初めてその違和感に気が付いた。
私、今、どこから起き上がった? そして起き抜けの私に声を掛けたのは誰?
「え、ちょっと待って、なんで?」
「なんでも何も、寝室に入るなと言われている以上、リリアンを運び入れるわけにはいかないだろう」
「いや、違う。そうじゃなくて……」
まだ二日酔いが残る頭では、上手く状況と言葉がまとまらない。とりあえず、私が寝室ではなく、いつも酒盛りをしているリビングダイニングのソファで寝落ちていたことは分かる。問題は、目の前のこの男が昨晩どこで過ごしていたか、だ。
「治癒魔法いるか?」
「えぇ、お願い。ちょっと二日酔いみたいで……って、思い出した! そもそもヨナが私を眠らせたんじゃない!
治癒魔法によってクリアになった私の灰色の脳細胞はちゃんと大事なことを覚えていた。
もはや酒盛りの場というだけでなく、共用スペースになってしまっているリビングダイニングをぐるりと見回す。キッチンの方までチェックして、うん、と頷いた。昨日の酒盛りの残り香はない。グラスもあるべきところに収まっている。
「片付けはちゃんとしてくれたのね、ありがとう」
「リリアンが心配しそうなところは分かるようになってきたぞ」
「で、出勤は?」
「これから行く。あぁ、明後日にギース子爵領に行くからな。入用なものがあればマックに言付けておけ」
「え?」
私の困惑の声に「分かったな」とだけ告げ、ヨナは早々に出て行ってしまった。
「え、と、どういうこと?」
一人残された私は、部屋の隅にある時計を見る。この時計、城の地下で管理されている大掛かりな水時計の映像をライブで投影する魔道具なんだけど、ハイテクなのかローテクなのかいつも混乱するのよね。前世では水時計なんて博物館クラスの歴史的遺物かちっちゃいオモチャでしか目にしなかったのに、それをライブ映像で確認する、だなんて。王城内全てで同じ水時計のライブ画面を見ているなら、時計が遅れてた、なんてことにはならないという点だけは合理的だと思うけど。
いや、今はそこじゃない。時間を確認すれば、出勤時間ギリギリまで私が起きるのを待っていたことが分かる。……別に、マックさんに伝言でも預けておけばいいと思うのよ。わざわざ起きるのを待つとか、非合理的と言うか。
「って、別に強がる必要もないか」
わざわざ起きるのを待ってくれたことはポイント高い、そういうことにしておく。
意地っ張りとか、そういうんじゃないから。
――――簡単に身支度を整えて、マックさんが常駐している塔の入口近くの部屋へ向かうと、階段を降りるのが聞こえたのか、声を掛ける前にドアを開けてくれた。
「リリアン嬢、何かありましたか?」
「ちょっと確認したいことがあるのだけど、時間いただいてもよろしいかしら?」
「えぇ、もちろんです。ヨナ様からはリリアン嬢を何よりも優先するよう申し付かっておりますから」
部屋に招き入れてくれたマックさんは、何やら書類仕事をしていた手を止めて、部屋に招き入れてくれた。絶対にヨナから面倒な事務仕事とか押し付けられているに違いない。手短に済ませなければ。
「あの、明後日にギース子爵領に行くと言われたのだけど、どうしてそうなっているのか経緯を教えていただけるかしら」
「……ヨナ様からは、他に何と?」
「本当に行くとだけしか聞いていないのよ」
マックさんは私が見て分かるほど深く大きなため息をついた。いや、本当にヨナ付きってだけで不憫なのよね。あの傍若無人な振る舞いの尻拭いだけでも、相当な心労がかかっているんじゃないかしら。
あぁ、この二日酔い特有の気怠さ。昨日はちょっと飲み過ぎたってことね。
ぼんやりとした頭で起き上がった私は、とりあえずトイレに向かう。
「大丈夫か、足元に気をつけろ」
「わかってるー……」
これでもれっきとした成人なので、飲み過ごした後で転倒してケガするなんて、後々まで心の傷になりそうな黒歴史は作らないのだ。黒歴史滅すべし、慈悲はない。
「……は?」
出すもの出してスッキリして、ついでに顔も洗ったところで、初めてその違和感に気が付いた。
私、今、どこから起き上がった? そして起き抜けの私に声を掛けたのは誰?
「え、ちょっと待って、なんで?」
「なんでも何も、寝室に入るなと言われている以上、リリアンを運び入れるわけにはいかないだろう」
「いや、違う。そうじゃなくて……」
まだ二日酔いが残る頭では、上手く状況と言葉がまとまらない。とりあえず、私が寝室ではなく、いつも酒盛りをしているリビングダイニングのソファで寝落ちていたことは分かる。問題は、目の前のこの男が昨晩どこで過ごしていたか、だ。
「治癒魔法いるか?」
「えぇ、お願い。ちょっと二日酔いみたいで……って、思い出した! そもそもヨナが私を眠らせたんじゃない!
治癒魔法によってクリアになった私の灰色の脳細胞はちゃんと大事なことを覚えていた。
もはや酒盛りの場というだけでなく、共用スペースになってしまっているリビングダイニングをぐるりと見回す。キッチンの方までチェックして、うん、と頷いた。昨日の酒盛りの残り香はない。グラスもあるべきところに収まっている。
「片付けはちゃんとしてくれたのね、ありがとう」
「リリアンが心配しそうなところは分かるようになってきたぞ」
「で、出勤は?」
「これから行く。あぁ、明後日にギース子爵領に行くからな。入用なものがあればマックに言付けておけ」
「え?」
私の困惑の声に「分かったな」とだけ告げ、ヨナは早々に出て行ってしまった。
「え、と、どういうこと?」
一人残された私は、部屋の隅にある時計を見る。この時計、城の地下で管理されている大掛かりな水時計の映像をライブで投影する魔道具なんだけど、ハイテクなのかローテクなのかいつも混乱するのよね。前世では水時計なんて博物館クラスの歴史的遺物かちっちゃいオモチャでしか目にしなかったのに、それをライブ映像で確認する、だなんて。王城内全てで同じ水時計のライブ画面を見ているなら、時計が遅れてた、なんてことにはならないという点だけは合理的だと思うけど。
いや、今はそこじゃない。時間を確認すれば、出勤時間ギリギリまで私が起きるのを待っていたことが分かる。……別に、マックさんに伝言でも預けておけばいいと思うのよ。わざわざ起きるのを待つとか、非合理的と言うか。
「って、別に強がる必要もないか」
わざわざ起きるのを待ってくれたことはポイント高い、そういうことにしておく。
意地っ張りとか、そういうんじゃないから。
――――簡単に身支度を整えて、マックさんが常駐している塔の入口近くの部屋へ向かうと、階段を降りるのが聞こえたのか、声を掛ける前にドアを開けてくれた。
「リリアン嬢、何かありましたか?」
「ちょっと確認したいことがあるのだけど、時間いただいてもよろしいかしら?」
「えぇ、もちろんです。ヨナ様からはリリアン嬢を何よりも優先するよう申し付かっておりますから」
部屋に招き入れてくれたマックさんは、何やら書類仕事をしていた手を止めて、部屋に招き入れてくれた。絶対にヨナから面倒な事務仕事とか押し付けられているに違いない。手短に済ませなければ。
「あの、明後日にギース子爵領に行くと言われたのだけど、どうしてそうなっているのか経緯を教えていただけるかしら」
「……ヨナ様からは、他に何と?」
「本当に行くとだけしか聞いていないのよ」
マックさんは私が見て分かるほど深く大きなため息をついた。いや、本当にヨナ付きってだけで不憫なのよね。あの傍若無人な振る舞いの尻拭いだけでも、相当な心労がかかっているんじゃないかしら。
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