英雄の番が名乗るまで

長野 雪

文字の大きさ
65 / 67

65.ドレスを仕上げよう

「いいから手を離しなさい! これからユーリさんはドレスのフィッティングなのよ? それともお披露目でユーリさんに恥をかかせる気なの?」

 王妃のもっともな説教に、ようやくフィルはユーリの手を離した。番の誓約を交わしたことで、少しはユーリに対する執着が治まるかと思いきや、逆に「ようやく自分の番だと大手を振って主張できる!」と振り切れてしまったのか、ユーリをとにかく自分の傍らに置きたがるようになってしまったフィルに、王妃はげんなりとした。

「本当に、うちのバカ息子が、迷惑をかけているわ」
「あの、謝らないでください。私も受け入れてしまっているので」
「そう言ってくれると助かるわ」

 二人のいる室内では、ようやく仮縫いの終わった衣装を着せることができる、と、ヒヤヒヤしながら成り行きを見守っていたお針子達が忙しなく動き始めていた。
 お披露目、というのはユーリが彷徨い人であることを各国に知らせることと同時に、フィルの番であることを知らしめるものだ。彷徨い人の言語理解能力や異世界知識は富をもたらすことが多く、それゆえに占有されることを禁じられてきた。それゆえに保護した国は早々にそれを発表し、平等にその恩恵を得られるよう調整するのだ。面倒な役回りに聞こえるかもしれないが、調整のさじ加減はその国次第であり、よほどあからさまに自国に偏った調整をしない限り、非難されることはない。下手に非難すれば、悪い印象を与えてしまい、不利に調整されかねないからだ。
 そもそも、いち早く彷徨い人を発見した者がこっそり隠してしまえばどうとでもなるんじゃないかとユーリは疑問に思ったが、世の中が平穏であれば、各国の抱える占者によって早々に発見されてしまうものなのだと聞いて、また少し常識の違いを痛感させられた。

「いかがでしょうか。動きにくいところなどございますか?」
「そうね。ユーリさん、少し歩いてみて貰える?」

 慣れないヒールと足元の見えないドレスにヒヤヒヤしながら、ユーリは真っ直ぐに歩いてみる。用意された大きな鏡には、白銀の光沢を持つ生地に、藍色のオーガンジーのような薄い生地が重ねられたマーメイドラインのドレスを着た自分が映っている。一生のうちに着れるかどうかも分からない高価そうなドレスに気が遠くなる思いだった。

「少し、デザインの変更が必要そうね」
「妃殿下もそうお思いですのね。やはり、お顔が少し若返られてしまったことで、違和感が出てしまっております」

 デザイナーと王妃の言わんとすることはあまり理解できないが、番の誓約によってフィルの年齢に引きずられて若くなってしまったユーリには、少し背伸びしたデザインになってしまっている、ということらしかった。

「でも、ジェノサイドスパイダーシルクの生地なんて、早々手に入るものでもないし、今から大幅な変更はきかないでしょう?」
(なんて物騒な名前の生地!)
「ラインの大幅な変更は納期の面からも厳しいと言わざるをえません。ですが、こちらのクラウドマッシュルームコットンで腰のあたりに大振りのリボンを付けてみては――――」
(キノコ? キノコから綿が採れるの?)
「悪くはないけれど、それならばデコルテのラインをビスチェではなくオフショルダーにしてもいいのではないかしら」
(ごめんなさい、そもそも私の知識がないせいで、翻訳できていても謎単語に聞こえます!)
「そうですね。そうなると肩に羽織るショールのデザインも変更を加えた方がよいでしょう」
(ショール? ふわっと羽織るだけのショールにデザインも何も関係あるの?)

 ユーリは自分が諦めで半眼になってやしないかと心配した。もはや自分が口を突っ込んでいいジャンルではない。自分の役目は言われた通りに動くマネキンなのだと悟ったのだ。

(そもそも、このベースを決めるときも、いかにフィルさんの色を取り入れるか、っていうところからスタートしてたし……)

 ドレス生地の白銀の光沢はフィルの鱗に似ているものを、そこに重ねられた藍色はフィルの髪色だ。ハーフアップする予定の髪に添えられる飾りも、銀の土台にラピスラズリやサファイアをはめ込んだものだ。ちなみに、フィルが着るのはユーリの髪色である黒をベースにした詰め襟の軍服っぽいデザインの上下だ。その生地を選ぶときに、フィルの口から「烏の濡れ羽色のような」などという比喩が出て来たのには驚かされた。ユーリは自分の髪をそんなふうに形容されたことなどないし、そもそもフィルがそんな詩的な比喩を知っていたこと自体が驚きだった。そんな形容をされたせいで、フィルの纏う服の生地もブラックエンパイアシープという貴重な魔獣の毛を織ったものになっていたりする。その魔獣の名前を聞いたときのユーリは、羊に対してご大層な形容がついていることに笑いを堪えるのが大変だった。なんたって、黒いし皇帝だ。

 そんなこんなで、ユーリを置いてけぼりにして決まったデザインに、最終確認にやってきたフィルが悶絶した後、「こんなに愛らしいユーリを大勢に見せるなんてとんでもない!」と絶叫したのはご愛敬である。

感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

【完結】悪役令嬢は番様?

水江 蓮
恋愛
ある日ぼんやり鏡を見ていたら、前世の記憶を思い出したツェツリア8歳。 この世界は人気乙女ゲームの世界であり自分の役どころは悪役令嬢だと…。 まだ悪役令嬢として活動していないから、まだ挽回できるはず! え? 誰が誰の番? まず番って何? 誰か何がどうなっているのか教えて!!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。 家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。 国王の政務の怠慢。 母と妹の浪費。 兄の女癖の悪さによる乱行。 王家の汚点の全てを押し付けられてきた。 そんな彼女はついに望むのだった。 「どうか死なせて」 応える者は確かにあった。 「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」 幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。 公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。 そして、3日後。 彼女は処刑された。