完 小指を握って呼びかけて

水鳥楓椛

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王子さま

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「………………?」

 いつまで経っても痛みがやってこないことに違和感を覚えたユティカが視線を上げた先には、共に卒業する留学生の背中。

「———この国の王太子殿は、無抵抗なうら若き乙女に手を挙げるような、どうしようもない下衆であったか」

 留学生の青年が発する地を這うような低い声に、ユティカはぱちぱちと瞬きを重ねる。

「貴様っ!!何様のつもりだ!!」

 留学生の漆黒の短髪が鈍く輝く。
 彼によって軽々と押し留められていたレオナルドのナイフが床へと投げ出される。それに従い、身に纏っていた肩掛けジャケットがばさっと音を立てて広がり、内側に身につけている軍服の胸にある徽章をあらわにする。

「………名乗りが遅れたようで申し訳ない。俺の名はアオライト・グレン・ラインバード。ライバート帝国第3皇子だ」
「———は?………………お、お前が、先の戦争でたった1人で1部隊を壊滅させたという血塗られた第3皇子?ば、ばかも、休み休み」
「冗談に聞こえたのであれば、お前は大層救いようの無い耳を持っているようだな」

 深い海色の瞳を細め全身に殺気を纏ったアオライトに、毒気を抜かれて怯え切っているレオナルドは、顔色を真っ青にし、1歩、また1歩と遠ざかっていく。

「好いた女を大事にできない男など、生きる価値も無い。これ以上俺を不快にさせる前に、早々に失せろ」
「ひ、ひいぃっ!!」

 自分自身にその視線を、殺気を、声を向けられているわけでは無いのに、全身が激しく震える。正常な判断ができなくなる。
 ユティカはふるふると震えながら、けれど、ずっとずっと感じている感覚に内心首を傾げていた。

「お、覚えてろよっ!!」

 三流の悪役にも満たない捨て台詞を叫んで会場から走り去ったレオナルドを横目に、ユティカはゆっくりとカーテシーをする。

「………助けていただきありがとうございました、アオライト殿下。このご恩、決して忘れません」

 全身にびりびりと突き刺さるありとあらゆる人の視線が、痛い、辛い。

「………ユティカ公爵令嬢、断りにくい場面であることは重々承知しているのですが、もしよろしければ、俺にあなたの時間を少しばかりいただけませんか?」

 先程とは打って変わってとても優しい海色の瞳が、表情が、甘やかにユティカへと注がれる。

「はい」

 自然と頷いたユティカは、そのままアオライトによって奥の小部屋へと連れて行かれたのだった———。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
次の話は9時更新です!!

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