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婚約破棄
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▫︎◇▫︎
~時は遡り1週間前~
「フローラ・オパール。権力にしがみつく卑しい女め!私の愛おしい人を虐めるなど言語道断!腐り切った根性を持った人間を小久保に吸えることなどできぬ!今この瞬間を以て婚約を破棄する!!」
俺の目前で広がっているこの地獄絵図はなんだろうか。
いまにも泣きそうな、焦燥たっぷりな表情で両手を握りしめている、緩やかに波打つプラチナブロンドの髪に若葉色の瞳の美少女フローラ・オパール公爵令嬢。
対峙するのは真っ赤でドス黒い感じの華やかな美女の腰を抱いた、太陽のような黄金の髪に瑠璃の瞳を持つ美丈夫である兄のバディー・ルティアス。
王位継承のために結ばれた政略結婚が一方的に破棄されている状況に、俺の魂は口から出て行った。
「………わたくしはこのような非道なことのために呼び出されたのでしょうか」
「は?婚約者の呼び出しに理由など必要か?あぁ、間違えた。元婚約者だったな」
嘲笑う兄上の姿に、俺の魂は天高く登りたくなる。
パステルグリーンの色彩が優しいプリンセスラインのドレスを身に纏ったフローラ嬢は、顔を床へと向けると深々と頭を下げた。
「婚約破棄、承知いたしました。では、わたくしは」
「帰すわけないだろう?」
「え………、」
「そのブレスレットを渡せ。エレインがそのブレスレットを欲しているんだ」
「これは、亡くなった母の形見で」
「関係ない。お前は彼女の大事なドレスを破ったのだから」
「きゃっ!」
兄上がフローラ公爵令嬢の腕を強く掴み、ブレスレットを奪い取った。
その拍子に彼女は床に転がされ、足を挫いてしまったのか座り込んでしまっている。
「はっ、こんな安物エレインには相応しくないな」
瞬間、あろうことか兄上は床にブレスレットを叩きつけ、バキリと踏み砕いた。
「っ、おかあ、さま………、」
ぼろぼろと涙をこぼす麗しの妖精姫フローラ公爵令嬢に、俺の心の絶叫はピークを超える。
(あぁ、王家終わったな………、)
フローラの実家たるオパール公爵家は、建国以前より続く由緒正しき家柄だ。
オパール公爵家と王家に年齢が近い子供が生まれた場合、必ず結婚させるほどにその関係性も強い。
よって、オパール公爵家と縁を結ぶことイコール王家を継ぐと言っても過言ではないほどだ。言い換えれば、オパール公爵家の庇護がない場合、王家を継ぐことなんてできない。
(馬鹿兄貴が王家を継げなくなったのはまあよしとしても、この行いはヤバい)
現公爵が家族を溺愛している。
特に亡くなった公爵夫人と末娘であるフローラへの愛情っぷりは、他国でも有名なほどだ。
兄上は、そんな亡くなった公爵夫人が身につけていたという形見のブレスレットを公衆の面前で踏み抜いて粉々に壊した挙句、現在進行形で床に転んでしまって泣きじゃくっているフローラ公爵令嬢の髪を掴んで無理矢理上を向かせている。明らかな冤罪の婚約破棄もよろしくない。
(………国家滅亡で済んだらいいな………、)
物騒なことを考えていたら、舞踏会はあっという間に終わった。
フローラ公爵令嬢はお付きの侍女によって回収され、邸宅へと帰宅。
兄上は犯した罪の重大さゆえに、即刻大事なものを切られた上で北の鉱山に突っ込まれた。その日のうちに断末魔のような絶叫が聞こえたらしいが、俺の預かり知るところではない。
フローラから兄上を横恋慕した赤レンジャーのエレイン伯爵令嬢は、実家取りつぶしの上に、本人は娼館送りになったらしい。逞しい彼女はものの数日で娼館のトップに上り詰めたそうだが、それはまた別のお話。
俺は、いつ自分が消されるのかとビクビクしながら過ごした。
しかしながら、いつまで経っても消されないし、それどころかオパール公爵家からの報復もない。
さてどうしたものかと思い、そして、自分は無関係な人間でいられたと歓喜し始めた日、俺は父上に呼び出された———。
*******************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
~時は遡り1週間前~
「フローラ・オパール。権力にしがみつく卑しい女め!私の愛おしい人を虐めるなど言語道断!腐り切った根性を持った人間を小久保に吸えることなどできぬ!今この瞬間を以て婚約を破棄する!!」
俺の目前で広がっているこの地獄絵図はなんだろうか。
いまにも泣きそうな、焦燥たっぷりな表情で両手を握りしめている、緩やかに波打つプラチナブロンドの髪に若葉色の瞳の美少女フローラ・オパール公爵令嬢。
対峙するのは真っ赤でドス黒い感じの華やかな美女の腰を抱いた、太陽のような黄金の髪に瑠璃の瞳を持つ美丈夫である兄のバディー・ルティアス。
王位継承のために結ばれた政略結婚が一方的に破棄されている状況に、俺の魂は口から出て行った。
「………わたくしはこのような非道なことのために呼び出されたのでしょうか」
「は?婚約者の呼び出しに理由など必要か?あぁ、間違えた。元婚約者だったな」
嘲笑う兄上の姿に、俺の魂は天高く登りたくなる。
パステルグリーンの色彩が優しいプリンセスラインのドレスを身に纏ったフローラ嬢は、顔を床へと向けると深々と頭を下げた。
「婚約破棄、承知いたしました。では、わたくしは」
「帰すわけないだろう?」
「え………、」
「そのブレスレットを渡せ。エレインがそのブレスレットを欲しているんだ」
「これは、亡くなった母の形見で」
「関係ない。お前は彼女の大事なドレスを破ったのだから」
「きゃっ!」
兄上がフローラ公爵令嬢の腕を強く掴み、ブレスレットを奪い取った。
その拍子に彼女は床に転がされ、足を挫いてしまったのか座り込んでしまっている。
「はっ、こんな安物エレインには相応しくないな」
瞬間、あろうことか兄上は床にブレスレットを叩きつけ、バキリと踏み砕いた。
「っ、おかあ、さま………、」
ぼろぼろと涙をこぼす麗しの妖精姫フローラ公爵令嬢に、俺の心の絶叫はピークを超える。
(あぁ、王家終わったな………、)
フローラの実家たるオパール公爵家は、建国以前より続く由緒正しき家柄だ。
オパール公爵家と王家に年齢が近い子供が生まれた場合、必ず結婚させるほどにその関係性も強い。
よって、オパール公爵家と縁を結ぶことイコール王家を継ぐと言っても過言ではないほどだ。言い換えれば、オパール公爵家の庇護がない場合、王家を継ぐことなんてできない。
(馬鹿兄貴が王家を継げなくなったのはまあよしとしても、この行いはヤバい)
現公爵が家族を溺愛している。
特に亡くなった公爵夫人と末娘であるフローラへの愛情っぷりは、他国でも有名なほどだ。
兄上は、そんな亡くなった公爵夫人が身につけていたという形見のブレスレットを公衆の面前で踏み抜いて粉々に壊した挙句、現在進行形で床に転んでしまって泣きじゃくっているフローラ公爵令嬢の髪を掴んで無理矢理上を向かせている。明らかな冤罪の婚約破棄もよろしくない。
(………国家滅亡で済んだらいいな………、)
物騒なことを考えていたら、舞踏会はあっという間に終わった。
フローラ公爵令嬢はお付きの侍女によって回収され、邸宅へと帰宅。
兄上は犯した罪の重大さゆえに、即刻大事なものを切られた上で北の鉱山に突っ込まれた。その日のうちに断末魔のような絶叫が聞こえたらしいが、俺の預かり知るところではない。
フローラから兄上を横恋慕した赤レンジャーのエレイン伯爵令嬢は、実家取りつぶしの上に、本人は娼館送りになったらしい。逞しい彼女はものの数日で娼館のトップに上り詰めたそうだが、それはまた別のお話。
俺は、いつ自分が消されるのかとビクビクしながら過ごした。
しかしながら、いつまで経っても消されないし、それどころかオパール公爵家からの報復もない。
さてどうしたものかと思い、そして、自分は無関係な人間でいられたと歓喜し始めた日、俺は父上に呼び出された———。
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