転生冒険者の異世界ライフ

chikuwabu

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あまり売れることもないだろうと思っていた木工品は、製作スキルの高さと装飾の素晴らしさが評価されてチェストやテーブルセットなど富裕層向けの家具の製作依頼が増えてゴードンは忙しい日々を送っていた。
とはいえ金を稼ぐために家庭を犠牲にすることはゴードンの主義に反していたし、トールマンとしても適当な仕事で質の悪い仕事をされることは何よりも嫌いなことだったから生産数は限られ、より高値が付く状態となっていた。

「ねぇ、父さんはどうしてそんなに上手にテーブルを作ったり、キレイな装飾を彫ったり出来るの?」
ローレンスも5歳を迎えて朝からゴードンの手伝いをするようになっていた。

「それはな、昔エルフの森に行ったときに教わったんだ。エルフは基本的に弓を好んで使うのは知ってるだろ?だから弓を加工する技術から木工のスキルも高くてオシャレを好むからその装飾のスキルもまたとても高いんだ。」
「いつか僕もエルフの森に行けるかな?」
「しっかりと鍛錬をすればお前なら世界のどこにだって行けるようになるさ。そんなお前には5歳の祝いにこれをやろう。」
ゴードンは工具棚に置いてあった包みを持ってくるとローレンスに手渡した。
「開けていい?」
「もちろん。」
許しをもらってローレンスは包みを開けると一振りの剣が出てきた。
鞘から引き抜くと一片の曇もない刀身は陽を浴びて光り輝き、鍔にはゴードンの家系であるアイヒホルン家の紋章が彫り込まれていた。

「ありがとう、父さん。すごくかっこよくて強そうだよ。大事にするね。」
「おう。仕事の手伝いも日々の鍛錬もよく頑張っているからな。」

早速振り回してはしゃぐローレンスに釘を差すようにゴードンは言った。
「力を持つものは、より他に対して優しくならなければならない。力に傲ってはいけない。いいな?」
「はい、父さん。」
「後はたくさん失敗して学んで行けばいい。失敗することは恥ずかしいことじゃない。恥ずかしいのは失敗を恐れてその一歩を踏み出せない奴だ。」
ゴードンの言葉に早く剣を使いに飛び回りたいローレンスはうわの空で返事をしているのをみかねたゴードンは「よし、早速行って来い。」とローレンスを送り出した。


腰から剣を下げると山道を駆け登り、いつも木を切り出している場所から更に登ると大木の森を抜けて高原へと出た。
そこには一面草が青々と茂り、ススキのような植物が風に揺られて陽の光で金色に輝いていた。

真ん中を横切るように続く一本道を周りに注意を払いながら進んでいくと小高くなった丘の先から悲鳴が聞こえた。
ローレンスはすぐさま声の方に駆け出すと、荷馬車がダイアウルフの群れに襲われていた。

驚いた馬が暴れたのかそのまま岩に衝突して前に乗っていた2人は投げ出さたところをダイアウルフに襲われたのか既に絶命しているようだった。
しかし、おかしな事に荷台はまるで檻のように改造が施されていてその中には小さな女の子がひたすら恐怖に怯え泣きじゃくっている姿が見える。

どういう状況なんだ…?

ローレンスはいまいちこの状況が飲み込めなかったが、檻の中で泣きじゃくる女の子を救わねばならない。と取り囲む3匹のダイアウルフに立ち向った。

ダイアウルフもまたローレンスの殺気を感じ取ると檻を取り囲む形からローレンスに相対して間隔を広く取る陣形へ散開して低く「グルルルル」と喉を鳴らすような威嚇の声を上げた。

斬りかかるべきかダイアウルフの出方を見てから動くか迷っているうちに奥に居た一匹が号令をかけるように吠えると二匹は同時にローレンス目掛けて左右から襲いかかった。

先手を取られたローレンスは一瞬たじろいだが腰を落として剣を掴むと引き抜きざまに左のダイアウルフの腹を切り裂いた。
剣の切れ味は抜群だ。
腹を切り裂かれたダイアウルフはそのまま鮮血を撒き散らしながらドスンと地面に落ち、もう一匹は着地するとすぐさま向きを変えて今度はそのまま突進してローレンスの脚を狙う。

ギリギリのところでかわしたローレンスだが、バランスを崩してよろけるとチャンスとばかりにダイアウルフは飛びかかってきた。

ぐっ…。

咄嗟に身を守ろうと出した左腕をダイアウルフが噛み付いた。
ローレンスの服には血が滲み出し、ダイアウルフは噛み付いたまま引きちぎろうと大きく身体を揺らしたところでローレンスはその大きなダイアウルフの身体に右手一本で残る力をすべて込めて剣を突き刺した。
だがダイアウルフの噛み付いた顎の力は一向に抜けることがない。

どれだけの時間が経っただろう。
ローレンスにとっては数分に感じられたが実際には数十秒してダイアウルフは倒れた。
噛まれたローレンスの左腕からは服の袖を真っ赤に染めながら手首を伝って指先からポタポタと地面に垂れている。

残すはリーダーであろう一匹だったが、二匹が倒されたことを見届けると踵を返して森の方へと走り去った。
「勝った!」
大きな傷を負ってしまったものの、その高揚感は痛みを忘れさせるほどローレンスを奮い立たせていた。

「大丈夫か!」
檻の中の少女に声をかけると小さく頷いた。
鍵を開けるととても怯えていて痩せ細った身体を小刻みに震わせている。
「とりあえずこれ飲んで元気出せよ。」
ローレンスはそう言うと、カバンから赤い液体の入った瓶を取り出して1つを少女に渡した。
「これはな、ポーションっていうんだ。母さん特製で残念ながら味は★1つなんだ…だけど効果は★5だからこうやって一気にグイッと飲めば元気出るぞ!」
そう言ってローレンスはポーションを一気に飲み干した。
「プハーーーーっ!まっっっっず!!」
「かーらーの~~~~!キターーーーー!!」
ローレンスの身体には力がみなぎってきた。
そんなローレンスを見た少女はクスッと笑うと腰に手をあてながら一気に飲み干した。
想像を絶する不味さだったのか、少女は目に涙を浮かべていかにも不味そうな表情でポカポカとローレンスを叩いた。
「ほら、元気になったろ?とりあえず荷物をまとめて僕の家に行くよ。」
荷馬車を引いていた馬に乗ると上手に乗りこなして少女と共に家へと馬を走らせた。

「母さんただいまー!」
勢いよく家に入ると少女を椅子に座らせた。
「ローレンスおかえ…ってあんたそのケガは何なの!?」
キッチンから出てきたローラは腕から血を流すローレンスを見て卒倒しそうになった。
「ダイアウルフに噛まれちゃってさ。」
恥ずかしそうに頭を掻きながら答えるローレンスの腕を取るとすかさずヒールをかけた。
「ったく。あんたって子は!ダイアウルフを相手にするなんて十年は早いわよ。」
ローラはぶつくさ言いながらも最大限の魔力を送り込むとヒールをかけられたローレンスの腕の傷は一切の跡を残さずにもとに戻った。
「ていうかローレンス、この子はどなた?」
ローラはローレンスの傷ばかりに気を取られていてようやく少女の存在に気付いた。
「えっと…山の上の高原まで行ったらこの子たちがダイアウルフの群れに襲われてたんだ。」
顛末をローラに話すと途中からゴードンも呼ばれて何やら大事になっていた。
女の子は名前をシュミルといい、遥か遠くの西の国でシュミルを連れていた男たちの賊に村を襲われ、シュミルだけが連れ出されて村は焼き払われてしまったそうだ。
そしてこれから奴隷市に向かう途中でダイアウルフたちに襲われたところをローレンスが救ったのだった。

「ローレンス、今回のことは危険を省みず良くやった。これから父さんは自警団長と現場を見てくるからシュミルの面倒はお前に任せる。くれぐれも失礼のないようにな。分かったか?」
「はい、父さん。」

ゴードンが出ていくとローレンスはローラに風呂を沸かすように言われ風呂の準備をした。

「なぁシュミル、聞こえるか?」
「え?うん。」
「湯加減どうだ?熱かったりしたら調節するから言ってくれよな。」
「とっても気持ちいいよ。ありがとう。もういつぶりだろう…お風呂なんて………。」
そう言うとすすり泣く声が聞こえ、ローレンスは黙ってそれに付き合った。
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