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今代の聖女の能力は 4 ※

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※浄化に際し、若干残酷な表現があります



「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」

発動条件をまた一つ、満たしていく。脳内に、時計の針が動いたような音が小さく響いた。

きっとこれが最後の発動条件のひとつだと、心が教えてくれる。

あの本を開いた時、脳に直接流れこんできた過去の聖女たちの記憶と、最後に必要になるであろう呪文ことば

あの時はまだ、もやがかかったようになっていたけど段階を経て浮かんだ言葉は、この世界が寄りかかっていたものをなくすためのモノ。

「今日で16さいになりました、あたし。まだそれっぽっちのあたしの未来を勝手な理由で奪っておいて、高みの見物だなんて……許さない」

“突き放せ”と心が囁く。みんなへの負荷を、自分への負荷を高めるために。

最初は明るく。最後の言葉だけに、魔力を込めて重く低めの声で発した。

“許さない”と突き放した思いが、国王様とあたしをつなげる。

わずかな間の後に、国王様に駆け寄っただろう人たちの声がたくさん聞こえてきて。

「貴様! 国王に何をした」

と、聞いたことがある声が怒りを控えめに伝えてくる。宰相さんかなにか、難しそうな役職の人。

「別にオカシなことじゃないよ。この国のことなんだから、あたしが味わっている痛みを共有してもらおうと思っただけ。コレは自国のことで、その人は王様なんでしょう? 責任は一緒に背負ってくださいよ」

あははと笑いながら返事をすると、「聖女がこんなことをしてよいと思っているか」と欲しかった言葉をもらえたのをキッカケに。

「聖女じゃないの、あたし」

明るく否定の言葉を伝える。

『映像、転送』

短く唱えたその言葉で、空中に大きなスクリーン状のものが浮かび上がる。

そして続けて、『剥離』と呟いてカラコンを目から外した。

「ごめんねぇ、みんな。この通り、目は黒目、髪の金色はこの色にしてあっただけで元の色は黒でしたー。なので、聖女の色は全部後付けでーす」

煽れ。

「ニセモノ?」

煽れ。

「じゃあ、召喚は失敗か?」

もっと煽って、黒く染まるものを吐き出させろ。

「この国はどうなるんだ」

悪者は一人でいい。

「国はこのことを本当に知らなかったのか?」

不安も不満も抱えずに生きられないなら、一旦全部吐き出させてしまえ。

「おしまいだ、もう」

いろんな声が風に乗って聞こえてくる。

こうして話している間にも瘴気は体に吸収されて、髪の色もきっと完全に黒だ。

慣れないことをしている自負はある。髪色は、どれくらい黒くなったのだろう。

(ツラいなぁ)

(胸が痛むよ)

(なんでこんなやり方しか選べなかったかな)

いろんな言葉が愚痴のように浮かんでくる。

かかるストレスに、耐えられないほどの頭痛が襲った。

同時に国王様の悲鳴にも近い叫びが聞こえて、意識を失ったのを知る。

「なぁんだ、痛みに弱いね。しっかりしてよ、国王様」

森からの瘴気は、もうなさそうだ。瘴気を集めるために伸ばしていた手を解放すると、手を覆っていた魔方陣が霧のように散る。

突き放すような言葉を吐いて、さっきの退魔の剣に手を伸ばす。

「意識失ってるんだったら、そんなに痛みは感じないかもね」

そう声をかけて、剣のグリップの部分を握る。

真っ白だったはずのドレスは、黒いグラデーションのドレスに変わり。

金髪だった髪は、さらに一気に毛先まで漆黒へと変色していく。

ぞわぞわと背中を走っていく感覚に、今にも吐きそうなのを堪える。

キラキラと淡く光る退魔の剣を反転させ、剣先を自分へと向けて。

「…………バイバイ、国王様」

心臓にあたる部分へと、まっすぐに突き刺した。

手枷の鎖がシャランと鳴って、さっきまで感じなかったはずの枷の重みを感じる。

「ぐああぁあああああっっっ」

国王様の断末魔みたいな声を聞きながら。

『聖女と共に滅べ、不浄の闇なるモノ。滅びと再生は表裏一体。浄化せしモノよ、この世に生まれたまえ』

最期の呪文を唱えた。

――――願う。

満たされてもなにかを黒くしなきゃ生きていけないのが人だというのならば、心を分け合い支え合える縁がつながりますように。

縁が縁をつなげ、紡がれた想いが違う場所で誰かを救う言葉になりますように。

不安やストレスは不浄のようで、自分を知るキッカケにもなり、誰かが自分を知る出会いにもなる。

だから、不浄じゃないんだよ。きっとね。それに不浄もあるから人間なんだって知ってほしい。

純度100%で作られた人間なんて、いやしないんだから。いたら、逆になんか怖い。人っぽくなさそうで。

そのうちね? 聖女がいなくても、いつか気づけばそばにいる誰かと心を分けあえる日が来るよ。

(あたしもそんな風に誰かとつながりたかっただけだよ。元いた世界でも、ここでも)

意識がなくなる直前に見えたのは、昔出かけたひまわり畑。

あざやかな黄色の波に、はしゃいだ幼い日々。

「きれ……ぃ」

落下しながら空へと手を伸ばして。

「…………」

一瞬、頭に浮かんだ人の名前を呼ぶけど、声にならないや。

空はキレイで。あたしは黒く染まってて。剣から感じられる光はまぶしくて。

空中でなにかをこの手につかんだ気がして、意識をなくした。

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