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9話 リューベックとハロルド

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~ リューベック視点 ~ 

 俺の父親は女と酒にだらしなく、何人も妻と子供がいる腐った男だった。
 しかも、商売の才能はないため、祖父は早々に父親に見切りをつけて、幼少期から俺を跡継ぎにするべく鍛え上げた。
 その甲斐合って、相手の裏を読む、先を見据える、相手を騙し誘導する事に長けるようになった。

 しかし、俺が一人前になった15歳の頃に、王都で流行り病が流行し、祖父に両親、腹違いの兄弟達が死んで行った。
 俺に残ったのは腹違いの弟ハロルドだけだった。
 当時5歳だったハロルドは病弱で、母親と郊外に療養に出ていたから難を逃れたのだ。
 葬儀の時、家族を一気に亡くした俺にハロルドは「僕がお兄ちゃんを守るから、そんな顔しないで」
 その言葉に、溜まっていた涙が素直に出てきた。あいつを抱き締めて、声を出さないで泣いた。
 それからは唯一残った肉親。ハロルドを大切にした。けれど、あいつの成長の邪魔をしないよう、過干渉にならないよう自分を律した。

 大人になるにつれて、葬儀のときに言った「守る」を体現しようと、ハロルドは勉学に励んだ。

 趣味で描いていた絵も、非凡な才能があり、本人の許可があれば売り出しただろう。あいつの絵のタッチや色使いは、素人目の俺でも引き込まれる出来だった。
 ただ、本人は「ただの趣味だし、人様にお金をもらう程じゃないよ!恥ずかしいし…。もっと上手くなってからね」
 はにかんだ笑顔を今でも鮮明に思い出せる。幸せな時間だった。

 しかし、ハロルドが15のとき母親が持病を悪化させて亡くなった。
 ハロルドの邪魔をしないように隠していたのが祟って、母親は呆気なく逝ってしまった。

 母親の不調に気づかず、部屋で一人逝かせてしまったことにハロルドは自分を責めて、酷い落ち込みようだった。
 そんなある日、母親を失って空いた心の穴を埋めてくれる女性に出会ったと言っていた。
 相手は高貴な身分らしい。
 憔悴していたハロルドが少しづつ元気になっていったので、俺はそれほど大事に思わずそっと見守っていた。

 しかし、事態は最悪な事になった。
 ハロルドが死んだ。

 貴族御用達のワインに毒を入れて、それを飲んだようだ。
 連絡を受けて、慌ててハロルドの住んでいた部屋に行ったが、弟は冷たくなっていた。

「ハロルド…」
 冷たくなったあいつを抱き締めて、声を出して泣いた。
「ハロルド!」
 何でこんなことに。
 あぁ、俺は世界で一人になってしまった。
 ハロルド、何で逝ってしまうんだ。
『僕がお兄ちゃんを守るから、そんな顔しないで』と
 約束したじゃないか!
 バカ野郎!!

 胸ポケットに手紙が二枚入っていた。

 一枚は俺に向けて。
 もう一枚は恋人に向けてだ。

『リューベック兄さんへ
 愛する兄さん、ごめんよ。愛する人が薬を買う事が出来ないと言うから、方々に借金をしてしまった。隣国の友人から貴重な布の独占輸入権をもらったから、これをうまく使えば返すことが出来ると思う。本当は僕がやるべき事だったけど、愛する人が無理やり結婚させられそうなんだ。彼女を守るため、先にラウトゥーリオの丘に行くよ。母さんも待ってるはずだから、そこで愛する人と三人で兄さんを待ってるよ。約束を守れなくてごめんね』

『愛する君へ
ラウトゥーリオの丘で君を待ってるよ』

 部屋にはハロルドしかいなかった。『愛する人』は居なかった。
 そう、ハロルドはその女に騙されたのだ。『薬が買えない』と嘘をつき、母親の事を連想させ、ハロルドから金を巻き上げたのだ。
 そして、用済になったハロルドを心中と偽って殺したんだ。

 俺のハロルドを!

 必ず見つけてやる。
 生涯をかけて復讐してやる。
 ハロルドの未来を奪った女から、その未来を踏みにじってやる!
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