愚かな旦那様~間違えて復讐した人は、初恋の人でした~

ともどーも

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12話 彼女の為にできること

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~ リューベック視点 ~

 あれから毎朝エリーゼに花束を送った。
 15本のバラ。
 紫のヒヤシンス。
 紫のカンパニュラ。
 ピンクのポピー。
 マーガレット・アイビー。
 『ごめんなさい』と謝罪を意味する花束を選んだ。
 また、メッセージカードで『全て誤解だった。本当にすまなかった』と添えた。

 始めは批判的だった侍女長も、少しづつ協力してくれるようになってきた。
「お嬢様。旦那様から花束が届いてますよ」
 エリーゼの前で『旦那様』と単語を出してくれるようになった。
 彼女も拒否反応は出しておらず、花束を受け取り、しばらくは匂いを楽しんでいるようだ。

 あと、執事長からのアイディアで、メッセージカードに、俺が愛用している香水を軽く振りかけている。
 喜ばしいことに、これにも拒否反応はなかった。

 花束作戦は功を奏し、エリーゼがほのかに微笑む事があった。
 これを見た俺はもちろん、使用人一同喜びに打ち震えた。

 そして半月ほどして、医者から「そろそろ」と承諾がでた。


×××


 お昼を食べる前の時間に調整した。
 場所は寝室のソファー。
 隣の部屋に医者も控えている。
 万が一の準備は万全だ。

 俺は15本の薔薇の花束と、この日の為に用意した『パープルダイヤモンド』の指輪・イヤリング・ネックレスの三点セットを握りしめた。

 扉の前で大きく深呼吸する。
 
 今までのどんな大きな取引よりも緊張する。仕事なら、ここで失敗しても違う作戦があるとか、必ず成功に導くカードを携えたりと、やり用はいくらでも思い付くのに今回はまったくダメだった。
 
 エリーゼに誠心誠意謝る。

 「すまない」
 「ごめんなさい」
 「申し訳なかった」

 どんな言葉でも表しきれない後悔を、どう伝えれば良いのだろう。
 彼女の心に届く言葉はなにか…。 

 コンコン。
 ドアをノックする。
 ほんのわずかな時間なのに、数分間にも思えた。
 侍女長が扉を開く。

 エリーゼはソファーに座って居るが、扉を背にしているので、表情はわからない。
 突然目の前に俺が現れたら、拒否反応を起こして、また倒れてしまうかもしれない。そのため、まずは声で語りかける事になっている。

 侍女長がエリーゼの側に行き、手を繋いだ。これは医者の指示のもと、脈拍を確認しているのだ。
 脈に異状が現れたら、即座に中止し、俺は退出。代わりに医者が入室する算段だ。

「お嬢様、リューベック様がお見栄です」
 エリーゼの肩が一瞬跳ねた。
 俺の名前を出すだけで体が強張ったのがわかる。
 間近で目にすると、後悔で胸が苦しい。

 侍女長はじっと、エリーゼを見つめた。
 迷っている。
 エリーゼも侍女長も。

 沈黙。

 侍女長が目配せして、頷いた。
 心臓がドキドキする。
 嫌な汗で手の平が湿っていく。

「エリーゼ」
 掠れた声が響いた。
 また、エリーゼの肩が跳ねた。
 侍女長が狼狽している。

 あぁ、すまない。
 すまないエリーゼ。
 君をこんなに傷付けて、本当にすまない。

「すまなかった」
 自然に言葉が口から出た。
「全て誤解だった。本当にすまない」

 彼女の肩が震え出した。
「先生!」
 侍女長が叫ぶ。
 すぐに医者が駆けつけ「ご退出下さい」と部屋から追い出された。

 彼女にまた負担をかけてしまった。
 俺はなんて罪深いんだ。
 渡せなかった花束とプレゼントを抱えて、閉め出されたドアを見上げた。

 こんなに重く、ぶ厚かっただろうか思うほど、ドアが大きく見えた。
 ドアの見える窓際に行き、部屋の中の音に耳を済ませ、ただただ、再度扉が開くのを待つしかなかった。


×××


 俺の退出後、エリーゼは倒れて高熱を出した。また振り出しに戻るのか、もしかしたら最悪…。
 そんな事が脳裏をかすめる。
 侍女長と執事長が交代で看病している。
 俺も付き添いたいが、侍女長から頑なに拒否された。
 侍女長の冷たい目を思い出す。
 彼女を守ろうとする母親の様に感じた。

 エリーゼの熱は倒れた日にすぐ下がったが、3日たっても意識は戻っていない。
 俺は暇さえあれば、エリーゼの眠る部屋のドア前に立ち、中の様子に耳を傾けていた。



×××



 その日の夕刊で衝撃のニュースが載っていた。
 『ドゥルーマン侯爵家の子息サーシス・ドゥルーマンが殺傷された』
 犯人は薬物中毒の男と記載があったが、嫌な予感がした。

 ミリアリアが逃走して約1ヶ月経つが、まだ捕まっていない。
 また、ミリアリアが毒薬を買っていた裏商売をしていた男達も、一人逃亡中だった。

 まさか、あの二人が手を組んでサーシスを襲ったのか?
 これは急いで調べないとまずい。
 サーシスを襲ったのなら、次は俺だ。

 こういった危ない橋は何度もわたってきたが、今はエリーゼもいる。
 彼女に危害が及ばないようにしなければ。

 俺はハイルディー商会の指揮を取っているラムダルに手紙を書いた。
 サーシス殺傷事件の詳細報告と、ミリアリアと裏商売の男の行方を調べるよう指示した。

 警備隊長を呼ぶ事と手紙を従者に託し、エリーゼの寝る部屋に向かった。

 心がざわめく。
 落ち着かない。
 何かに駆り立てられるように、足早に部屋に向かった。
 
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