愚かな旦那様~間違えて復讐した人は、初恋の人でした~

ともどーも

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13話 侍女長

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~ リューベック視点 ~
 
「旦那様?どうかされましたか?」
 エリーゼの眠る部屋に突然俺が来たので、侍女長に驚かれた。
「すまない。胸騒ぎがして来てしまった」
「何か問題でも?」
「侯爵家のサーシス殿が刺されたらしい」
 俺の話に眉を潜める侍女長。
 俺は先程考えたことをそのまま伝えた。
 この家にも、エリーゼにも危害が及ぶ可能性がある。

 相手は窮地に追い込まれた罪人だ。
 何をしてくるかわからない。

「今警備隊長を呼んでいる。警備の強化と、憲兵に連絡して人員の増加を申請する予定だ。長年ここに勤める侍女長と執事長にも会議に参加してもらいたい」
「…わかりました。代わりの者を手配致しますので、少しの間お嬢様をお願い出来ますか?」
 侍女長の提案に驚いた。
 今まで頑なに俺が付き添う事を拒否していたのに、許してくれるなんて…。
「…いいのか?」
「…旦那様が、扉越しに謝罪する声を毎日聞いておりました。お嬢様の好きな物や、思い出の食べ物をご自身で準備されているのも知っています。…旦那様を許すことなど出来ません。ですが、お嬢様には貴方が必要なんです」
 侍女長の涙ぐんだ目を見て、胸が傷んだ。

 少し前に執事長から聞いた。
 侍女長はエリーゼとミリアリアの乳母だったそうだ。
 ミリアリアには「使用人ごときが」と見下されていたので、愛着は無いようだが、エリーゼは乳母の侍女長を大切にしていたようだ。
 侍女長を『母親の様だ』と思ったのはあながち間違えではなかったのだ。

「ありがとう」
 エリーゼを守ってくれて、寄り添ってくれて、俺を怒ってくれて…。
 ありがとう。

「…では、お願いします」
 侍女長は涙を見せないように、頭を下げながら出ていった。
 エリーゼがあんなにも心優しい人になったのは、侍女長の愛情があったからだろう。
 血は繋がってなくても、彼女は紛れもないエリーゼの母だ。

 エリーゼの眠るベッド横の椅子に座る。
 そして、彼女の手を取った。
 あの時よりも痩せてしまった手が悲しい。そして、己が恨めしい。
 
「エリーゼ、君が好きだよ」
 彼女の寝顔を見ながら呟いた。

 俺の愛など、彼女には不要だろうが、それでも囁いてしまう。
 俺が汚してしまった愛だけど、君が許してくれるなら、生涯その愛についた泥を洗い落として、真心と共に捧げるよ。

「愛してる」
 許されないことをした。
 わかってる…。
 でも、すがりたい。
「愛してる」
 今度こそ愛し合いたい。
 俺に愛を乞う資格などない。
 でも、君が好きなんだ。

 エリーゼを見つめていると、後ろから影が見えた。
 危機感を覚え振り向こうとしたとき、俺は頭を殴られ意識が途切れた。
 殴られる寸前に見たのは、エリーゼと似た顔立ちのミリアリアだった。
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