「俺の子じゃない」と言われました

ともどーも

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十話 それぞれの動き3(ソフィア視点)

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「うわ~……」
 私は今、王立サンブラノ研究所の一室にいる。
 王立サンブラノ研究所で行った親子鑑定申込受付履歴を見るためだ。
 受付履歴にローゼンタール伯爵が娘との親子鑑定を申し込んだ記録が残っていた。

「師匠。これって、かなりマズイですよね」
「はぁ……。そうだな」

 エルヴィス・リーガル公爵閣下(45)
 私の探偵兼弁護士の師匠だ。
 研究所で受付履歴が閲覧できたのも、師匠の実績と公爵という肩書きのおかげだ。見た目はやる気のない無精髭オヤジだが、相談した翌日に閲覧許可を取ってくるのだから、凄まじい。
 本来なら、閲覧使用目的を王宮の宮内国政機関に申請し、宮内国政機関の職員と面談し、研究所の所長と面談しないと許可はおりないのだ。私が真っ正面から申請を出したら、半年以上かかるだろう。
 
 師匠に出会ったのは15年前。
 冒険者ギルド長の紹介で、母さんの離婚裁判を弁護してもらった時だ。
 当時は凄腕冒険者として活躍していた師匠。
 公爵家の三男坊で、家を継ぐこともないからと学生時代から冒険に明け暮れていた問題児だったらしい。将来を心配した前公爵閣下が『資格があれば、手足が失くなっても食っていけるだろう』と学生時代に無理矢理、弁護士資格を取らせたらしい。

 弁護士をつけて裁判するのは貴族ばかりで、平民の場合はギルドが仲立ちして解決することがほとんどだったが、師匠が『ギルド裁判』を立ち上げ、平民も裁判できるようにしたのは有名な話だ。
 ギルド裁判のおかげで、母さんみたいに暴力夫と離縁できなかった女性たちは救われたのよね。

 その功績を認められて、師匠は国王から男爵位を賜ったのだが……。まあ、よくある話。師匠の功績に嫉妬した長男に殺されそうになったが、凄腕冒険者だから返り討ちにして、長男失脚。
 長男のヤラカシの余波で、公爵家に監察が入り、次男がお金を横領していたことが発覚。次男失脚。
 で、跡目が師匠しかいなくなったため、公爵位を渋々受け継いだのだった。

「どうやら、命がいらない人間が多いようだ」
 親子鑑定の研究は国王の肝いりだ。一大事業として国を挙げて行っている。国王が心血を注いでいる研究施設で検査員が不正に荷担したとなれば、検査員はもちろん、首謀者、それに関わった者は王族侮辱罪、謀反の罪で処刑されるわ。しかも、第一親等も連座で処刑されるだろう。

 ローゼンタール伯爵が持っていた親子鑑定書は、書式を真似た偽物だと思っていたのに、どうやら不正に作られた本物だったようだ。

 書式を真似た偽物だったなら、伯爵に公的書類偽造罪で訴えると脅し、いや、忠告し、離婚と慰謝料、子供の親権と養育費を請求し、新聞社に『部下に騙され夫人を誤って糾弾したため、ローゼンタール伯爵離婚!』とたれ込む予定だったのにな。
 公的書類不正作成の罪が出てくるなんて……。
 これは……ローゼンタール伯爵が死ぬわ。
 リリーシアの性格を考えると、そんなことになるならと身を引くかも。

 どうしたものか……。

「こうしていても始まらん。まず研究所の所長に相談し、ローゼンタール伯爵夫人の同意書を見せてもらおう。それから、親子鑑定を行った検査員も割り出さないといかんな。現状、ローゼンタール伯爵の親子鑑定書が不正に作られた物だと証明する手だては、夫人の証言のみだ。それでは誰も信じてくれない。まずは同意書から崩していくしかない」
「……そうですね。相手の策略を崩さなければ、何にもできませんね」

 
 ×××


「師匠。ありがとうございました」
 研究所からの帰りの馬車で、私は師匠に頭を下げた。
 あのあと、師匠と所長のところに行き、リリーシアが書いたとされる同意書を見せてもらった。
 確かにリリーシアのサインがされていた。
 本来は持ち出しできないのだが、研究所特製の偽造防止保管用クリアファイルに入れることと、師匠が保証人として一筆書いてくれたおかげで、同意書は今、私の手元にある。
「なに、貴族相手は貴族を使うのが必須だ。以前から言ってるだろ」
「「使えるツテは遠慮なく使え」」
「ですね」
「わかっているならいい。それにしても、頑張っているようだな。ソフィアの活躍は聞いている」
「師匠の弟子ですから」
「ふんっ、生意気だな」
「師匠仕込みです」
 他愛ない会話に、お互い笑いあう。

「このあとはどうするんだ?」
「親子鑑定をした検査員を調べようと思います」
 
 ピエール・バシュ(38) 
 研究所に勤めて約20年のベテラン検査員。
 勤務態度は至って真面目だが、傲慢な一面があり、周りの研究員からは煙たがられていた。
 実家のバシュ家はトレトン伯爵家の分家筋だが、遠縁のため貴族の爵位はなく、平民と変わらない身分である。
 今日は休みで顔を見ることはできなかったが、顔面は女子受けがよいらしい。ずいぶんモテるらしく女には困ってなさそうと同僚が言っていた。

「まぁ、妥当だな」
「師匠はどうするんですか?」
「親子鑑定書の不正作成は見過ごせない。そちらはワシも動く。ヤツに依頼した黒幕がいるはずだ。何か情報を掴んだら連絡してやる」
「ありがとうございます」
「……」
「……」

 師匠が動くのなら、きっと黒幕までたどり着き、国王様に報告するだろう。公爵として、弁護士として当然のことだ。
 悪いやつが捕まって処刑されても、私には関係ないわ。結局、自分が招いたことなのだから。
 そう思うのに、リリーシアが悲しむ顔が頭をかすめる。

「彼女を気に入っているんだな」
「……師匠は誰が黒幕だと思います?」
「さぁな。調べてみないことにはわからん。ソフィアこそ、誰だと思ってるんだ?」
「それは……」
 ローゼンタール伯爵の可能性が高いと思っている。
 伯爵はリリーシアの専属侍女だったイモージェン・ウエストと肉体関係がある。しかもすでに子供まで身ごもっていると聞いた。それならば、伯爵は愛人の子供を後継ぎにするため、邪魔なリリーシアを排除したと考えられる。
 愛人を正妻にするには、前妻のリリーシアが悪女で、結婚生活を続けられなかったと印象付け、愛人を受け入れやすくしたいから、こんな手の込んだことをしたのではないだろうか。
 万が一、リリーシアが不当離婚だと騒いでも、不正に作った本物の親子鑑定書があれば、誰も彼女の言葉を信じない。
 さらに、実家の男爵家を封じ込め、貴族籍を剥奪させ、王都中の店を出禁に追い込めば、彼女に抗う術はない。
 用意周到で陰険な手口だわ。

「夫のローゼンタール伯爵だと思います。すでに愛人は妊娠しているそうですし、正妻を入れ替えるために画策したのでしょう」
「それはどうかな」
「え?」
 師匠の意外な言葉に驚いた。
「ずいぶんまわりくどいやり方じゃないか?」
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