「俺の子じゃない」と言われました

ともどーも

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三十九話 それぞれの結末 前編

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「晴れてよかったわ」
 私は朝日が昇る空を見た。
 三日前に王城を出て、一度セラス教会に戻ってきた。旅の準備をするなら、セラス教会の方が平民街の商店街に近いし、お世話になったシスター・ハンナや孤児院の子供たちと、きちんとお別れしたかったからだ。

 昨日はお別れパーティーを開き、みんなと楽しい時間を過ごした。終わりごろは「出ていかないでよ」と泣き出す子もいて、本当に名残惜しくなった。
 早朝の出発なので、子供たちの見送りはない。

「忘れ物はない?」
「ソフィア!オーウェンさん!見送りに来てくれたの?」
「当然でしょ。友だちなんだから」
「お久しぶりです」
 ソフィアはあの審議会後、凄腕探偵弁護士として有名になった。依頼が引っ切り無しだと聞いていたが、出発前に会えてよかったわ。
 オーウェンさんは特級冒険者の資格を取得した。どんな試験かは知らないが、実技や知識、判断力など様々な試験があったらしい。
 サンブラノ王国の特使としての権限もあるらしく、世界中どこにでも行けるそうだ。ソフィアがボソッと言っていたが、王妃様のていの良い小間使いのような存在らしい。ソフィアも王妃様の依頼で四苦八苦していると聞く。
 何にせよ、二人とも優秀な人だから、王妃様が目をかけていることに変わりはないわ。

「いよいよ出発なのね」
「えぇ。王妃様が治めるメイディー領は、子育て支援に力を入れていて、女性が住みやすいそうよ。それに、私のような境遇の人も多いと聞いたわ」
「そう。それなら安心ね」
 王都を出れば、ソフィアに会うのも難しくなるだろう。少なくとも、私は王都に来ることはない。

「手紙を書くわ」
「私も」
「あっ、届け先はどうしたらいい?」
「王妃様から頂いた屋敷があるから、そこに。シスター・ハンナには伝えたんだけど……。ごめんなさい。住所を覚えてなくて」
「いいのよ。後でシスター・ハンナに聞くわ」

 今回のことで、私は王妃様から二つ贈り物を受け取った。
 ひとつ目は、メイディー領の領都ラキに屋敷を賜った。侍女と執事を雇っていると聞いた。
 ふたつ目は、船を賜った。領都ラキは港町で、海外との貿易が盛んだ。王妃様御用達の商会が使う船を賜ったが、管理運営は商会が行うので、何か船に不具合があっても商会が対応してくれて、私が何かすることはない。しかも、船の貸し出し料金で、毎月すごい金額を受け取る契約になっている。
 この契約は、王家と私個人で取り決めており、私が死ねば契約終了となる。死後は船を商会が買い取り、売ったお金はアリアが相続することになっている。

 この二つの贈り物を提示されたとき、背筋が震えたことを覚えている。
 表向きは『親子鑑定書不正作成で損害を被った私への報償金』だが、私には『口止め料』だとすぐにわかった。
 王城の秘密の脱出口の存在を知っている私は、王家にとって危険な存在だ。屋敷を贈ったのも私を『監視』する目的があるのだろう。船も外国への逃亡を抑止する思惑が伺えた。
 そして、毎月すごい金額の収入を与えることで、王家を裏切るなと圧力のようなものを感じた。
 きっと秘密が漏れれば、私もアリアもすぐに消されるだろう……。

 恐ろしく思うが、秘密を漏らさなければ、むしろ最も安全な住まいと、生活に困らない収入を得られるのだから、ものは考えようだと割り切ることにした。
 今回の『親子鑑定書不正作成事件』を皮切りに、王国内で不正を働いていた貴族や商人など、様々な人が摘発され処罰されたのだった。
 中には、私を逆恨みする人物も出てくるかもしれない。身の安全のためにも、王妃様から賜った屋敷に住むのが最善だ。

「あぅあ~」
 胸に抱くアリアが、ソフィアに向けて手を伸ばしている。
「っ~!可愛い~。どうしたのアリアたん」
 ソフィアが手を出すと、小さな手で彼女の指を掴んだ。そして、それを自分の口に入れようとする。
「ソフィーちゃんの手が気になるのね~」
「あう~」
 この時期の赤子は、何でも口に入れて確かめようとすると、王城でお世話になった女性に聞いた。可愛いが、アリアの手の届くところに危ないものは置いてはいけないわね。

「もう六ヶ月よね~」
「えぇ」
 子供の成長は早いわ。
 気がつけば、あの日から七ヶ月が経った。
 ソフィアからの情報や、新聞で読んだことがほとんどだが、彼らがどうなったか綴っておこう。
 
 まずイモージェン。
 彼女は子供を出産後、刑務所の雑用係として強制労働の刑となった。
 ソフィアの見立てでは『王族侮辱罪』『公的文書偽造罪』などが適用になり、毒杯が妥当と思われていたが、主犯に従うしかなかったと認められ、毒杯は免れた。
 だが、私への賠償金支払が命じられ、支払えないなら強制労働の刑に処させる判決を受け、案の定支払うことができず、彼女は労働刑になった。
 ウエスト子爵は領地や爵位を売り、イモージェンの刑期を軽減しようと動いたが、没落寸前だった子爵家では満足な資金が得られなかったらしい。
 彼らは夜逃げするように王都からいなくなったと、ソフィアから聞いた。

 イモージェンは刑務所の一室で子供を産んだが、そこで育てることができないため、子供はシスター・ハンナのいるセラス教会に預けられた。私も先日会った……。
 イモージェンに似た茶色い髪と、エドワードに似た青い瞳の可愛い女の子だった。親子鑑定の結果、エドワードの子供だと判明したが、エドワードは子供の認知をしなかった。
 無責任に思ったが、今回の騒動によるさまざまな噂や悪意が、その子に向けられないようにするためらしい。
 ただ、子供の養育費をセラス教会に支払い、子供が学校に行きたいと希望すれば、援助は惜しみなくすると誓約書を書いたと聞いた。
 子供に罪はない。
 イモージェンのことは許せないし、許すことはないだろう。それでも、子供には関係無い話だ。複雑な気持ちではあるが、健やかに成長してほしい。

 次はマリアンヌ・ベルジュ様だ。
 貴族学院に在籍中に一度。あとはエドワードとの結婚式でお会いしたことしかない彼女が、今回の件に関わっていると聞いて驚いた。
 エドワードの姉のような存在で、貴族学院では才女として有名だった彼女。男性からの求婚も引く手あまたの彼女は、昔からエドワードが好きだったそうだ。
 貴族学院を卒業したら、エドワードの周りを囲んで結婚に持ち込む予定が、ポッと出の男爵令嬢に奪われ、嫉妬心によって犯行に及んだと聞いた。

 取り調べ中――
『エドワードの心を手に入れるには、あの女が嫌われる必要があった』
 ――と話していたらしい。
 その言葉を聞いて、妙に納得した。
 ずっと疑問だったのだ。
 何故、私が不貞したように偽造したのか。
 何故、私を暗殺しなかったのか。
 
 それは、私を暗殺するよりも、エドワードから見放されるように仕向けることで、自分が彼の心に入り込めるようにしたかったのだ。

 彼に愛されたかったのね……。

 私を殺して無理矢理妻になったとしても、彼の心に私がずっと居座り続けることになってしまう。
 好きな人の心も体も独占したい。
 許すことはできないが、その感情を理解することはできる……。
 彼女は貴族籍を剥奪され、孤島の修道院に入ることが決まった。そこは外界から遮断された場所で、別名『女性刑務所』と呼ばれる、とても規律が厳しい場所らしい。

 ご実家のベルジュ公爵家は、爵位が伯爵へと降格になったが、公爵様、もとい伯爵様自身にはお咎めはなかった。
 ただ、伴侶のダヴィット・ベルジュ様は様々な悪事が露見し、王国で最も重い刑罰『公開処刑』が決まった。
 親子鑑定書不正作成を何度も行ったり、宝物庫から複写紙を盗んだり、違法賭博、違法人身売買、違法娼館運営など罪は多岐にわたると新聞で読んだ。彼の実家トレトン伯爵家や取り巻きの家々も摘発され、取り潰しになる家が多発した。
 王国内で暗躍していた犯罪が芋づる式に摘発され、風通しが良くなったと王妃様が言っていたとソフィアから聞いた。
 王妃様が今回の件に関わってきたのも、こうなることを見越していたのかもしれない……。

 私が知る範囲だが、親子鑑定書不正作成を行った検査員とバーバリー裁判官は王家の信頼を失墜させたとして、毒杯を飲むことになったらしい。
 その他にも、ベクター弁護士は弁護士資格と貴族籍を剥奪されて王都追放になったり、私を宿泊施設に泊まれないように圧力をかけたサフランド男爵は、実家のトレトン伯爵家没落の余波で財務局をクビになり、夜逃げするように王都から姿を消したそうだ。
 今回の一連に関与した面々は、各々の罪に似合った刑罰が下ったらしい。
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