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8話 哀れな羽虫達
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~ クローヴィア視点 ~
「レイザー侯爵令息様、申し訳ありません。久しぶりのダンスだったので疲れてしまいましたの。またの機会で宜しくて?」
笑顔でいなす。
「それは大変ですね。休憩室にお送りしますよ」
あちらも笑顔で追撃してくる。
隣のネルが見えないのかしら。
「ホホホ。それには及びませんわ。『婚約者』がおりますので」
視線をネルに向ける。
私の行動と発言に周りがざわめく。
まぁ、そうだろう。
誰もが気になっているが聞くに聞けなかった存在。私の横に立つ男は誰で、何者なのか。
「ハハハ、ご冗談を。そんなモサイ男が婚約者などと可哀想ではありませんか。美しい貴女の隣に立つ身にもなってあげてください」
「元豚女にはお似合いではなくて?」
笑顔で嫌みを言えば、一瞬男の笑顔が固まったのがわかった。
「豚は豚箱に返却、でしたわよね。フフフ、よく覚えていますよ。辛辣な別れの挨拶でしたものね」
ニッコリ微笑むと、周りから非難の目がポンコツ男に集まった。
「ハハハ、そんな事言ったかな?誤解があるようだから、二人でゆっくり話そうじゃないか」
「ホホホ。婚約者が居るのに、殿方と二人で話すなど考えられませんわ。ご冗談が上手ですわね。あら、あちらにレイザー侯爵令息様の今の婚約者様がいらっしゃいますよ」
視線を会場で一人佇むバカ女に向ける。
悔しげな酷い顔でこちらを睨んでいる。
ポンコツ男も言われて視線をバカ女に向けるが、何も見なかったかのように、また視線を私に戻した。
「では、三人で話しましょう。三年間の婚約期間の話を彼に教えてあげますよ。デートしたお店やプレゼントした品物など、いろいろとね」
意味ありげな言葉でネルを牽制しているようだ。じっと彼の顔を見ている。
時折余裕な笑みを浮かべてることから、ネルの事を侮っているのが伺える。
本当にうざいです。
私たちに楽しく思い出を語り合う出来事は、そう無いでしょうに…。
「どいつもこいつも私をバカにして…」
底冷えする女の声が静かに響いた。
女がワイングラスを片手に駆け寄ってきた。
「この陰険女!!」
手のワイングラスを私に投げてきた。
突然のことで反応が遅れる。
今日のために用意した白いドレスが台無しになるな…。なんて、間抜けな事が頭を過った。
グラスがゆっくりと襲い掛かってくるのを眺めていると、誰かが私の前に立った。
ネルだ。
私を狙って放たれたグラスを腕で弾いた様だが、中身が彼の頭にヒットした。
「「キャーーー!!」」
バカ女の暴挙に周りが騒然とする。
さすがのポンコツ男も、自分の婚約者の行動に驚いたようだ。
「邪魔すんじゃないわよ!!」
女が掴みかかろうと手を伸ばしてくる。
だが、その手はネルに捕まれ、私には届かなかった。
「人の婚約者に色目を使って恥ずかしくないの?!何が大聖女よ!可愛い私から恋人を奪い返そうと必死になってみっともないわね!いくら外見がキレイになっても、あんたの心根は醜い豚女のままなのよ!!」
ネルから手を引き剥がそうと暴れながら、私への悪態をつきまくるミアに、会場は騒然とする。
「おい」
ネルの声が騒然とする中で響く。
決して大きな声ではない。
しかし、背筋がゾッとする声だ。
「言い残す言葉はそれで良いんだな」
ホールの温度が下がる。
ヤバい!
「ネル、やめて!」
「こんな女を庇う必要はない」
感情を感じさせない淡々とした声だ。
相当頭に来ているのがわかる。
このままでは、今すぐ殺してしまいそうだ。
「今までの暴言。君への危害未遂。この場で殺しても文句は出ない。さらに、王弟たる私への危害だ。万死に価する」
「「王弟殿下?!」」
ネルの言葉に誰もが驚いた。
公の場に出ることはなく人嫌いで、魔法研究者の第一人者であり、世紀の大魔法使いライオネル・シェード・グラン公爵だと言うのだから、無理もない。
さらに
「「!!!」」
ネルがワインで濡れた髪をかきあげ、素顔を見せると、女性達は息を飲んだ。
至近距離にいるミアは、息さえも忘れているように見える。
黒髪に隠れていた、ゴールドの瞳とスカイブルーの瞳が人々を魅了する。
均衡の取れた美しい造形の顔に、神秘的な両目はまるで宗教画から飛び出した天使のようだ。
そこに薄い微笑が加わると、女性達は天のお迎えに誘われるように意識を手放す者もいた。
「あっ……あっ……」
ネルのあまりの美貌に、毒気を抜かれたミアは頬を赤く染めて、声にならない声を出している。
「人の婚約者に色目を使っていたのはお前だろ。学園で再三注意されても、婚約者のいる男に付きまとう節操無しの恥知らずめ」
辛辣な言葉に、ミアの表情が一瞬で青くなった。
「お前、ヴィアの弟アランドロに懸想していたそうだな」
「なっ!誰が豚女の弟なんか!」
突然の言葉に、ミアは大きく反応する。
「『アランドロ様をお救いして差し上げてるのよ』と周りの者に話していただろ。聖女の地位を傘に来て男どもにちやほやされていたが、アランドロだけはなびかなかった。ヴィアの存在を知り、彼女がアランドロにとって醜聞になるよう画策するため、ポンコツ男に誘いをかけて見事男を吊り上げた。ヴィアの不名誉な噂を撒き散らし、自分がどれだけ素晴らしい人物か比較対象を作り、演出。『デブスの姉を持って恥ずかしい。元婚約者を救ったように、私も救って欲しい』とアランドロが泣きついてくることを期待していたようだが、幼稚過ぎて呆れてしまう」
ミアは顔を真っ赤に染めて、ブルブル震えだした。
薄々感じていた事だったが、お粗末な計画である。
その計画で肝心なのは『私とアランドロの親密度』だろう。アランドロが私をもともと嫌っているとか、恥ずかしいと思っているのが前提になければ成り立たない。
仲の良い姉弟だった場合、その思惑とは正反対の結果になってしまう。
調査不足?だったわね。
「レイザー侯爵令息様、申し訳ありません。久しぶりのダンスだったので疲れてしまいましたの。またの機会で宜しくて?」
笑顔でいなす。
「それは大変ですね。休憩室にお送りしますよ」
あちらも笑顔で追撃してくる。
隣のネルが見えないのかしら。
「ホホホ。それには及びませんわ。『婚約者』がおりますので」
視線をネルに向ける。
私の行動と発言に周りがざわめく。
まぁ、そうだろう。
誰もが気になっているが聞くに聞けなかった存在。私の横に立つ男は誰で、何者なのか。
「ハハハ、ご冗談を。そんなモサイ男が婚約者などと可哀想ではありませんか。美しい貴女の隣に立つ身にもなってあげてください」
「元豚女にはお似合いではなくて?」
笑顔で嫌みを言えば、一瞬男の笑顔が固まったのがわかった。
「豚は豚箱に返却、でしたわよね。フフフ、よく覚えていますよ。辛辣な別れの挨拶でしたものね」
ニッコリ微笑むと、周りから非難の目がポンコツ男に集まった。
「ハハハ、そんな事言ったかな?誤解があるようだから、二人でゆっくり話そうじゃないか」
「ホホホ。婚約者が居るのに、殿方と二人で話すなど考えられませんわ。ご冗談が上手ですわね。あら、あちらにレイザー侯爵令息様の今の婚約者様がいらっしゃいますよ」
視線を会場で一人佇むバカ女に向ける。
悔しげな酷い顔でこちらを睨んでいる。
ポンコツ男も言われて視線をバカ女に向けるが、何も見なかったかのように、また視線を私に戻した。
「では、三人で話しましょう。三年間の婚約期間の話を彼に教えてあげますよ。デートしたお店やプレゼントした品物など、いろいろとね」
意味ありげな言葉でネルを牽制しているようだ。じっと彼の顔を見ている。
時折余裕な笑みを浮かべてることから、ネルの事を侮っているのが伺える。
本当にうざいです。
私たちに楽しく思い出を語り合う出来事は、そう無いでしょうに…。
「どいつもこいつも私をバカにして…」
底冷えする女の声が静かに響いた。
女がワイングラスを片手に駆け寄ってきた。
「この陰険女!!」
手のワイングラスを私に投げてきた。
突然のことで反応が遅れる。
今日のために用意した白いドレスが台無しになるな…。なんて、間抜けな事が頭を過った。
グラスがゆっくりと襲い掛かってくるのを眺めていると、誰かが私の前に立った。
ネルだ。
私を狙って放たれたグラスを腕で弾いた様だが、中身が彼の頭にヒットした。
「「キャーーー!!」」
バカ女の暴挙に周りが騒然とする。
さすがのポンコツ男も、自分の婚約者の行動に驚いたようだ。
「邪魔すんじゃないわよ!!」
女が掴みかかろうと手を伸ばしてくる。
だが、その手はネルに捕まれ、私には届かなかった。
「人の婚約者に色目を使って恥ずかしくないの?!何が大聖女よ!可愛い私から恋人を奪い返そうと必死になってみっともないわね!いくら外見がキレイになっても、あんたの心根は醜い豚女のままなのよ!!」
ネルから手を引き剥がそうと暴れながら、私への悪態をつきまくるミアに、会場は騒然とする。
「おい」
ネルの声が騒然とする中で響く。
決して大きな声ではない。
しかし、背筋がゾッとする声だ。
「言い残す言葉はそれで良いんだな」
ホールの温度が下がる。
ヤバい!
「ネル、やめて!」
「こんな女を庇う必要はない」
感情を感じさせない淡々とした声だ。
相当頭に来ているのがわかる。
このままでは、今すぐ殺してしまいそうだ。
「今までの暴言。君への危害未遂。この場で殺しても文句は出ない。さらに、王弟たる私への危害だ。万死に価する」
「「王弟殿下?!」」
ネルの言葉に誰もが驚いた。
公の場に出ることはなく人嫌いで、魔法研究者の第一人者であり、世紀の大魔法使いライオネル・シェード・グラン公爵だと言うのだから、無理もない。
さらに
「「!!!」」
ネルがワインで濡れた髪をかきあげ、素顔を見せると、女性達は息を飲んだ。
至近距離にいるミアは、息さえも忘れているように見える。
黒髪に隠れていた、ゴールドの瞳とスカイブルーの瞳が人々を魅了する。
均衡の取れた美しい造形の顔に、神秘的な両目はまるで宗教画から飛び出した天使のようだ。
そこに薄い微笑が加わると、女性達は天のお迎えに誘われるように意識を手放す者もいた。
「あっ……あっ……」
ネルのあまりの美貌に、毒気を抜かれたミアは頬を赤く染めて、声にならない声を出している。
「人の婚約者に色目を使っていたのはお前だろ。学園で再三注意されても、婚約者のいる男に付きまとう節操無しの恥知らずめ」
辛辣な言葉に、ミアの表情が一瞬で青くなった。
「お前、ヴィアの弟アランドロに懸想していたそうだな」
「なっ!誰が豚女の弟なんか!」
突然の言葉に、ミアは大きく反応する。
「『アランドロ様をお救いして差し上げてるのよ』と周りの者に話していただろ。聖女の地位を傘に来て男どもにちやほやされていたが、アランドロだけはなびかなかった。ヴィアの存在を知り、彼女がアランドロにとって醜聞になるよう画策するため、ポンコツ男に誘いをかけて見事男を吊り上げた。ヴィアの不名誉な噂を撒き散らし、自分がどれだけ素晴らしい人物か比較対象を作り、演出。『デブスの姉を持って恥ずかしい。元婚約者を救ったように、私も救って欲しい』とアランドロが泣きついてくることを期待していたようだが、幼稚過ぎて呆れてしまう」
ミアは顔を真っ赤に染めて、ブルブル震えだした。
薄々感じていた事だったが、お粗末な計画である。
その計画で肝心なのは『私とアランドロの親密度』だろう。アランドロが私をもともと嫌っているとか、恥ずかしいと思っているのが前提になければ成り立たない。
仲の良い姉弟だった場合、その思惑とは正反対の結果になってしまう。
調査不足?だったわね。
応援ありがとうございます!
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