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2話 アンリーナが居なくなって
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陛下がすぐにアンリーナを捕まえようと、兵士の追手を放ったが、見つけられなかった。
急ぎ侯爵家に使いを出し、アンリーナを捕らえようとしたが、部屋はもぬけの殻だった。
いつ帰ったのか、どう荷造りしたのか、家具すらも無かったことに、使用人達は首を傾げていた。
唯一残って居たのは、アンリーナが愛用していた白い仮面が、床に置いてあるのみだった。
それから三ヶ月がたった。
城を上げて、フレデリックとローズの結婚式を執り行っていた。
「フレデリック殿下万歳!」
「精霊姫ローズ様万歳!」
王都では盛大な祝賀パレードが行われている。
二人は教会から城までをオープン馬車に乗り、人々に手をふって答えていた。
家の二階から降る花びらのシャワーを浴び、二人は幸せの絶頂を味わっていた。
「俺の精霊姫。一生君を愛するよ」
「一生を貴方に捧げますわ」
見つめ合い、二人はゆっくりとキスをした。
人々の歓声が王都中に木霊した。
そんな幸せを、巨体な影が水をさした。
「キャーーーーーー!!」
祝福の歓声を送っていた人々は、恐怖の悲鳴を上げた。
「わっ、ワイバーンだ!」
「ワイバーンが攻めて来た!!」
「聖域はどうなってるんだ!」
「精霊姫様、お助けください!」
怒号飛び交う街道で、人々は精霊姫ローズに詰め寄った。
「えぇい!近寄るな!」
「フレデリック様助けて!」
「衛兵!ローズに民を近付けるな!」
「「「はっ!」」」
現場は大混乱に陥った。
×××
人々をかき分け、疲労困憊で王城にたどり着いた二人。
急いで玉座の間に向かった。
「父上!」
「フレデリック!ローズ!」
国王は青い顔をしていた。
玉座の間には宮廷魔導師や騎士団長、教会の最高司祭がいた。
「これはどういうことですか!?祝賀パレード中にワイバーンが飛来しました!」
皆一様にうつむき黙っていた。
「父上!」
「聖域が消えた…」
「へ?」
フレデリックは王子にあるまじき馬鹿な表情を浮かべた。
「そっ、そんな事あるわけがない!現に精霊姫ローズがここに」
全員の視線を一身に受けたローズ。
「ひっ!」
ローズはたじろいだ。
皆の視線に『本当に精霊姫なのか?』と疑惑の目を見たからだ。
「わっ、私はこの物語の主人公『精霊姫』よ!私には神聖力があるんだから!」
「では、再度この水晶に触れて下さい」
最高司祭は懐から手のひらサイズの水晶を取り出した。
この水晶はプルメリア王国初代女王が精霊女王からもらった『神聖力で光るライト』だ。
×××
15年前。
精霊女王からの神託があった。
《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする。
彼女が健やかに成長できるように配慮せよ。
決して、彼女の自由を奪う事は許さぬ。
精霊姫に何かあれば、古の約束を果たしに行く。
人々はそれに備えよ》
神託があったとき、エルメリーズ侯爵家に双子の赤子が産まれた。
当時の最高司祭はこの水晶を持ち、エルメリーズ侯爵家に赴いた。
二人の赤子の部屋に入った瞬間、水晶が光出したのだ。
誰もがアンリーナが『精霊姫』だと信じた。
しかし五年後、階段から足を滑らせたアンリーナは顔に大怪我をおってしまった。
右の額から左の頬近くまで、それは大きな切り傷だった。
アンリーナはどこで手に入れたかわからない白い仮面をかぶり、傷を隠した。
その後、『神聖力で光るライト』はアンリーナが触っても反応しなくなった。
『精霊女王の怒りを買ったのかもしれない!』と教会は騒然としたが、聖域に問題が無かった為、水晶が故障したのかもしれないと考えられた。
そして月日は流れ、フレデリックがローズを伴いその時居た神官に『精霊姫はアンリーナではなく、ローズではないか』『エルメリーズ侯爵家の《長女》ではなく《少女》の間違いだったのではないか』と訪ねて来た。
水晶が故障している事を伝えたが、二人は『試すだけだから』と強引に水晶に触れた。
すると、故障していると思われた水晶がうっすらと光ったのだ!
フレデリックは『やはりローズの言ったことは本当だったんだ!これで俺達は一緒になれる』『貴方の妻になれるなんて、嬉しいです』
その後、神官に水晶が光ったことを証言書に書かせ、あの卒業パーティーでアンリーナを断罪したのだった。
×××
「貴女が真の精霊姫なら、もう一度水晶を光らせて下さい」
最高司祭はズイっと、水晶をローズの前に差し出した。
「私は、私は!主人公なんだから!」
ローズは水晶を手に取った。
しかし、水晶は光らなかった。
「こっ、故障しているんだ!だって、元々故障していたんだから!」
フレデリックが喚く。
「宰相」
国王が呟くと、控えていた宰相が宝箱を持ってきた。
国王が箱を開けると、そこには
「アンリーナの…仮面…」
ローズが呟いた。
最高司祭が水晶で仮面を触ると、うっすらの光ったのだ。
「そっ、そんな…」
驚愕するローズ。
「故障はしてなかったようですね」
最高司祭はフレデリックに侮蔑の笑みを向けて言い放った。
「何かの間違いだ!そっ、そうだ。その仮面を着けることで神聖力が備わるのではないか。ローズ着けてみろ!」
フレデリックは乱暴に仮面を取り、ローズに渡した。
「殿下無駄ですよ」
「うるさい!そんな事認めてなるものか!」
最高司祭が嗜めるが、フレデリックの目はギラツキ、ローズに有無を言わせなかった。
ローズは震える手で仮面を着けた。
すると、突然耐え難い頭痛に苛まれて倒れてしまったのだ。
「ローズ!」
場は騒然としたが、フレデリックとローズを退出させた。
「陛下、いかがなさるおつもりですか?」
宰相が問うた。
「最高司祭、聖域は復元出来ないか?」
陛下の弱々しい声に、最高司祭は首を横に振った。
「人間の力ではどうすることも出来ません。もしも可能だとするなら、本物の精霊姫が精霊女王の力を借りて、再構築する他ありません」
「騎士団長。この国の兵力で魔物を押さえ込めるか?」
渋い顔をしながら、騎士団長は答えた。
「恐れながら陛下に申し上げます。魔導師殿と連携が出来れば、本日王都に飛来したワイバーンの数程度なら対応可能です。ですが、聖域が無くなった以上王国各地で、似たような事が日常茶飯事になるでしょう。魔導師の数も兵士の数も圧倒的に足りません」
「陛下。諸外国に事情を話、援軍を呼び掛けるしかありません。あと、民にも説明し兵士を徴集・訓練させなければプルメリア王国の存続が危ぶまれます」
宰相は厳しい顔で進言した。
「わしやフレデリックは『精霊姫を追い出した愚王と愚かな王子』と語られるのだろうな」
「陛下。それもこの危機を切り抜けないと、語り継ぐ民も居なくなります」
「そうだな…。魔物に滅ぼされるのが先か、民の暴動で滅ぶのが先か…」
意気消沈し、途方にくれる国王。
「「「陛下…」」」
「すまん、気弱になった。宰相の案の通り、諸外国に援軍の呼び掛けを。戦力が整うまで民を保護してくれる国も探そう。皆、最善を尽くそう。一人でも多くの民を救うぞ」
「「「御意!」」」
急ぎ侯爵家に使いを出し、アンリーナを捕らえようとしたが、部屋はもぬけの殻だった。
いつ帰ったのか、どう荷造りしたのか、家具すらも無かったことに、使用人達は首を傾げていた。
唯一残って居たのは、アンリーナが愛用していた白い仮面が、床に置いてあるのみだった。
それから三ヶ月がたった。
城を上げて、フレデリックとローズの結婚式を執り行っていた。
「フレデリック殿下万歳!」
「精霊姫ローズ様万歳!」
王都では盛大な祝賀パレードが行われている。
二人は教会から城までをオープン馬車に乗り、人々に手をふって答えていた。
家の二階から降る花びらのシャワーを浴び、二人は幸せの絶頂を味わっていた。
「俺の精霊姫。一生君を愛するよ」
「一生を貴方に捧げますわ」
見つめ合い、二人はゆっくりとキスをした。
人々の歓声が王都中に木霊した。
そんな幸せを、巨体な影が水をさした。
「キャーーーーーー!!」
祝福の歓声を送っていた人々は、恐怖の悲鳴を上げた。
「わっ、ワイバーンだ!」
「ワイバーンが攻めて来た!!」
「聖域はどうなってるんだ!」
「精霊姫様、お助けください!」
怒号飛び交う街道で、人々は精霊姫ローズに詰め寄った。
「えぇい!近寄るな!」
「フレデリック様助けて!」
「衛兵!ローズに民を近付けるな!」
「「「はっ!」」」
現場は大混乱に陥った。
×××
人々をかき分け、疲労困憊で王城にたどり着いた二人。
急いで玉座の間に向かった。
「父上!」
「フレデリック!ローズ!」
国王は青い顔をしていた。
玉座の間には宮廷魔導師や騎士団長、教会の最高司祭がいた。
「これはどういうことですか!?祝賀パレード中にワイバーンが飛来しました!」
皆一様にうつむき黙っていた。
「父上!」
「聖域が消えた…」
「へ?」
フレデリックは王子にあるまじき馬鹿な表情を浮かべた。
「そっ、そんな事あるわけがない!現に精霊姫ローズがここに」
全員の視線を一身に受けたローズ。
「ひっ!」
ローズはたじろいだ。
皆の視線に『本当に精霊姫なのか?』と疑惑の目を見たからだ。
「わっ、私はこの物語の主人公『精霊姫』よ!私には神聖力があるんだから!」
「では、再度この水晶に触れて下さい」
最高司祭は懐から手のひらサイズの水晶を取り出した。
この水晶はプルメリア王国初代女王が精霊女王からもらった『神聖力で光るライト』だ。
×××
15年前。
精霊女王からの神託があった。
《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする。
彼女が健やかに成長できるように配慮せよ。
決して、彼女の自由を奪う事は許さぬ。
精霊姫に何かあれば、古の約束を果たしに行く。
人々はそれに備えよ》
神託があったとき、エルメリーズ侯爵家に双子の赤子が産まれた。
当時の最高司祭はこの水晶を持ち、エルメリーズ侯爵家に赴いた。
二人の赤子の部屋に入った瞬間、水晶が光出したのだ。
誰もがアンリーナが『精霊姫』だと信じた。
しかし五年後、階段から足を滑らせたアンリーナは顔に大怪我をおってしまった。
右の額から左の頬近くまで、それは大きな切り傷だった。
アンリーナはどこで手に入れたかわからない白い仮面をかぶり、傷を隠した。
その後、『神聖力で光るライト』はアンリーナが触っても反応しなくなった。
『精霊女王の怒りを買ったのかもしれない!』と教会は騒然としたが、聖域に問題が無かった為、水晶が故障したのかもしれないと考えられた。
そして月日は流れ、フレデリックがローズを伴いその時居た神官に『精霊姫はアンリーナではなく、ローズではないか』『エルメリーズ侯爵家の《長女》ではなく《少女》の間違いだったのではないか』と訪ねて来た。
水晶が故障している事を伝えたが、二人は『試すだけだから』と強引に水晶に触れた。
すると、故障していると思われた水晶がうっすらと光ったのだ!
フレデリックは『やはりローズの言ったことは本当だったんだ!これで俺達は一緒になれる』『貴方の妻になれるなんて、嬉しいです』
その後、神官に水晶が光ったことを証言書に書かせ、あの卒業パーティーでアンリーナを断罪したのだった。
×××
「貴女が真の精霊姫なら、もう一度水晶を光らせて下さい」
最高司祭はズイっと、水晶をローズの前に差し出した。
「私は、私は!主人公なんだから!」
ローズは水晶を手に取った。
しかし、水晶は光らなかった。
「こっ、故障しているんだ!だって、元々故障していたんだから!」
フレデリックが喚く。
「宰相」
国王が呟くと、控えていた宰相が宝箱を持ってきた。
国王が箱を開けると、そこには
「アンリーナの…仮面…」
ローズが呟いた。
最高司祭が水晶で仮面を触ると、うっすらの光ったのだ。
「そっ、そんな…」
驚愕するローズ。
「故障はしてなかったようですね」
最高司祭はフレデリックに侮蔑の笑みを向けて言い放った。
「何かの間違いだ!そっ、そうだ。その仮面を着けることで神聖力が備わるのではないか。ローズ着けてみろ!」
フレデリックは乱暴に仮面を取り、ローズに渡した。
「殿下無駄ですよ」
「うるさい!そんな事認めてなるものか!」
最高司祭が嗜めるが、フレデリックの目はギラツキ、ローズに有無を言わせなかった。
ローズは震える手で仮面を着けた。
すると、突然耐え難い頭痛に苛まれて倒れてしまったのだ。
「ローズ!」
場は騒然としたが、フレデリックとローズを退出させた。
「陛下、いかがなさるおつもりですか?」
宰相が問うた。
「最高司祭、聖域は復元出来ないか?」
陛下の弱々しい声に、最高司祭は首を横に振った。
「人間の力ではどうすることも出来ません。もしも可能だとするなら、本物の精霊姫が精霊女王の力を借りて、再構築する他ありません」
「騎士団長。この国の兵力で魔物を押さえ込めるか?」
渋い顔をしながら、騎士団長は答えた。
「恐れながら陛下に申し上げます。魔導師殿と連携が出来れば、本日王都に飛来したワイバーンの数程度なら対応可能です。ですが、聖域が無くなった以上王国各地で、似たような事が日常茶飯事になるでしょう。魔導師の数も兵士の数も圧倒的に足りません」
「陛下。諸外国に事情を話、援軍を呼び掛けるしかありません。あと、民にも説明し兵士を徴集・訓練させなければプルメリア王国の存続が危ぶまれます」
宰相は厳しい顔で進言した。
「わしやフレデリックは『精霊姫を追い出した愚王と愚かな王子』と語られるのだろうな」
「陛下。それもこの危機を切り抜けないと、語り継ぐ民も居なくなります」
「そうだな…。魔物に滅ぼされるのが先か、民の暴動で滅ぶのが先か…」
意気消沈し、途方にくれる国王。
「「「陛下…」」」
「すまん、気弱になった。宰相の案の通り、諸外国に援軍の呼び掛けを。戦力が整うまで民を保護してくれる国も探そう。皆、最善を尽くそう。一人でも多くの民を救うぞ」
「「「御意!」」」
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