【完結】フィクション

犀川稔

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1.5話 存在意義

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 あの日から僕は。いや、僕たちは正式な恋人関係となった。正直、今でも赤城と付き合った事実は信じ難い。
 遡る事3日前、僕は赤城から返事をもらってからどう帰ったのかほとんど覚えてない。あの後、赤城は佐々木くん達と約束があると言って先に教室を出たところまではなんとか覚えている。
「どんな顔で教室に行けばいいんだ。」
 そんな小言を言いながら学校の支度を進める。なんとか準備を終え、家を出る。いつもは長く感じる電車も今日は早く感じた。
 ...そもそも今まで学校で話してなかったわけだし、どうするもなにも普通に。いつも通りの生活をすればいいんじゃん。そうじゃん。
 心で自分と会話しながら下駄箱に靴を入れる。
「なににそんな頷いてるの?」
 後ろから不意に声をかけられてびっくりした。
 赤城がイヤホンを外しながら上履きに履き替える。
「あ、赤城おはよう。金曜日ぶりです。ありがとうございます。」
「...はよ。それ言ったらほとんどの人金曜日ぶりだと思うけど、どうも...。こちらこそです?」
 謎の挨拶から始まったけど、その後一緒に階段を上がっていた。沈黙の中赤城が口を開いた。
「そういえば、聞いてなかったんだけどさ...」
「おー!赤城じゃん。はざーす!ちょい自販行くから付き合ってくんねー?」
 遮って佐々木が赤城の肩を組み連れて行った。
「行ってしまわれた...。」
 1人取り残された恋はクラスに向かい自席に着いた。
「なにを言いかけたんだろう。」
 ぼーっと考え事をしていると、仲川と相馬暁人そうまあきとが声をかけてきた。
「おはよ。芦野、今日珍しく早いじゃん。委員会でもあったの?」
「いや、ないよ。いつも通りの電車だったんだけどなんか早く着いたっぽい。」
 そんな会話からいつも通りのくだらない話になっていった。
 午前中は移動教室が多く、仲川たちといることがほとんどだった。お昼がきて購買に向かった。いつもあるメロンパンが売り切れで、しょうがないからラスト一個だった焼きそばパンを買った。弁当の会計待ちをする相馬を待っていた時、赤城たちが前から歩いてきた。
 一瞬目があった気がしたけど、すれ違い行ってしまった。赤城の後ろ姿を眺めていると振り返った赤城がそれに気がついて、後ろで小さく手を振ってくれた。
 やばい、嬉しい。勘違いじゃなかったー!てか...やる事もイケメンかよ。
 余韻に浸ってる恋に隣にいた仲川が声をかけた。
「そういやさっき聞いたんだけど、赤城好きなやつできたらしいぞ。佐々木があの恋愛だるいって言ってた赤城が遂に!って言いに回ってて、女子達が誰か探し回ってるって話。」
「マジか...。」
 少しというかだいぶ焦った。
 その好きな人ってさ、もしかしなくても僕の事だったりするよね...?嬉しいけど...けど、敵多すぎるて。
 複雑な気持ちが混ざり合って対処し切れなかった。
「いいよな。あーやってお高くとまった人たちって、いるだけでチヤホヤされて。女にも困らず苦労なんてありませんよーってか?周りの人間なんて見えてないんだろうし、自分たちが1番って思ってんだろうよ。」
 すれ違う人たちの会話が聞こえてきた。
 きっと赤城たちのことを言ってるんだろうな。自分のことを言われてるわけじゃないのに、心が痛くなった。弁当を買った相馬が帰ってきて、その後僕たちは教室に戻った。

「もしさ、もしだよ?好きな人が自分の見てる目の前で悪く言われてたらどうする?」
 突然の恋の質問に仲川がお茶を溢した。
「え?お前の好きな人の話?てか居たの?」
 半笑いになりながら聞いてくる。
「違う!もしもだって言ったじゃん。てか質問を質問で返してくるなよ。」
「あー。ね?なるほど。そう言うことにしておくよ。んー。言ってる相手によるかな。それがもし自分の仲良い人なら気分悪いからやめてって言うだろうし、そうでもない人ならなにも言わないかな。」
「気分悪くなるの?」
「そりゃいい気にはならんでしょ。自分が好きな人のこと悪く言われてすっきりする馬鹿がどこにいるって話よ。」
 仲川が笑って答えた。
「じゃあなにも言わないってやつは?」
「やっぱり関わりたくないのがでかいよ。あんまり知りもしない人に絡んでいきたくもないしな。でも1番は知らなくてラッキーってことだよ。好きな人なら尚更。いいところが見えすぎて好きになられたくないし、そもそも悪いところばっか目がいくのは自分に自信がない証拠だよ。」
 仲川の言葉にやけに納得してしまった。
「そっか。」
 恋の反応に仲川は背中を押すように続けた。
「人を愛するときは完全に信じることだ。誰か忘れたけど偉人が言ってた言葉だよ。これは恋人の言葉を信じろってことなんだけど、俺はそれだけじゃないと思ってるよ。好きになった理由、それを信じ抜けってことなんだよ。付き合っていくとだんだん疎かになっていくことだからな。初心に戻って考える事も大事ってことだ。」
 くさい事を話し合う自分たちに2人して笑ってしまった。
 寝ていた相馬が笑いを聞いて起きてきたけど、掘り返すことはなく終わっていった。

 午後の授業は上の空で、なにも頭に入ってこなかった。先生が忘れ物を取りに教室を出ると斜め後ろの席の佐々木くんと赤城が話を始めた。
 なんの話か分からなかったけど楽しそうな赤城の声にとても安心した。その時赤城が僕の手の上に自分の手を重ねた。不覚にもドキッとしてしまった。結局授業終わりギリギリに先生が帰ってきて、プリントが配られて今日の授業は終わった。赤城の手もそっと離れていく。
 帰ろうとする僕に、
「今日の委員会、会議終わるまでちょい待ってろだってさ。」
 目が合わないまま赤城から伝えられた。
「今日委員会だったの知らなかった!ありがとう。そっか早く終わる系だといいね。」
 僕が答えると、赤城が佐々木くんたちの元に行ってしまった。

「お待たせ。」
 赤城が1人で教室に帰ってきた。
「おかえり!まだ先生来てないよ!長引いてるのかな...。」
「どうだろうね。会議はもう終わってるんじゃない?」
「じゃあなんでまだ...」
 静まり返った教室で赤城が僕を抱きしめた。
「委員会なんてパチ。ただの口実だよ。ずっとこうしたかった。」
 温かい赤城の腕の中で自分の心臓の音がうるさく感じた。
「早く帰りたかった?」
 赤城の声が授業の時より近く聞こえる。
「ぜ、全然。赤城が早く帰りたいって思うかなって。だからあー言いま...した。」
「そっか。」
 安心したように微笑んで恋の頭を撫でた。
「今日なんかあった?」
 赤城が机にもたれ掛けながら恋に聞いた。
「なにかって...なに?」
「いや、お昼いつもパンの時はメロンパンじゃん。違ったから。」
 下を向きながら気まずそうに赤城が言った。
「今日は売り切れだったの。一足遅かったみたい。赤城は周りのことよく見てるね。」
 褒める恋の手を引いて、赤城が自分の傍に恋を寄せた。
「周りを見てるんじゃないよ。芦野を見てるの。今日もずっと考えてたよ。話せるタイミングもなかったからこうやって嘘ついてでも2人きりになりたかった。」
 ...い、イケメンだ。モテる男の格の違いを見てる気がする...僕も伝えたい。赤城が僕に気持ちを示してくれるみたいに。
「僕は信じてるよ。」
 突然の恋の発言に赤城が固まる。
「えっと...ごめん。なにを信じるって?」
 そりゃそんな反応になるわ。めっちゃ自己解決しちゃってたし。
「付き合っていくとだんだん気持ちも変わっていくんだって。それで好きが減っていくって。でもね、僕はそうならないように赤城を信じるし...。幸せだって思ってもらえるように頑張るから!」
 誇らしく語った恋に赤城が笑って返した。
「って言う誰かの言葉に対しての芦野さんのアンサーですかね?」
「...マザーナカガワのありがてえお言葉です。」
 赤城が声を出して笑った。
「久々こんな笑ったわ。うん、芦野さん、君最高だわ。マジで。」
 赤城が楽しそうに笑うから、つられて僕も笑った。
「でもさ、なにも頑張る必要ないって。ほんとに。いてくれるだけでいいから。俺は幸せにしたい派の人間なんで、芦野はそのままでいて。」
 そう言われて気持ちが晴れた気がした。
 僕は赤城の悪口を言われて嫌だったと同時に、自分の存在について引っかかっていたんだと思った。赤城はかっこいい。その上こうやって相手に安心を与えてくれる。...でもその相手が本当に僕でいいのか。きっとその答えが出なかったんだ。ここの場所に立つ人間は他にもたくさんいる。
 でも違くて、赤城は数ある選択肢の中で僕を選んで、そのままでいていいと言ってくれた。自分そのものに存在する意味がある事を教えてくれた。それがすごく嬉しかったんだ。
「赤城...本当に幸せにするの上手だね。」
 赤城が泣きそうになる僕を抱きしめて頭を撫でた。
「そりゃそうよ。ちなみに愛するのも得意なんで大人しく愛されてといてね。」
 赤城の言葉が全部優しい。
 今なら仲川の言っていた言葉の意味がよくわかる。知られたくない。この表情もこの言葉も全部僕だけに向けられたものだから。
 でもね...正直僕は。仲良い人でも知らないで欲しいと思ってしまうよ。
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