上 下
7 / 11
私も、女なんですけど

6

しおりを挟む

 最後のデート?当日。

 雑居ビルの5階にあるバーは、狭いけれど綺麗で良い匂いがした。

 とりあえずカウンターに掛けて「もうひとり来ます」とだけ伝えてお水を貰う。

 初めてでシステムが分からないため、メニューを開き価格帯を確認。

 これは夜景代も含まれてるのだろう価格設定に「ひゃー」と驚いた。



 彼は後から入って来て慣れた風に隣に座り、アルコールメニューを開いて

「この辺なんてオススメ」

とブルーキュラソーベースのカクテルを指差した。

「…ファジーネーブルで」

「なんだよ、せっかくオススメしてやってるのに」

「これが好きなんだもん」

もう私の好物も忘れちゃったのかな、強引なやり口にイラッとする。

 もとよりもう別れてる訳だし、ムードなど不要だからさっさと話して終わりたいのだが。

 彼はオススメだというブルーアローなるカクテルを注文し、メニューを閉じる。


「…今日は、来てくれてありがとう」

「まぁ、最後だし」

「俺さ、長く一緒に居てお前のこと軽んじちゃってたのかもしれない。反省してる」

「そーなんだー」

 ダンディーなバーテンダーさんはチャカチャカとシェイカーを振り出して、私の生返事を掻き消した。

 私はもう彼の話よりも、一杯1000円以上するカクテルに興味津々だ。

「俺さ、職場の仕事できる女に嫉妬しててさ、ついあんな愚痴ばっかになっちゃって」

「みっともないね。でもそれを自分で認めたんだからまだ進歩したじゃん」

「もう、俺とは無理か?」

「無理だよ。情はあったけどさ、女が女がって言われてるうちに気持ち悪くなったし」

「そうか」

彼はため息をついて俯く。

 さすがに暴れたりはしないな、混ざり合ったカクテルがグラスに注がれてひと段落を感じさせる。

 乾杯して飲み干したらサヨナラだ、彼のカクテルが揃うのを待った。


「夜景、すごいな」

「うん?そだね」

「あっちの…窓際で飲まない?」

「…良いけど」

 カウンターに背を向ける形で壁付けの席があり、そこの窓からは街の夜景がしっかり望める。

 出来上がったグラスを持ってカウンターを離れて、窓際席で形だけ乾杯した。

「………美味しい」

「うん、こっちも美味い」

「良いお店だね」

「だろ、会社の人に教えてもらったんだ……なぁ、それひと口くれよ」

「は?やだよ」

恋人時代ならいざ知らず、もう他人なのだから回し飲みは御免だ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生王子はダラけたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,706pt お気に入り:29,349

ショート朗読シリーズ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:0

チート鋼鉄令嬢は今日も手ガタく生き抜くつもりです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,069pt お気に入り:136

龍の寵愛

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,207pt お気に入り:2

処理中です...