【完結】どれだけ永く生きてても

紫蘇

文字の大きさ
85 / 134
助手と先生

先生、終わりと始まりの話

しおりを挟む
温泉からの帰り道。

「…先生、俺との最初、とか良く覚えてるね」

ちょっと不貞腐れたようにユーゴが言う。
はは、そりゃ、恥ずかしい過去、だもんね。

「そうだね、最近、思い出すことが多くて。
エースの恋を応援したりとかしてるとね、自分の初恋のこととか、童貞捨てたときとか、ロストバージン…処女を喪失したってことね、そのときとか…初めて恋人が出来たときとか、考えるようになって」
「へえ」

ふふ、その「気になるけど気にしない」みたいな態度、かわいいんだから。

「僕ね、こことは違う世界から飛んできたって話、覚えてる?」
「うん」
「僕はね、どこかよその星空の中を飛ぶ宇宙船…まあ、船だね、その乗組員だったの。仕事は…お医者さん。」
「うん」
「住んでる星が保たなくなる前に、宇宙へ出て新しい星を探そう…っていう計画で、宇宙へ出た。新しい航法が開発されてね、それで行けるとこまで行こうって…食べ物に困らないように船の中で色んなものを栽培したりね、そうやって、大勢の人と一緒に旅をした。
船の中では子孫を絶やさないように、割とお気軽にセックスする雰囲気で…僕はバイセクシュアル、簡単に言うと男も女も恋愛対象ってことね、それもあって結構色んな人に誘われて…セックスした。
初めては全部、そこで捨てた。
勉強と研究ばかりで恋愛下手、彼女も彼氏もいたことがない…40手前のおじさん、それが元の僕」
「へえ」

面白くないって顔、ふふ。

そうだね、今からするのは…終わりの話。

「ただ、そうやって産めよ増やせよ…ってやるんだけどさ、誰も妊娠しないんだ。今考えると、それは予兆なんだけど…、僕たちは、ある病気に感染してた。
それは、性病…まあ、セックスすると感染する病気なんだけど、感染率が高くて、潜伏期間が長くて…それに、症状が…ね。えげつなくて。」
「うん」
「…ある日、何人かで、1人を殺して…食べた」
「えっ」
「その病気に罹るとね、人間が人間を食べたくなって…終いには理性がなくなるんだ。人間が肉に見えてきて…殺して食べてしまおうって、なるんだ。
 1人、1人と人が減って。
 僕は偶然、殺さなかったし殺されもしなかったよ…だけど、多分僕も、その病気にかかってた。医者だから、頑張って治療法を探したけど…もう、手遅れのとこまできてしまって」
「…うん」
「その中で…1人だけ感染してなかった子がいてね。
船で1番若くて…そのとき、16歳だったのかな、クロエ君に似てる子でね…かわいくて、賢かった」
「うん」
「その子…誰ともセックスしてなかったんだ。
小さな子に手を出すような大人もいなかったから…
なんせ、出発したときは、11歳だよ?
みんなで可愛い可愛いって、大事にしてたしね」
「うん」
「僕は、その子を脱出ポッド…小さな船、に乗せて、コールドスリープ…眠り続けることで長く生きられる、そういう術、みたいな?…をかけて、それを母星に向けて送り出した。…誰か、見つけてくれますようにって…そのおかしな病気の研究と一緒にね」
「うん」
「そんでね、僕は、最期…ブラックホール…空のどこかにある、重力が…いや、無茶苦茶強烈な渦の真ん中にある星、みたいなものに船で突っ込んだ。病気を、広げちゃいけないと思ったから」
「うん」

そして、ここからは始まりの話。

「それで、気がついたら、この星にいたの。そこら中火山が爆発して、地震が起きて、嵐が吹き荒れてる、そんな中で目を覚まして、次の瞬間に、波に飲まれて、海の藻屑になって…で、またどっかで起きて、そしたらちっちゃな生き物…ぎりぎり生き物、と呼べるものがいて。で、今度は火山の噴火に巻き込まれて…、目を覚ますたびに、そうやって死んで生き返って…そうしてある日、痛みで目を覚ますんだ」
「うん」
「僕の体をね、動物たちがむしゃむしゃ食べてた。
おなかが空いてたのかな、わからないけど、まあ、食べられても僕、元に戻るでしょ、ちょくちょく食べに来てたみたいで…でも、目が覚めたその日、その動物たちがね…苦しみだして。グニャグニャって…溶けて、人間になった。それが、人間のはじまり」
「ええっ」
「そうやって、色んな獣が人間になった。それが髪の色や目の色の最初の違い」
「そ…うなんだ」
「獣から人間が出来て、僕はようやく一人じゃ無くなって…こうしてずっと起きてるようになった」
「うん」
「初めてこの星で…セックスしたのは、その人間たちと…かな。発情期って、あるでしょ?セックスさせてもらえない子が出るじゃない、だからその子と。」
「……うん」
「思えば、そっちの経験は豊富でも、恋愛ってしてこなかったなと思って」
「うん」
「だから…ユーゴが、好きだって言ってくれたとき、ほんとはすごく嬉しかったよ」
「うん」
「…だけどさ、恋人いない歴が何十億年だもん。
さすがにないなって、思って。そしたら意外と粘るじゃない?…体だけでも、あげてみようかなって、思って。そしたら自分から媚薬出てるし、ああ、やっぱりそれだけなんだなーって思って」
「うん」
「そしたら…うっかり、眷属にしちゃって」
「うん」
「責任とらなきゃなって…」
「うん」
「まあ、いつの間にか好きに…なってたし、
 その…僕の好みの男にさ、成長してさ、
 頼りになるし、可愛いし、だから…さ」
「うん」
「だからね、改めて、ちゃんとしようと思って」
「……うん」

「愛してるよ、ユーゴ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

さんかく
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定 (pixivにて同じ設定のちょっと違う話を公開中です「不憫受けがとことん愛される話」)

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

最弱オレが、最強魔法騎士様のパートナーになった件

竜也りく
BL
「最悪だ……」 その日イールはめちゃくちゃ落ち込んでいた。 イールが通う魔術学校の卒業試験は制限時間72時間の中でどれだけ強い魔物を討伐できるかで審査される上、二人ひと組のチーム選だからだ。 入学してからこのかた常にダントツ最下位を取り続けてきたイールと組むなんて誰だってイヤだろうと思うと気が重いのに、パートナーを見てさらにため息を深くした。 イールのパートナーは、入学以来ダントツで首席な上に、代々騎士の家系に生まれたせいか剣の腕にも定評がある。その上人を寄せ付けない雰囲気ではあるものの顔もいいという、非の打ちどころのない完璧さを誇る男だった。 しかも彼はとんでもないSランクの魔物を仕留めるだなんて言いだして……。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

処理中です...