失われた都市ジャンタール ―出口のない街―

ウツロ

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二章 伝説の都市

11話 セオドア

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 ロバを連れて遠ざかるセオドアを追う。
 こちらの気配に感付いたのであろう、セオドアは振り返り眉をひそめた。

「チィ~」

 舌打ちだ。やはりこの男、故意にこの館へと誘導したな。
 ロバが目的だったか、あるいは私の荷物か、またその両方か。
 どちらにしても私の死を願っていたのは間違いなさそうだ。

「これはピーターパン殿。夢の世界から帰っておいでかい?」

 しかめた表情から一転、セオドアは口元に笑みを浮かべると、尊大な態度でそう言い放つ。

 コイツは他人をハメて、利を得ようとする油断ならない男だ。
 このようなヤカラは、早めに処分しておくに限る。
 剣に手をそえ、切りかかる隙をうかがう。

「おいおいおい、チョット待てよ。ロバを助けてやったんじゃねえか。感謝こそされ、切りかかるなんて事は――チ~ット乱暴すぎやしねえか?」

 こちらの殺気を感じたのだろうセオドアはそう言った。

「ふん。よく回る舌だな。だがキサマが故意にここに誘導した事実は変わらない。ロバを盗もうとしたことも」
「ハア~、俺が教えた宿屋はもっと先だ。まさか、こんなところで油売ってるなんて思いもしねえよ。それでも助けてやろうとしたんだゼィ。だが、どうやっても扉が開かねえ。しゃーねえから、ロバだけでも連れ出してやったってワケよ」

 恩人を殺そうとするとは酷い奴だ、などと肩をすくめるセオドア。
 この男、いつの間にか被害者面をしている。なんとも、ふてぶてしい。こんな奴を生かしておく必要はない、ここでしとめるべきだ。

 が、もう少し喋らせてからのほうがいい。殺してしまっては情報が得られない。
 この手の者は本当の中に少しだけウソをまじえる。そのほうが見分けがつきにくいからな。
 逆をかえせば有益な情報も多いってことでもある。

「では、なぜオマエがここにいる? そして、ここはなんだ? 」
「そらまあ、心配になったからよ。ここは夢の館っつってな、サッキュバスが根城にしてる危険な場所だ。それを伝え忘れたから、ワザワザ追っかけてきてやったってこった」

 ふん、しらじらしいウソを。
 死ぬタイミングを見計らっていたのはあきらかだ。
 自分では手をくださない。いやなヤリ口だ。

「そうやって死体から身ぐるみ剥いでいるワケか。まるでハイエナだな」
「オイオイオイ、ひで~こと言うな。ちょっと伝え忘れただけじゃねえか。それにな、荷物は有効活用だよ。死んだら使えねえだろ? ロバだってそうだ。飼い主がいなきゃ飢えるだけだぜ」

「なるほど。ならば持ち主が現れたんだ、ロバを返してもらおうか」
「もちろん、いいぜ」

 セオドアは手綱を引く手を離した。

「しかし、アンタずいぶんと悪運が強ええんだな。大抵の奴ぁ、寝たまま干乾びちまうゼ」
「ずいぶんくわしいんだな。まるで一部始終をみているみたいだ」

 やはり故意か。
 ジャンタールにきたものの何人が餌食にあったのであろう。

「ハハッ! そう怖え顔すんじゃねえよ。あんたの体からは死の匂いって奴がプンプンするぜ。そんな奴の相手をするほど俺は……暇じゃないんでな!!」

 言うが早いか、セオドアの手から何かが放たれる。
 それは漆黒の柄のない刃の部分だけの飛び道具。暗器か。
 距離は約十メートル。放たれた暗器はかなりの速度で迫って来る。だがこの程度、かわすのは造作もない。

 眉間に向かって飛んでくる黒い刃を、首をひねって避けた。

 が!! 驚愕する。
 いつ投げたのか、新たな刃が私の胸に迫っていたからだ。
 それは先程の刃のすぐ下の軌道をたどっていた。
 とっさに剣で弾く。同時に二本投げたのか? 一本目の影にかくれ飛ぶ、二つ目の刃。やはり手練れ……

 だが、驚くのはまだ早かった。 
 目に映ったのはあらたな刃だったのだ。完全に姿を隠し、飛んできていた。
 刃の向かう先は脚。――これは避け切れん。

 黒い刃は私の脚に刺さると、キンと音を立てた。 
 危なかった。私のブーツは鉄板入りだ。このぐらいでは効きはしない。

 しかし、みずからの姿で次の刃を隠すように三本投げるとは。
 並みの腕ではあるまい。やはり油断のならない男だ。サッキュバスなんぞより余程手ごわい。

 気づくとセオドアの姿は消えていた。投げると同時に逃げていったのであろう。
 
 カポカポと音を立ててロバが近づいてくる。優しく体をなぜると鼻を擦り付けてきた。
 危険な目に合わせてしまった。ここは閉鎖された場所だ。私が思っているよりロバは貴重な存在なのかも知れない。
 今更ながら、旅を共にした相棒にもっと注意を向けるべきだったと反省した。


 さて、次に向かう方向だが、このまま進み宿を見つけるべきだろうか?
 セオドアの言葉だ、この先に宿があるかわからない。
 奴が罠を張っている可能性もある。
 しばし考えるも、いずれ街の探索はせねばならない。拠点となる宿のある可能性の高い道を進むべきだと考え、このままむかう事にした。


 歩いているとやがて、直進する道と、左に曲がる道に差し掛かる。
 どちらへ行こうかと思案する私の耳に、わずかな音が入ってきた。

 トポポポポ。

 何であろうか? 水をためる時の音に似ているようだが。
 どうも前方から聞こえている。私の足は自然とそちらに向かっていった。

 さらに道は左右に分かれていた。
 左を見れば行き止まりとなっており、壁にドアノブらしき物がついている。
 そして、右の道はというと……何だこれは!

 不思議な光景に息をのむ。
 通路の先が少し開けた場所となっており、その真ん中に巨大な水瓶みずがめのような物が浮いていたのだ。
 水瓶を固定するものなどない。その身一つで宙に浮いている。
 また、その水瓶はやや傾いており、そこからとめどなくあふれる水が、くぼんだ地面に放射状の水路をつくっていた。

 明らかに水の出る量と水瓶の容量があっていない。およそ自然の摂理を無視している。
 しばらくあっけに取られて見ていたが、急に喉の渇きを覚えた。
 大量の水を見たせいだろうか。


 不意に手綱を持つ手が引かれる。ロバが走り出したのだ。
 導かれるように進んでいくと、足元を流れる水路の一つへたどりつく。
 水に鼻を近づけ、ロバはクンクンと匂いを嗅いでいる。そして、止める間もなくゴクゴクと飲みだした。

 慌てて手綱を引き、飲むのをやめさせる。何が入っているかわかったものではない。
 先ほど館で井戸水を飲ませておいて、何を今更とも思わぬでもないが、用心に越したことはない。

 飲むのを中断させられたロバは、こちらを向くと「何してんだ、離せよ」といった顔で見てくる。
 大丈夫なのか? 飲めるのか?
 心配する私をよそに、ロバは明らかに「フン」といった見下す目を向けてくる。
 無駄に賢いな。知らんぞ、自己責任だぞ、と呟いて引く手綱をゆるめる。

 再び水を飲み始めたロバを横目に、辺りの様子を探ってみる。
 どうもこの辺は人の気配を感じる。何というか人が頻繁に往来する形跡が見て取れるのだ。

 見回した結果、いくつかのドアノブと、その上に掛かるプレートを見つけた。
 プレートに描かれているのは、いずれも読む事ができない。
 適当に選ぶか。
 しばらくロバの様子を観察し、異常がないことを確認すると、『INN』と描かれた扉を開けてみる事にした。
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