失われた都市ジャンタール ―出口のない街―

ウツロ

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二章 伝説の都市

12話 つかの間の休息

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『INN』と描かれた扉を開け中に入ると、これまでの静寂がまるでウソのような喧騒に包まれた。
 テーブルを囲む多数の男たち、その間を飛び回り注文らしき物を紙に控える少年、以前よく見た酒場の光景がそこにあった。

 こんなに人がいたのか。これまで人の気配をほとんど感じなかったが、ここへきてのこの活気。
 突然の変化に戸惑いさえ覚える。
 まぼろし……ではないな。
 しっかりとした人の息吹を感じる。音、におい、扉にふれる感触から夢でないこともあきらかだ。

「あんた、そこは裏口だよ。ロバなんか連れて入らないどくれ」

 大声で呼びかけてくる者がいる。
 年齢は四十台前半だろうか、ふくよかな体型をした中年女性で、食事を乗せたうつわを運んでいる。

「プリッツ、新しいお客さんだよ。案内してやんな」

 続けて言う中年女性に反応して、少年がこちらに走りよってきた。
 年のころは十歳前後か短く髪を切りそろえており、私と目が合うと屈託のない笑顔を向けてくる。

 このプリッツと呼ばれた少年は、私に付いてくるよう手で示すと、背中を向けて歩き出した。
 無言のまま歩き続ける少年。彼につれられ進むと、厩舎きゅうしゃらしき場所へと辿り着く。
 動物特有の匂いがただよう。柵で作られた仕切りがいくつもあり、牛、馬、巨大なトカゲが繋がれていた。

「ごくろうさん」

 厩舎には人間もいた。
 二十台半ばぐらいの男で、部屋のスミにある酒樽に腰かけ、布でおのれのブーツを磨いている。
 馬丁ばていか? (※馬の世話をなりわいとする人)
 それにしては妙だな。
 スキがない。
 男は短めの髪を後ろで束ね、すり切れた革のチュニックに布のズボン、そして、革のブーツを身につけている。
 やや軽薄な印象を受けるが、眼光は鋭く、服の上からでも鍛え上げられた筋肉が見てとれた。

 戦いをなりわいにしている者だ。
 馬丁としては似つかわしくないし、引退して職につくには若すぎる。

 男はもういいとばかりに、クイッっと顎を斜めに上げた。
 プリッツ少年はうなずくと、パタパタと足音を立てて来た道を戻っていった。
 
 残された私はロバを引いて部屋の中央に歩み寄る。 

「ロバの預かりは一日1ジェムだ。探索に連れて歩こうが歩くまいが、房代として1ジェムもらう。どうする?」

 男にそう問いかけられて、少し考える。
 探索か。ふむ、気になる言葉だが、ひとまず置いておこう。厩舎があり、酒場がある。

「もしやここは宿屋か?」

 逆に問いかけてみた。

「見ない顔だと思ったら新人さんか。俺はフェルパ、よろしくな後輩」

 後輩か。
 この男も外からやってきた口か。何年かはしらんが、でられなくなってしまってからそれなりの月日がたったと見受けられる。
 しかし、フェルパ。どこかで聞いたことのある名だが、さて……。

「ここは宿屋に併設された厩舎だ。受付が一階、その奥が食堂、二階が寝床だな。来たばっかりか? ジェム持ってんのか? なきゃどうにもならんぞ」

 肩をすくめ、しかめっ面をするフェルパなる人物。
 私は青い宝石を一個取り出すと、彼に向けて親指で弾いた。
 クルクルと回転しながら青い光を放つ宝石。酒樽からスルリと降りたフェルパは、それを片手で掴み取るとニヤリと笑いこちらに歩み寄ってきた。

 握手のため右手を出すフェルパ。だがそれには応じず、代わりにロバの手綱を渡した。

「……毎度」

 苦笑いする彼に背を向け歩き出す。
 どうも気に食わん。この男からは得体のしれない何かを感じる。
 さきほど出会ったセオドアほどではないが、腹にどす黒いなにかを秘めているようにみえる。
 悪党……とも思えないが、恨み、怒り、諦めといった負の感情をつよく感じるのだ。

 あまり深くかかわらないほうがよさそうだ。
 来た道を戻り、食堂の横を抜けると、受付と思わしきカウンターへと辿り着いた。
 そこにはクリっとした大きな目の女性がいた。十代後半であろうか、栗色の髪を肩まで伸ばし、笑顔で話しかけてくる。
 
「いらっしゃいませ。宿泊ですか? 部屋は開いてますよ」
「それはありがたい。一泊いくらだ?」

 彼女によると一泊2ジェム。料金は先払いで長期滞在による割引はなし。
 食事代もふくまれておらず、必要ならば一階の食堂ですませよとのことだった。

 2ジェムか。
 高いのか安いのかわからんな。
 夢の館とやらで手にいれたジェムがあるため、数日は泊まれそうだが……。

 それにしても先ほどのプリッツ少年もそうだが、荒廃した都市の雰囲気に似つかわしくない女性だ。
 ゴロツキどもからどのように身を守っているかが気になる。
 それなりの秩序があるのだろうか?
 犯罪を取り締まる機関が存在するとは思えないのだが……。

 まあ、いい。
 そのへんはおいおい学んでいくとするか。
 まずは身を休める場所を確保したことを喜ぶべきだろう。

「ああ、とりあえず一泊たのむ」

 そう言ってジェムを手わたすと、彼女はカードを一枚くれた。
 なんでもこのカードはカギとなっており、かざすと印字された数字とおなじ番号の扉が開くしくみとなっているのだという。
 これがカギか。
 にわかに信じ難い。が、疑っても仕方あるまい。とりあえず試してみよう。

 二階へと続く階段をのぼり、カードに書かれた番号の扉を探す。
 途中、別の扉にカードをかざしてみる。だが、カギが開くことはなかった。
 やがて目的の扉まで辿り着くと、番号を確認してカードをかざしてみた。

 ピコリ。
 どこか無機質な音が響く。
 ドアノブを回すとすんなり扉は開いた。驚きだ、こんなペラペラの板がカギの役割を果たすとは。

 中に入り、部屋中をくまなく見て回る。
 とくに危険は感じないのだが……やはり奇妙だ。この部屋がというか、扉の中そのものが。
 セオドアと出会った酒場でも思ったのだが、不自然なのだ。どうも違和感がぬぐえない。

 ジャンタールに入ってきて、ずっと続いてきたのはツルリとした壁が高くそびえる通路だ。
 だが、ひとたび扉をくぐると、石を基調とした壁になっており、木でできた棚やテーブルが備え付けられている。
 この急な変化はなんなのだろうか。

 また、ここには天井がある。
 通路は見上げれば星が瞬く空であった。が、ここは石造りの天井でしっかりとおおわれている。
 これが明らかに部屋の中であるとの認識を高めている。

 あと気になるのは照明であろうか。
 部屋のなかは、しっかりとした明るさが保たれている。
 ところどころに備え付けられたランタン、これが光源であると思えた。
 のだが、どうもおかしい。なにやら影のつき方がおかしいのだ。

 ランタンの前に立ったならば、私の影はうしろに伸びるハズ。
 しかし実際は、足元に散らばるように影がつく。
 ありえないことだ。これはランタン以外の光源が複数あることを意味している。
 おそらく、外の通路どうよう、壁、天井などそれ自体が発光しているのだろう。
 なんとも奇妙な空間であろうか。

 私は剣を握りしめたまま、壁に背をあずけた。
 熟睡はできそうにない。
 しかし、そっとマブタを閉じると、意識はすぐに暗い闇の中へ落ちていった。
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