失われた都市ジャンタール ―出口のない街―

ウツロ

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二章 伝説の都市

13話 プリズナー

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 目覚めはスッキリとしたものではなかった。
 体のあちこちが痛い。

 どの程度寝ていたであろうか? 立ち上がり、首や肩を回す。
 いかんせんここは太陽が見えないため、朝なのか夜なのか分からない。
 私の感覚を信じるならば、今は夜だと思うのだが。
 まあいい。まずは情報収集もかねて一階に足を運んでみるか。


 食堂へと向かうと昨日と同じく多数の人で賑わっており、プリッツ少年がせわしなく注文をとっていた。
 食器を運んでいるのは中年女性だ。おそらく役割が決まっているのだろう。
 私は空いている席につく。すぐにプリッツ少年が紙の束を持ってやってきた。
 紙には料理の絵と数字が書かれている。
 数字は金額を表しているのであろうか? プリッツ少年に説明を求めようとして――やめた。
 おそらく彼は口がきけない。身振り手振りでやり取りをしている姿をみて、そう思う。
 顔はつねに笑顔なのだ。怠慢たいまんで喋らないのではなく、喋れないと考えた方が自然だろう。
 私は2と書かれた物を指差す。プリッツ少年はうなずいてパタパタと奥に走って行った。

 しばらくすると、ふくよかな体型の中年女性が絵に描かれたのと同じ料理を持ってきた。

「待たせたね、2ジェムだよ」

 彼女が持つ木のトレイには、野菜スープ、焼いたなにかの肉、パンが乗っている。
 スープも肉も湯気を発しており、暖かい食事であるとわかる。
 私は懐から2ジェムを取り出すと、一瞬だけプリッツ少年に視線を向けてからトレイと交換した。

「気になったのかい? あの子は口がきけなくってね。こちらの言っている事は分かるから、気にせず声をかけてやっておくれ」

 中年女性はそれだけ言うと、すぐに仕事に戻っていった。

 やはりそうか。予想通り口がきけないのだな。
 生まれたときからそうなのか、こころに傷を負ったからなのか。
 いずれにせよ、今を懸命に生きているのはわかる。中年女性が言うように、気にせず振舞うべきだろう。

 さて、情報収取といくか。
 プリッツ少年も中年女性もいそがしく飛び回っている。彼らを呼びとめるのはよくないだろう。
 となると、客か。
 食事を口に運びながらさりげなく周囲に目をむけてみる。


 客の大半は男だ。みな食事と酒を楽しんでいる。
 体格はよい。
 肉体労働、それも荒事になれているようすだ。

 その中の、とある団体に注目した。
 武器を身につけた男たちだ。ひとしごと終えたのだろう、高揚感が抜けきらないのか、酒を煽りながら話す声は徐々に大きくなっている。

「ひゃはは。あん時の顔、傑作だったぜ」
「うるせえよ。お前だってビビッてただろ」

「ビビッてねえっての。真っ先に俺が奴らの頭をカチ割ってやったじゃねえか」
「嘘つけ。一番先に槍で刺したのがブルーノだ」

「いーや、俺の斧が先だね。お前、怖くて目えつぶってたんじゃねえのか?」
「何だと! お前こそ目閉じたまま斧振り回してたんだろ」

 五人でテーブルを囲み、おのおの酒と食事をとりながら会話を続けている。
 今は二人が話し、他の者がうなずいたり笑ったりしており、仲は良さそうに見える。

「しかし、あんなに数がでてくるたぁな」
「全くだ、ネズミみてえにゾロゾロ出てきやがって」
「一個下に下がるだけでああなるとはな」

 今までうなずくだけだった大柄な男が会話に加わる。槍を持っているところからブルーノ呼ばれた男だと予想する。

「ああ、危なかった、数が増えるだけであんなに厄介だとは」
「おかげで結構稼げたぜ、黄色持ってた奴もいたしな」

 その後も彼らは笑いながら酒と会話を楽しんでいた。
 内容から察するに、化け物退治で生計を立てているのだろう。

 彼ら以外の客も似たようなものだ。
 武装していないものの、荒事をなりわいとする特有の匂いがある。

 ここの客は普通の労働者と思わしき者がいない。
 なぜだろうか。兵士の宿舎でもあるまいに。

 酒場にはさまざまな人種が現れる。
 猟師や農家や職人といったものたちが。

 やはり太陽の存在だろう。
 太陽なくして植物は育たない。生産者がいなければそれをあつかう加工業も成り立たない。
 おおよそモノづくりというものが存在してないのではなかろうか?

 だからこそ不思議だ。
 物資はどうやって補給している? 米や麦なしでどうやって酒を提供できる?
 彼らの稼ぐ手段も気になるが、そのあたりも知る必要があるだろう。
 探索には物資は不可欠だ。
 まずは街を探索し、施設と住人の把握に努めるとしよう。

 食堂を出ると、宿泊の受付カウンターに向かい、滞在の延長を申し出る。
 対応したのは昨日とおなじ女。名前はシャローナと言うらしく、とても物腰がやわらかいのが好印象だ。
 ひとまず私は、もう一日分の宿泊費を支払うと、物資の補給ができそうな施設について尋ねてみた。

「ここを出てすぐに色んな店がありますよ。保存食を売っている店から、武器、鎧なんかも」

 出てすぐにとは、巨大な水瓶があった場所だろうか?
 いや、あそこは裏口と言っていた。表玄関から出てという意味だろう。

「今から出かけるのですか? 夜には地下から魔物が上がって来て危ないですよ。あ、戦士さんには余計なお世話でしたね。ごめんなさい」

 シャローナは軽く頭を下げると済まなさそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。表情が豊かな娘だ。
 しかし、やはり今は夜か。それにしても太陽なしで時間をどの様に把握しているのであろうか?

 無意識の内に言葉が漏れていたのであろう、私の呟きに彼女が反応する。

「やっぱり外からの人でしたか。表のお店で時計を売ってますよ。ただ高いので、普段はみなさん星を見て時間を把握してますね」

 星か……時間と方角を知るのに星は有効だが、ここジャンタールでは配置が違う。
 使うなら誰かに習わねばいけないだろう。

 しかし、ここジャンタールとはなんなんだろうな。
 外から来た我らにとっては伝説の都市だが、そこに住まうものにはどう映る?

 そっと疑問を投げかけてみた。
 
「ジャンタールとは何かですか? ……難しいですね。私はここから出たことがないので、他と比べようがないんです。外から来た人の中には牢獄って言う人もいますね。この街にも牢屋はありますけど、正直意味がよく分かりません」

 彼女はうつむき加減で言う。その心は悲しみではなく戸惑いだろうか? 何とも言えない感情の揺れを感じる。

 ふむ、外の世界を知っている者にとっては牢獄に映るが、彼女にとってはここが全てなのであろう。知らなければ牢獄とは思わないということか。
 いずれにせよここから出るのは簡単ではなさそうだ。
 バラルドは財宝を持ち帰ったというが、さて……
 
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