失われた都市ジャンタール ―出口のない街―

ウツロ

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三章 地下迷宮

17話 探索を終えて

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 見られている。
 そう感じたのは地上への階段がもうじき見えるであろう分かれ道に差しかかった時だ。
 こちらをうかがう複数の気配がある。

 出口は左。
 何者かは反対側の通路に息を潜めているようだった。

 悪意に満ちている。
 このような物はいくどとなく経験してきた。
 私は外套がいとう(マント)を脱ぐと、分かれ道目がけて投げる。

 フワリと舞う外套。が、それはとつぜん引っ張られたかのように左の通路へ消えていく。
 矢だ。放たれた矢が、外套を通路の奥へと運んでいったのだ。

 辺りを静寂が支配する。
 さて、どうするか? こちらを殺そうとしているのはあきらかだ。
 外套を射抜いたとて声のひとつもかけないのだ。魔物とまちがったなどとは考えられないだろう。

 引きかえすか?
 いや、出口はここしか知らないのだ。いずれにしてもここを通る必要がある。
 それにもっともマズイのが、逃げて行く先にいた魔物と挟み撃ちになることだ。

 やるか。
 右の壁に寄りそい、通路の先に剣を晒した。
 丹念に磨かれた刀身は、複数の影を淡く映し出す。

 鏡のように……とまではいかないが、これで十分だ。壁の発する光を遮るのが人だ。
 壁にむかってナイフを投げる。
 キン、と音を立ててナイフは軌道をかえた。

 こうして壁に跳ねさすことによって身を晒すことなく相手をうつのだ。

 もう少しこちらか?
 斜めに数歩下がってスローイングナイフを投げる。「グウッ」とくぐもった声が聞こえた。

 命中だな。
 それを切っかけに数人のざわめく声がする。
 動揺している。おろかな。

 声と気配をたよりに、さらにナイフを投げる。
「痛え」「クソ!」「なんで!?」などの喚き声がひびく。

 思いの他、上手くいく。この壁は何の材質で出来ているか知らんが、ずいぶんとキレイに跳ね返るものだ。
 ありったけのナイフを投げる。しかし、しだいに堅い物に刺さるような音に変化した。何かで防いでいるのであろう。
 そうして残りのナイフが一本になった時、大きな声が通路の奥からひびいた。

「待て、味方だ。一旦攻撃を止めろ」

 味方ねえ。いきなり矢を飛ばしておいて味方とは。何とも勝手な言い草だな。
 まあよい。こちらのナイフも品切れだ。

「分岐路まで出てこい。顔をみせろ」
「分かった、攻撃すんなよ」

 やがて曲がり角から姿を見せたのは三人の男だ。
 一人はクロスボウを持った男で、もう一人はショートソードに革の鎧。
 一番大柄な男は両手剣をもっている。たぶんこの男が声を出したのだろう。

 出て来たのは三人だが、これだけではあるまい。通路の奥で、いまだ息ひそめる気配を感じる。

「なぜ矢を射った?」

 我ながらくだらない質問をする。殺して荷をうばうつもりなのは明らかなのだ。
 しかし、くだらない問いだからこそ相手の人となりも見えよう。そこには迷宮での暮らしも含まれるに違いない。

「魔物と間違えちまってな。悪かったと思ってる」

 答えたのはやはり両手剣の男。
 どうも、コイツがリーダー格のようだが。

「ほう。魔物のなかにはマントを投げるものがいるのか」
「ああ、いる。初心者さんには分からないかもしれないが……」

 いるのか。まあ、そうだろうな。
 地上で出会った老婆のサッキュバスは人の言葉を話していた。
 地上にいて地下にいないなんてことはないだろう。迷宮にはより強く、狡猾な者どもがうごめいていると考えた方が自然だ。

 だが、気になることがある。コイツは私のことを初心者と言った。
 なぜ見抜いた? 
 装備、立ち振る舞い。初心者だと見抜くポイントはたくさんあるだろう。
 しかし、コイツらはこちらの姿をまともに確認せず襲ってきたのだ。
 手練れなら返り討ちにあう可能性だってある。
 不慣れだとひと目でわかるなにかがあるのか?

「ひとつ聞きたい。なぜ、わたしが初心者だと?」

 バケモノと戦ったのはここへ来てからだが、戦いそのものには慣れている。
 みたところ装備もわたしと大きく違わない。ぜひとも理由が知りたいところだ。

「ム。それはその……」
「オイオイオイ。聞いてたらオメエ、さっきからエラそうに!」

 両手剣の男が言いよどんだところに、ショートソードの男が割り込んできた。
 無精ひげを生やした背の丸まった男だ。
 話をそらそうとしたのだろう。小汚い男だがタイミングは悪くない。

 ――いや、それだけではないな。
 男の瞳には見下しの色がうつっている。
 こちらがひとりだと知って強気に出たのだ。こいつはやたらと私の背後をうかがっていた。

「お前ぇ、どういうつもりだ。ナイフなんぞ投げくさって」

 男は私のスローイングナイフを指差し、怒鳴り声を上げる。
 先に矢を射った事など気にもかけてないのか、それとも三歩あるくと忘れてしまうほど頭が残念なのか。
 恐らく後者だろうなと問いかける私に、男は怒りの表情で歩み寄ってくる。

「待て、ジャン」

 両手剣の男が呼びとめる。
 が、少し遅かった。
 摘かみかかろうとした男の手首がストンと下に落ちたのだ。

「え?」

 切ったのは私。
 ショートソードの男は床に落ちたおのれの手を見てのんきな声をだす。
 状況が把握できていないのだ。それでよく今まで生きてこられたものだ。

「矢を!!」

 両手剣の男がクロスボウを持った男に呼びかける。
 だが、それも遅い。
 わたしはショートソードの男の体を持ち上げると、そのまま駆けた。

 コイツは盾だ。
 案の定バスリとクロスボウの矢が肉の盾にささる。
 そのまま肉の盾を両手剣の男に投げつけると、クロスボウを持つ男めがけて剣をふるった。

 コトリ。
 クロスボウを持つ男の首が床に落ちる。
 おなじく装填しかけのクロスボウも落ちる。
 連射できぬクロスボウは不便だな。まあ、連射されようが正面から飛んでくる矢などかわすことは造作もないが。

 すばやく反転。
 今度は両手剣の男に切りかかる。
 男は押しつけられたショートソードの男の体を払いのけたところだった。

 これも遅い。
 男が両手剣を振りかぶろうとした瞬間には私の剣はすでに、相手の肩口から入り脇腹へと抜けていた。


 さて、そろそろ頃合いか。
 通路の奥に隠れているであろう者に標的をうつす。
 分岐路まで進み右手の通路を見ると、案の定一人の男がクロスボウを手に、こちらの様子をうかがおうとする最中さなかであった。

 これも遅い。
 最後のスローイングナイフを投擲。
 慌ててこちらに狙いを定めようとした男の眉間に突き刺さった。
 残された力で引き金を引いたのか、男は天井に向かって矢を発射しながら倒れていった。

 あとのこりは?
 通路の隅で倒れたまま動かない人影がある。
 首筋には私が投げたナイフ。即死だったか?
 それとも死んだふりなら面白いところだが。

 ゆっくり歩み寄りトドメをさす。
 やはり死んでいた。心臓に剣を突きいれたが、ピクリとも動かなかった。

 これで終わりか?
 ――いや、まだいるな。

 積み上げられた荷物の後ろ。荒げる息を必死で殺そうとする者がいる。
 悪いが、見落としはしない。
 距離を取りつつ回り込む。
 そしてその姿を視界に収めたと思ったとき、クロスボウの矢がこちらに飛んできた。

 首を捻って回避する。悪くないタイミングだ。
 頭部を狙ったのか? 腕もよい、外套を撃ったのもこの者だろうか?

 撃った相手をみすえる。
 年齢は十代前半だろうか、まだあどけなさの残る少年だ。
 腹には私の投げたナイフが刺さっている。

 彼は苦しそうな表情でクロスボウをこちらに向けている。
 矢は……あるな。しっかりと装填されている。
 すぐ近くには矢のなくなったクロスボウがひとつ。

 なるほど。あの死んでいた男のものを奪ったのか。
 悪くないな。だが……
 その手に持つクロスボウは小刻みに揺れている。

 悪いな。少年。
 
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