失われた都市ジャンタール ―出口のない街―

ウツロ

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三章 地下迷宮

20話 買い出し

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 翌日食事を取ってからアッシュと買い物に出かける。
 ちなみに二人別の部屋をとった。睡眠中、寝首をかかれないように警戒したためだ。
 お互い無防備な姿を晒すほど信用していない。

 宿の時計を見ると午前九時。さすがに店は開いてるであろう。
 まず、手にいれるのは地下に潜るための必需品だ。『TOOL』と描かれたプレートの扉を開く。
 今回はすんなりと開いた。中は石で組まれた壁、そして木製のテーブルに様々な物が置かれている。
 松明、火打ち石、火炎石、ランタン……全て商品だろうか、見た事もない、使い方すら分からない物もたくさんあった。

「ベントリーの雑貨屋へようこそ」

 奥の方から声が聞こえた。
 この男がベントリーなのだろうか? やせぎすの口ひげを生やした四十前後の男が、モミ手をしながら近づいてくる。なんとも胡散臭い。

「初めてお越しの方ですな? 地下に潜るための道具を探しておいでとお見受けします。もう地下には入られましたかな? 中には暗い部屋がたびたびありまして明かりの道具は必須です。他にも様々な必需品をひとまとめにしたセットを販売いたしております。ジェムはお持ちですかな? お持ちでなければ金貨をジェムとお取替えをいたしております。他にも――」

 喋り続ける男を手の平で制して、後ろに立つアッシュを見る。
 アッシュはコクリと頷くと、前に進み出て必要な物だけを選んでいく。
 すると店主は当てが外れたと感じたのであろう、一瞬嫌な顔をしたが、私の視線に気づくとすぐに笑顔に戻った。

 ここに並べてある沢山の商品には全て値札が付いている。
 こういった店は客によって売値を変えてきたりするのが常套手段なのだが、見た目とは裏腹に存外良心的なのであろうか。
 それにこれらの商品、一見してどれも新品のようだ。まさか、ここで作っているのだろうか?
 売買されるのなら、中古品なども売られてなければおかしいのだが…… 
 私は疑問を投げかけてみた。

「店の商品にはあらかじめ値段を記載するのがルールで御座います。そして我が商店は開店以来一度も値上げ致しておりません。また買い取りに関しましても、常に適正な価格で買い取らせていただいております。それに品質はいかなるときも最高の状態を維持しており、さらに品切れなどはこれまでも、これからも起こす事などないでしょう。何故ならこれらの商品は――」

 全部を聞いていたら老人になっちまう。店主の話に被せるように、時計は無いのかと尋ねてみた。

「おお、時計ですね。勿論ございます。各種揃えておりますが、お客様は探索者で御座いましょう、携帯に便利なこちらの商品などが……」

 奥へと歩きながら喋り続ける店主。
 品物を取りに行ったのであろう、遠ざかるにつれ声が小さくなり、やがて聞こえなくなった。

「……のように首から下げて携帯可能で、耐久性は折り紙付き。そして針を合わす必要も無く常に正確で永遠に時を刻み続けるのでございます。さらに……」

 帰ってくるにつれて声も聞こえるようになる。
 それからしばらく、店主は手に持つ時計の良さを熱心に語った。
 コイツはいつまで喋り続けるんだ? 
 説明はもういい。値段を教えろと、店主の息継ぎの瞬間を見計らい口を挟む。

「防水機能もございます。それに……値段ですか? 携帯用の時計は三種ありまして、こちらの商品が一番手頃な価格となっており、何とたったの100ジェム。これがあればうっかり時を見逃し、魔物が活発に行動する夜を避ける事が出来ます」

 高いな。現在手持ちは55ジェム。所持している金貨は今の所ジェムに変えるつもりはない。街から出て文無しでは都合が悪かろう。
 時計は必要ないと断り、アッシュに視線を向けると丁度商品の選定は終了したようで目が合った。
 彼が選択したのは、火炎石、ランタン、携帯用救急箱、紙とペン、方位磁石、水筒、調理器具、それとタオルと紐だ。
 まず火炎石は持っているので却下、ランタンも持っているが性能がかなり違うようだ。燃料の油からして違う。そのためこちらは購入。
 携帯用救急箱、水筒、調理器具も同じだ、品質が明らかに高い。特に水筒はかなり軽かった、複数あっても困らないだろう。
 紙とペンと方位磁石は地図を書くためだ。こちらの紙も羊皮紙と比べ重さも色もまるで違った。

 こうして必要な物を選択した結果、合計で18ジェムとなった。ちなみに値引きなどは全くない、商品の値段は完璧に管理されているようだ。
 これで残金は37ジェム。いっきに、懐が寂しくなる。
 武器や防具など見たかったのだが、アッシュの「アニキ、それじゃあ棍棒ぐらいしか買えないよ」の一言で断念した。
 棍棒なんぞいらん。石器時代の勇者になるつもりはない。
 それにしても「アニキ」か。アッシュの奴、急に距離を詰めて来たな。この人懐っこさが今まで生きて来られた理由の一つかも知れない。

 次は最も重要な物資、食料だ。
 アッシュの案内に従って『FOOD』の扉とへむかう。

 中にいたのは三十過ぎの小太りの男。椅子に座りカウンターに肘をついていたが、こちらに気付くと立ち上がり挨拶してきた。

「いらっしゃい」

 私の横をすり抜け前に出てきたアッシュは、手の平を相手にむけ「よっ」と挨拶を返す。

「おっちゃん中一つ」
「あいよ」

 中とは何であろうか? 疑問に思うが余計な口出しはせず、事の推移を見守る。
 そんな私にアッシュは片手の指を二本立てて、もう片方の手の平を上に向けこちらに差し出してきた。

 何? 2ジェムよこせって事か? コイツ急速に態度がデカくなってきたな。昨日は拷問しないでってベソかいてたくせに。
 何とも言えない気持ちのまま懐に手を伸ばす。

 取り出した2ジェムはアッシュを経由して店主らしき小太りの男に渡る。そして代わりにカゴが差し出された。
 再び椅子に腰かける店主。対するアッシュはカゴを手に壁際へとトコトコ歩いていく。
 そうして彼は壁に開いた複数の大きな穴の一つにカゴを収めると、こちらに振り返り手招きした。

 なんとなく分かってしまった。
 店内に入った時から気になっていたのだ。壁一面に描かれているんは、リンゴ、キャベツ、トマト、小麦……など全て食材の絵だった。
 さらに、その下には小さな窪みと、押して下さいと言わんばかりの四角い出っ張りがあるのだ。

 招く手に導かれるよう近づいた私は、アッシュが指差す小さな窪みにジェムを入れる。

 ……何も起こらない。
 だろうな、分かってる。下の出っ張りを押すのであろう。 何かドキドキする。私は少しためらいながらも、そっと手を伸ばす。

 もう少しで四角い出っ張りに手が触れる、そう思った矢先、下から伸びてきた手がパンと軽快に出っ張りを押してしまった。
 アッシュだ。

 ガゴッっと音がしてリンゴが複数出て来てカゴに落ちる。こちらに向いてニンマリ笑うアッシュ。
 キサマ、子供じみたマネを。

「アニキ、次はこっちだ」

 カゴを持って場所を移動するアッシュ。そして彼は、シチューの描かれた場所を指差す。
 イヤイヤ、シチューなんぞ入れたらカゴの隙間からダダ洩れだろうが。それとも鍋で受けるのか?

 尋ねてみてもアッシュは首を横にふるばかり。
 いちいちシャクにさわるなコイツ。助けたのはまちがいだったか?
 私は横目でニラむとジェムを窪みに入れた。

「まあ、見てなって」

 アッシュは四角い出っ張りを押す。

 ゴト、ゴトトン。
 なにやら音がして白い包みに入った立方体が数個出て来た。
 何だコレ?

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