糠味噌の唄

猫枕

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 月曜日の朝、町子が会社に行く準備をしていると、腫れぼったい目をした友香子がぼぉーっと起きてきた。

「私今日からまた勤務だから、悪いけど相手できないよ」

「あ~適当に時間潰すから大丈夫~」

 町子はビジネススーツに着替えて髪を後ろで一つに括る。

 インスタントコーヒーを入れてテーブルパンを齧る。

「棚にパンとかクラッカー置いてるから適当に食べて。
 あと、出かける時は一応置き手紙くらいしてってね」

 町子は友香子に合鍵を渡す。

「あ~。頭ガンガンするー。何も覚えてない。
 私、何か変なこと言わなかった?」


「・・・宝物がどうとか」

 咄嗟に鎌を掛ける町子。



「宝物?」

「・・・K地区には宝物があるとかなんとか」

 町子は友香子の反応を見た。

「え~?アレのことかな~?昔盗まれたってヤツ」

 町子の心臓がビクンと跳ねた。

「あー、でも町子ちゃんは見せて貰えないかな~。
 純粋な『村の子』じゃないもんね~」

「なにそれ~」

「どうせ大した物じゃないから」

「宝石とかじゃないの?」

「違う違う、なんか変な形の蝋燭立てみたいなもんだよ。ひょっとしたら銀とかかもしれないけど」

友香子は、

「私もチラッと見ただけだからね~」

 などと言いながら町子が緊急連絡先として書いた職場の電話番号の紙に下手くそな絵を描いた。

「なんか、こんな感じ」

「へ~、なんだつまんない。金塊かなんかかと思ったのに~」

 町子は努めて興味の無い素振りを装いながら、友香子の絵を目に焼き付けた。

 


 

 本当は少し残業して仕事を片付けたかったのだが、友香子が待っているかも知れないから早く帰る。

 『てっきり今日あたり帰るんだと思ってたのに、一体いつまで居座るつもりなんだろう』


 町子は先週会えなかった修司のことを思った。

 
 アパートに戻ると友香子がカレーを作って待っていてくれた。

 彼女なりに少しは気を使ってくれているらしい。

 部屋着に着替えて食べる準備をしていると、ドアをノックする音がして、勝手に出た友香子と鉢合わせた修司が驚いて変な声を出した。

「え、・・・あ、・・・すみません」

慌てて出てきた町子に、

「ゴメン、友達来てたんだ。
 また今度な」

 と言って引き返そうとした。

「待って、待って!」

 引き留めたのは友香子だ。

「もしかして町子の彼氏?ハンサムじゃない!」

「・・・まあ・・・そんな感じ・・」

 町子が恥ずかしそうに顔を赤くしていると、

「カレーだから一緒に食べましょうよ」

 とニコニコと修司を誘っている。


 修司も夕飯を食べさせてもらうつもりで来ていたので、遠慮しつつも靴を脱いでいる。


 三人は折り畳みテーブルを囲んで友香子が作ったにしては意外に美味しいカレーを食べた。

「彼氏は東京の人?」

 「ううん、違う。N市の人だよ」

「あ、俺、水片 修司です」

 修司がスプーンを持ったまま頭を下げると、

「私は黒崎 友香子です」

 と言った友香子の顔が、一瞬嫌悪に染まったように町子には見えた。

 しかしすぐに、

「町子さんとは小中学校が同じだったの」

 とニコニコしていたから『気のせいか』と思った。

 その後は地元の話題なんかで和やかに時間が過ぎていった。

 夕食を終えると修司は長居しないで席を立ち、

「お邪魔虫でごめんね~」

 と言う友香子に、

「こちらこそ、カレーごちそうさま。
 俺のことは気にしないでゆっくりしてね」

 と愛想良く笑った。

「今週の金、土にライブ行って、日曜日には帰りますから~。
 それまで町子ちゃん借りますね」

 という友香子の返事で町子は友香子の予定を初めて把握した。



  それからの数日は町子が仕事に行っている間に友香子は魔子ちゃんと遊んだり自由気ままに好きな場所に行ったりして過ごしているようだった。

 そして今日の夕方の便で帰るという日曜日の朝になって、いきなりこんなことを言い始めた。


「町子ちゃんさ~。せっかく東京に出て来れたんだから東京の男と付き合いなよ~」

 「・・・なんで?」

「いや、別に」

「・・・修司のこと気にくわない?」

「・・・止めた方が良いって思っただけ」

「・・・修司の母親が水片のおじいさんの隠し子だから?」

「・・・知ってたの?」

「・・・うん」

「町子ちゃんが修司くんと付き合うの、皆良い顔しないと思うよ。
 町子ちゃんのお母さんって真理おばちゃんと仲良しだよね。
 真理おばちゃんから見たら修司くんの母親は父親を奪った女の子供だよ。
 血の繋がった妹だけど憎んでると思う。

 町子ちゃんが修司くんと付き合ってるって知ったらお母さんと真理おばちゃんの友情にヒビが入るんじゃない?」

「・・・・別に、これから先もずっと付き合うかどうかも分からないんだし。

 ・・そこまで深刻に考えることかな?」

 すると友香子は苛立ちを顔に顕にして、

「修司くんってさぁ、ホントに偶然に町子ちゃんと出会ったのかな?」

 と言った。


「・・・え?どういう意味?」

 町子の心臓がドクドクした。

「・・・ごめんね。お世話になったのに嫌な事言って。
 ・・・でも、私から言えるのはこれだけだから。
 ・・・私、止めたからね?

 ・・・・町子ちゃん怒った?」

 「・・・いや・・・」

 町子はゆっくりと首を左右に振った。

「私はこれからも町子ちゃんと友達でいたい」

 への字に結んだ友香子の唇はふるふると震えていた。

「うん・・・友達だよ・・・」

 町子の声も震えていた。

 






 

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