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「は?」
「ですから婚約を解消してください」
「何様のつもりだ」
グレアムはソファーにどっかりと座って長い脚を組むと、
「まあ、そのうちオレがオマエを捨てるだろうがな」
と紙屑を丸めて投げ捨てるような仕草をして厭らしく嗤った。
プラチナブロンドにエメラルドの瞳を持つグレアム・フォルコンリー侯爵令息は絶世の美男子として世のご令嬢達を夢中にさせる存在だ。
彼の婚約者カトリーヌ・ソアルーサー子爵令嬢にとってはただのクソ男だが。
グレアムが好きでもない婚約者を手放さないのは一重にカトリーヌの実家の資産が目当てだ。
『まあ、すんなりと話が進まないのは想定内だわ。
かといってこのまま一生コイツとコイツの家族の経済奴隷になるなんて我慢できない』
カトリーヌは次の手に出ることにした。
まさか実行するとは考えていなかった親友キャサリンと冗談で考えた計画だ。
「私、死んだんですの」
「は?」
グレアムの声は間が抜けていて思わず笑いが洩れそうになる。
「一回死んで巻き戻ったんですの」
「馬鹿馬鹿しい。
くだらない嘘をつくな」
まあ、そう思うよね。嘘だし。
信じてくれなくとも頭のおかしいヤバイ奴だと思われて破談になってくれればもうけもの。
「どうやって死んだと思います?」
構わず話を続けるカトリーヌ。
「アナタに殺されたんですよ」
さすがにドキッとしたのか声も出ないグレアム。
「私達、予定通りに結婚しましたわ。
まあ、最初っから予想通りの冷えきった結婚生活でしたけど。
・・・邪魔になったんでしょうね私が」
嘘っぱちではあるけれど、現在の二人の関係からすればいかにもありそうな展開にグレアムの気持ちも少し動いたように見える。
この国には建国神話が存在する。
兄達の策略に嵌まって惨殺された弟が過去に巻き戻り悪党どもを成敗し初代王アーサーとなった、というものだ。
この話は国民の間で人気が高く、これまで何度も物語が書かれたり劇が上演されたりしてきた。
派生した物語も多数存在し、現在市中で人気なのは未来から過去に死に戻った男が国家の危機を救う話だ。
そんなわけで世間には
「前世の記憶がある」
だの
「別の世界から来た」
だのと主張する輩が後を絶たず、大抵の場合イタイ奴認定されて相手にされないのだが、中には偶然にしろ災害の予知を的中させて祭り上げられる者もいたりして、
「死んで時間が巻き戻る」
ことを信じる人間も意外と多いのだ。
「ハッ!じゃあオレはどうやってオマエを殺したんだ?」
首を絞め殺すのなんか楽しそうだなぁ、なんて言いながら両手で首を締める真似をするクズ。
「敵に教えると思います?」
余裕の表情でグレアムをかわすカトリーヌだが細かい設定は決めていない。
一方のグレアムは最悪な関係にも関わらず『敵』と言われたのは気に食わないようで不機嫌を隠そうともしない。
「命を狙われてることには気づいていましたからね。
メイドのマリーと親友のキャサリン、そして兄に手紙を書いたんですの。
『私はグレアム様に殺される』
ってね。
私が死んだ後どうなったかは分からないけど、きっとアナタは法の裁きを受けたんじゃないかしら。
アナタの立てた殺害計画の証拠もキャサリンに託しましたから」
「そんな作り話を本気にするわけないだろう?」
「・・・ピンクブロンドの可憐なご令嬢でしたわ」
「なに?!」
グレアムの顔色が変わった。
「アナタと一緒に私を殺した女性よ」
沈黙が流れる応接室でカトリーヌはグレアムの動揺を弄ぶ。
グレアムはカトリーヌがピンクブロンドの女の存在を知るはずがない、と思っている。
陸軍大臣の養女セリーヌに手を出していることは絶対に知られてはマズイ情報だ。
グレアムは彼女に会う時は誰にも知られないように細心の注意を払ってきたのだからカトリーヌがセリーヌの存在を知るはずがないのだ。
「そんな女は知らん」
嘘をつくグレアムに話を合わせるカトリーヌ
「それはそうでしょう。
未来の話ですから」
きっとこれから出逢うんですよ、と笑ってみせるカトリーヌに、
『もしかして、コイツの言っていることは本当なのかも知れない』
と思う馬鹿。
本当は既にカトリーヌはセリーヌとグレアムの関係を把握している。
大富豪ソアルーサー家の調査能力を嘗めないで欲しいものだ。
「赤ちゃんができましたのよ」
「彼女に?」
「私と彼女の両方に」
咄嗟のでまかせにしてはベビーな内容だと言った本人のカトリーヌが一番びっくりした。
「・・・なんで殺すまでしたんだよ」
「そんなの分かりませんわよ(そこまで設定を練っていない)。
だって私はアナタじゃないから
(このフレーズ万能じゃない?)」
「きっと、邪魔だったんじゃないですか?
愛し合う二人の未来の為に」
皮肉な笑みを向けるとグレアムの顔は蒼くなった。
『カトリーヌ様との婚約を解消して私と結婚してください』
会うたびに目を潤ませてグレアムに懇願するセリーヌの顔が目に浮かぶ。
もしかしたら本当にそんな未来があるのかも知れない。
「このままいくと、
アナタ犯罪者ですよ?」
思い詰めたようなグレアムにもう一押しするカトリーヌ。
「今でも感覚が残っているの。
あの時の痛みも苦しみも」
カトリーヌは両手を首に当てて喉元を撫で擦った。
「喉を掻き毟り、苦しみ悶えながら私は最期の力を振り絞って叫んだわ。
絶対に!絶対に幸せになんかさせない!!
アンタとアンタに繋がる凡ての人間を呪ってやる!!
ってね」
『呪ってやる』
この言葉の効力について教えてくれたのは親友のキャサリンだった。
「殺してやる!なんかよりずっと怖がるんだから」
神だの幽霊だのと実体のないものほど人は怖がるのだ、というキャサリンの話を聞いた時は、
「そんなものかしらねぇ」
と半信半疑だったカトリーヌだが、目の前のグレアムの様子を見て
「なるほど本当だった」
と納得した。
「私の家から破談の申し出はできませんから、グレアム様の方から宜しくお願い致しますわね」
優雅なお辞儀をして退室したカトリーヌは思った。
『喉を掻き毟って死んだ、ってことは毒殺されたのかしらね?私は』
「ですから婚約を解消してください」
「何様のつもりだ」
グレアムはソファーにどっかりと座って長い脚を組むと、
「まあ、そのうちオレがオマエを捨てるだろうがな」
と紙屑を丸めて投げ捨てるような仕草をして厭らしく嗤った。
プラチナブロンドにエメラルドの瞳を持つグレアム・フォルコンリー侯爵令息は絶世の美男子として世のご令嬢達を夢中にさせる存在だ。
彼の婚約者カトリーヌ・ソアルーサー子爵令嬢にとってはただのクソ男だが。
グレアムが好きでもない婚約者を手放さないのは一重にカトリーヌの実家の資産が目当てだ。
『まあ、すんなりと話が進まないのは想定内だわ。
かといってこのまま一生コイツとコイツの家族の経済奴隷になるなんて我慢できない』
カトリーヌは次の手に出ることにした。
まさか実行するとは考えていなかった親友キャサリンと冗談で考えた計画だ。
「私、死んだんですの」
「は?」
グレアムの声は間が抜けていて思わず笑いが洩れそうになる。
「一回死んで巻き戻ったんですの」
「馬鹿馬鹿しい。
くだらない嘘をつくな」
まあ、そう思うよね。嘘だし。
信じてくれなくとも頭のおかしいヤバイ奴だと思われて破談になってくれればもうけもの。
「どうやって死んだと思います?」
構わず話を続けるカトリーヌ。
「アナタに殺されたんですよ」
さすがにドキッとしたのか声も出ないグレアム。
「私達、予定通りに結婚しましたわ。
まあ、最初っから予想通りの冷えきった結婚生活でしたけど。
・・・邪魔になったんでしょうね私が」
嘘っぱちではあるけれど、現在の二人の関係からすればいかにもありそうな展開にグレアムの気持ちも少し動いたように見える。
この国には建国神話が存在する。
兄達の策略に嵌まって惨殺された弟が過去に巻き戻り悪党どもを成敗し初代王アーサーとなった、というものだ。
この話は国民の間で人気が高く、これまで何度も物語が書かれたり劇が上演されたりしてきた。
派生した物語も多数存在し、現在市中で人気なのは未来から過去に死に戻った男が国家の危機を救う話だ。
そんなわけで世間には
「前世の記憶がある」
だの
「別の世界から来た」
だのと主張する輩が後を絶たず、大抵の場合イタイ奴認定されて相手にされないのだが、中には偶然にしろ災害の予知を的中させて祭り上げられる者もいたりして、
「死んで時間が巻き戻る」
ことを信じる人間も意外と多いのだ。
「ハッ!じゃあオレはどうやってオマエを殺したんだ?」
首を絞め殺すのなんか楽しそうだなぁ、なんて言いながら両手で首を締める真似をするクズ。
「敵に教えると思います?」
余裕の表情でグレアムをかわすカトリーヌだが細かい設定は決めていない。
一方のグレアムは最悪な関係にも関わらず『敵』と言われたのは気に食わないようで不機嫌を隠そうともしない。
「命を狙われてることには気づいていましたからね。
メイドのマリーと親友のキャサリン、そして兄に手紙を書いたんですの。
『私はグレアム様に殺される』
ってね。
私が死んだ後どうなったかは分からないけど、きっとアナタは法の裁きを受けたんじゃないかしら。
アナタの立てた殺害計画の証拠もキャサリンに託しましたから」
「そんな作り話を本気にするわけないだろう?」
「・・・ピンクブロンドの可憐なご令嬢でしたわ」
「なに?!」
グレアムの顔色が変わった。
「アナタと一緒に私を殺した女性よ」
沈黙が流れる応接室でカトリーヌはグレアムの動揺を弄ぶ。
グレアムはカトリーヌがピンクブロンドの女の存在を知るはずがない、と思っている。
陸軍大臣の養女セリーヌに手を出していることは絶対に知られてはマズイ情報だ。
グレアムは彼女に会う時は誰にも知られないように細心の注意を払ってきたのだからカトリーヌがセリーヌの存在を知るはずがないのだ。
「そんな女は知らん」
嘘をつくグレアムに話を合わせるカトリーヌ
「それはそうでしょう。
未来の話ですから」
きっとこれから出逢うんですよ、と笑ってみせるカトリーヌに、
『もしかして、コイツの言っていることは本当なのかも知れない』
と思う馬鹿。
本当は既にカトリーヌはセリーヌとグレアムの関係を把握している。
大富豪ソアルーサー家の調査能力を嘗めないで欲しいものだ。
「赤ちゃんができましたのよ」
「彼女に?」
「私と彼女の両方に」
咄嗟のでまかせにしてはベビーな内容だと言った本人のカトリーヌが一番びっくりした。
「・・・なんで殺すまでしたんだよ」
「そんなの分かりませんわよ(そこまで設定を練っていない)。
だって私はアナタじゃないから
(このフレーズ万能じゃない?)」
「きっと、邪魔だったんじゃないですか?
愛し合う二人の未来の為に」
皮肉な笑みを向けるとグレアムの顔は蒼くなった。
『カトリーヌ様との婚約を解消して私と結婚してください』
会うたびに目を潤ませてグレアムに懇願するセリーヌの顔が目に浮かぶ。
もしかしたら本当にそんな未来があるのかも知れない。
「このままいくと、
アナタ犯罪者ですよ?」
思い詰めたようなグレアムにもう一押しするカトリーヌ。
「今でも感覚が残っているの。
あの時の痛みも苦しみも」
カトリーヌは両手を首に当てて喉元を撫で擦った。
「喉を掻き毟り、苦しみ悶えながら私は最期の力を振り絞って叫んだわ。
絶対に!絶対に幸せになんかさせない!!
アンタとアンタに繋がる凡ての人間を呪ってやる!!
ってね」
『呪ってやる』
この言葉の効力について教えてくれたのは親友のキャサリンだった。
「殺してやる!なんかよりずっと怖がるんだから」
神だの幽霊だのと実体のないものほど人は怖がるのだ、というキャサリンの話を聞いた時は、
「そんなものかしらねぇ」
と半信半疑だったカトリーヌだが、目の前のグレアムの様子を見て
「なるほど本当だった」
と納得した。
「私の家から破談の申し出はできませんから、グレアム様の方から宜しくお願い致しますわね」
優雅なお辞儀をして退室したカトリーヌは思った。
『喉を掻き毟って死んだ、ってことは毒殺されたのかしらね?私は』
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