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グレアムとカトリーヌが婚約したのは同い年の彼等が12歳の時だった。
カトリーヌの実家ソアルーサー子爵家は豪商からのいわゆる成り上がり貴族だ。
カトリーヌの父と祖父の二代で形振り構わぬ強引な手法で商売の規模を拡大し、
『台所洗剤から軍艦まで』
扱うこの国有数の大富豪に上り詰めた。
ところがカトリーヌの父ロバートは禁止されている火薬の原料の密輸出で摘発されてしまった。
爵位も商会も全て没収の危機に瀕した時に莫大な裏金と引き換えに事件を揉み消してくれたのがグレアムの父フォルコンリー侯爵だった。
こうしてソアルーサーはフォルコンリーに頭が上がらなくなった。
もっともこの事件自体が強大化するソアルーサー家の力を削ぐ為に王家と侯爵家が結託して仕掛けた巧妙な罠だったわけだが。
グレアムとカトリーヌの婚約はソアルーサーという強力な金蔓を掴んで離したくない侯爵の意向によって結ばれた。
『すごくキレイな子だけど冷たそうな人だわ』
それがカトリーヌのグレアムに対する第一印象だった。
大体の事の成り行きを知っていたカトリーヌはこの縁談は金目当てにすぎず、それを除けば成り上がりの娘が決して歓迎される存在では無いことも理解していた。
それにかつてカトリーヌの母を苛めていたご婦人達の急先鋒がグレアムの母親だというのもこの縁談を受け入れがたいものにしている一因でもあった。
そういうわけだから最初から侯爵家に対して好印象を持っていなかったことがカトリーヌの態度には現れていたのかも知れない。
一方のグレアムは一目見たカトリーヌを美しいとは思ったが、同時に感情の無い人形のようだとも思った。
人並み外れた美しい容姿に恵まれたグレアムは彼の高い身分も相俟って常に周囲にチヤホヤされて育ってきた。
行く先々で出会う女の子達は皆頬を紅潮させてまとわりついてご機嫌を取ろうとする。
時に鬱陶しい彼女らの行為はグレアムの優越感を満たしてくれたし、また自分の周囲の人間が等しくそのような反応を見せるのが彼にとっては当たり前だった。
なのに目の前の少女はニコリともせずに表情を動かすこともなく行儀良く座っている。
このグレアム・フォルコンリーと婚約できるというのに嬉しそうな笑み一つ溢さないとは。
『子爵の娘ごときの分際で生意気な』
グレアムはカトリーヌの南国の海の鮮やかな碧を思わせる美しい瞳が自分を映していないことに苛立った。
そして終始冷たい態度を取り続けた。
二人の交流のために定期的なティータイムが開かれるようになったが、当然のことながら会話が弾むこともなく居心地の悪い時間が流れるばかりだった。
「無駄な交流だな。ワザワザ会う必要もないだろう」
何度目かのティータイムでグレアムが冷たく言うと
「かしこまりました。
そのように致します」
とカトリーヌの抑揚の無い声がして、それ以後二人が顔を合わせることもなくなった。
グレアムはカトリーヌに会えなくなると、まさか感じるとも思っていなかった喪失感に苛まれたが、自分から言い出したことなので撤回することもできなかった。
それどころか気の進まない交流から解放されてホッとしているカトリーヌの顔がありありと思い浮かんできて、それがまた余計に彼を苛立たせた。
二人は同い年だがグレアムの方が誕生日が早い。
グレアムはカトリーヌにプレゼントを用意していたが、カトリーヌからグレアムにはプレゼントどころかカードの一枚も送られて来ない。
『なんでオレがあんなヤツのご機嫌取りをしなくちゃいけないんだ』
腹を立てたグレアムによってカトリーヌへの贈り物は届けられることなく廃棄された。
そうやって二人は揃って高等教育学院に入学する15才まで顔を合わせることは無かった。
カトリーヌの実家ソアルーサー子爵家は豪商からのいわゆる成り上がり貴族だ。
カトリーヌの父と祖父の二代で形振り構わぬ強引な手法で商売の規模を拡大し、
『台所洗剤から軍艦まで』
扱うこの国有数の大富豪に上り詰めた。
ところがカトリーヌの父ロバートは禁止されている火薬の原料の密輸出で摘発されてしまった。
爵位も商会も全て没収の危機に瀕した時に莫大な裏金と引き換えに事件を揉み消してくれたのがグレアムの父フォルコンリー侯爵だった。
こうしてソアルーサーはフォルコンリーに頭が上がらなくなった。
もっともこの事件自体が強大化するソアルーサー家の力を削ぐ為に王家と侯爵家が結託して仕掛けた巧妙な罠だったわけだが。
グレアムとカトリーヌの婚約はソアルーサーという強力な金蔓を掴んで離したくない侯爵の意向によって結ばれた。
『すごくキレイな子だけど冷たそうな人だわ』
それがカトリーヌのグレアムに対する第一印象だった。
大体の事の成り行きを知っていたカトリーヌはこの縁談は金目当てにすぎず、それを除けば成り上がりの娘が決して歓迎される存在では無いことも理解していた。
それにかつてカトリーヌの母を苛めていたご婦人達の急先鋒がグレアムの母親だというのもこの縁談を受け入れがたいものにしている一因でもあった。
そういうわけだから最初から侯爵家に対して好印象を持っていなかったことがカトリーヌの態度には現れていたのかも知れない。
一方のグレアムは一目見たカトリーヌを美しいとは思ったが、同時に感情の無い人形のようだとも思った。
人並み外れた美しい容姿に恵まれたグレアムは彼の高い身分も相俟って常に周囲にチヤホヤされて育ってきた。
行く先々で出会う女の子達は皆頬を紅潮させてまとわりついてご機嫌を取ろうとする。
時に鬱陶しい彼女らの行為はグレアムの優越感を満たしてくれたし、また自分の周囲の人間が等しくそのような反応を見せるのが彼にとっては当たり前だった。
なのに目の前の少女はニコリともせずに表情を動かすこともなく行儀良く座っている。
このグレアム・フォルコンリーと婚約できるというのに嬉しそうな笑み一つ溢さないとは。
『子爵の娘ごときの分際で生意気な』
グレアムはカトリーヌの南国の海の鮮やかな碧を思わせる美しい瞳が自分を映していないことに苛立った。
そして終始冷たい態度を取り続けた。
二人の交流のために定期的なティータイムが開かれるようになったが、当然のことながら会話が弾むこともなく居心地の悪い時間が流れるばかりだった。
「無駄な交流だな。ワザワザ会う必要もないだろう」
何度目かのティータイムでグレアムが冷たく言うと
「かしこまりました。
そのように致します」
とカトリーヌの抑揚の無い声がして、それ以後二人が顔を合わせることもなくなった。
グレアムはカトリーヌに会えなくなると、まさか感じるとも思っていなかった喪失感に苛まれたが、自分から言い出したことなので撤回することもできなかった。
それどころか気の進まない交流から解放されてホッとしているカトリーヌの顔がありありと思い浮かんできて、それがまた余計に彼を苛立たせた。
二人は同い年だがグレアムの方が誕生日が早い。
グレアムはカトリーヌにプレゼントを用意していたが、カトリーヌからグレアムにはプレゼントどころかカードの一枚も送られて来ない。
『なんでオレがあんなヤツのご機嫌取りをしなくちゃいけないんだ』
腹を立てたグレアムによってカトリーヌへの贈り物は届けられることなく廃棄された。
そうやって二人は揃って高等教育学院に入学する15才まで顔を合わせることは無かった。
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