嘘つき女とクズ男

猫枕

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  約束呼び出しの日、侯爵邸のエントランスまで出迎えに来たグレアムはカトリーヌに付き添ってきたユージンを見るなり明白あからさまに不機嫌になった。


「これはこれは義兄様ご機嫌よう」

「お久しぶり」

「義兄様をご招待した覚えはありませんがねぇ。

 親睦を深めるための婚約者同士の会瀬についていらっしゃるなど、いささか不粋ではありませんかね?」


「いやあ、私も家を留守にしがちで、なかなか大事な妹とふれ合う機会が持てなくてね。
 
この後二人で出掛ける予定なんだ。
 
邪魔はしないから隣室で待たせてもらうよ。」

 ユージンが引かないと見ると、グレアムは仕方ないと溜め息を吐いた。


「私はここで待たせてもらうから、君たちは気兼ねなく親交を温めると良い」

 ユージンは少しふざけた調子でそう言うと、隣の部屋に引っ込んだ。

 メイドがお茶の用意をして部屋から出ていく。

 グレアムと二人きりになると先日の恐怖が蘇ってきてカトリーヌの体が強ばる。
 自分は気丈だと思っていたが、思いの外ダメージを喰らっていたようだ。


 グレアムはそんなカトリーヌの様子を見てゾクゾクした。

 
「お茶を飲まないの?」

 身じろぎもしないカトリーヌに歌うようにグレアムが笑いかける。

「何か余計な物が入ってそうで」

 つんけんしたカトリーヌの物言いが、一生懸命に虚勢を張っているようで、グレアムは可笑しくて楽しくて嬉しくなる。

 カトリーヌは出掛けに飲んだ『緊張をほぐすサプリメント』が早く効いてくれればいいのに、と汗ばんだ掌をギュット握った。

 グレアムが席を立って優雅に踊るような足取りでカトリーヌに近づいて隣に座った。

肩に手を回し、

「この前のこと怒ってる?
 怖がらせてごめんね」

 と半分馬鹿にしたような口調で囁いた。

 カトリーヌはドン!とグレアムを突いて、

「さわらないで!」

 と睨み付けた。

「しーっ。

 騒ぐとお兄ちゃんが飛んできちゃうよ。

 せっかく二人きりなんだからさ、オレ達もっと楽しもう」

 グレアムはカトリーヌの髪を掻き上げて、じっと瞳を覗きこむ。

 オレが怖いか?泣け!泣けばいい。

 オレはお前の泣き顔が見たい。


 カトリーヌはグレアムの手を払いのけた。

「触るなって言ってるでしょう?!」

 立ち上がって怒鳴り付けた。

 恐怖と緊張はどこかに去っていた。



「婚約を解消してください」


( 以下、第一話参照)



 帰りの馬車の中でカトリーヌがユージンに

「こんなので上手くいくんでしょうか?」

 ちょっと不安気に聞く。

「帰りに見たヤツの顔は少なくとも平常心ではなかったな。
 かなり狼狽えてはいたと思う」

「布石にはなったでしょうか?」

「たぶんな」



 ソアルーサー邸には次の作戦会議の為に会員の皆様が既に集合していた。


「先生、私ちょっと調子に乗っちゃって台本に無いことを言っちゃったんです」

「なに?」

「ピンクブロンドのご令嬢と私が同時期に妊娠して、それでいよいよ私が邪魔になって殺した、みたいな感じ」

「泥沼~。まあ、言っちゃったものは仕方ないけど、そういう細かい所から辻褄が合わなくなるんだから今後は気をつけてね」

「は~い」

「って、なんでヒース泣いてんの?」

「え?だって赤ちゃんがお腹にいるのに殺すってヒドイよ~」

 キャサリンがダメな人を見る目をヒースに向ける。

「コイツは放っといて、第二弾~グレアムの母編~の計画確認に入りましょうよ」

 そうしましょ、そうしましょ、と皆が席について準備を始めているとアディヤが入ってきた。

「これどう?」

 なんですか?と皆の注目がアディヤの手に集まる。

「エリヤの眼」

それはルビーと思われる真っ赤なかなり大きな紡錘形の石を金の留め金でペンダントトップに加工してあるものだった。
 

「これは?」

「ニレルで遺跡から出土した古代のアクセサリーなんじゃない?」

 アディヤの言い方は、いかにも他人事といった風だった。

「『エリヤの眼』っぽくない?」

 「はあ」

 「ダンナ様が昔くれた物よ」

するとアディヤは隠し持っていたハンマーを『エリヤの眼』に振り下ろした。

 あっ!と言う間もなかった。

 大きなルビーには無惨なヒビがはいった。

 茫然とする面々の前でアディヤは『エリヤの眼』を陽に翳してニヤリと笑った。

「愛する娘を殺された私は血の涙を流したわ。

そして『エリヤの眼』に巻き戻しを願ったの。


 神が私の願いを聞き届けてくださった時、『エリヤの眼』にはヒビが入った。
 二度と使えないようにね」

うっとりと、それでいて悲しげなアディヤを前に誰も口を利くことができなかった。








 



 
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