嘘つき女とクズ男

猫枕

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  しばらく学校を休んでいたグレアムが、腫れは引いていたものの、殴られたとハッキリ判るアザや傷痕の残る顔で現れてご令嬢達は騒然となった。

 鬱陶しく纏わりついて

 「お痛わしい~」

 と大袈裟に騒ぎたてたり、中には本当に泣く者もいたが、

「傷があるのが却ってセクシー」

 などと馬鹿なことを言い出すご令嬢もいたりして、

「まあ、顔の良いヤツは何やっても持て囃されるよな」

 とモテない男たちの不興を買ったりもした。

 グレアムとカトリーヌの破談は既に知れ渡っていたから、後釜を狙うご令嬢達の間で新たな戦いが始まっていた。
 しかし、当のグレアム本人はピタリとご令嬢達と遊び歩くのを止めて真面目に勉強に取り組んでいた。

 そのくせに口の端に痛々しい傷を残した顔で

「心配してくれてありがとう」

 などとフッと憂いを含んだ笑みを見せてご令嬢をドキドキさせるという遊びは続けるのだから筋金入りのクズである。

 チヤホヤと注目を浴びることは止められないらしい。


 放課後はすぐにセリーヌに会いに行きたかったのだが、怪我のために長期間学校を休んだグレアムが落第せずに卒業するためには補習を受ける必要があった。

 ヒースは一部で
『グレアムの怪我はヒースに殴られてできたもの』
 と噂されていることについて、

「冤罪だ」

 とぶーたれていた。




 「どうして運河に飛び込んだりしたの?」

  とても、
『どうして死のうとしたの?』
 とは聞けないグレアムが、恐る恐る質問すると、
『死んだら時間が巻き戻って人生をやり直した人のお芝居を見たから』
  というようなことをセリーヌは言った。

「グレアム様と会う前に戻れば、悲しくないって思ったの」

 邪気のないセリーヌの笑顔にグレアムは胸が締め付けられた。

「セリーヌ。ずっと一緒にいるから、もう二度としないで」

 するとセリーヌは、

「もう、リーヌって呼んでくれないの?
グレアム様だけの特別な呼び方」

 とキョトンとした顔で聞く。

「君の名前はセリーヌだから、ちゃんとホントの名前で呼びたいんだ。
 名前は大事だからね」

 グレアムは罪悪感にさいなまれながらセリーヌ、と繰り返し彼女を呼んだ。

「そだね。大人だものね。ちゃんとした呼び方しないとね」

 とセリーヌも納得したようだった。


「私ね、婚約者がいたの。ホンの短い間でデートしたこともない人なんだけど。
 でも、私のせいでダメになって、その人、私に恥をかかされたから、お義父様が謝りに行って、多分お金も払って、でも、私もごめんなさい言わなきゃって思ってて、でも私」 

「わかった。オレも一緒に謝りに行くから」

 「でも・・・」

 セリーヌが心配そうにグレアムを見上げる。

「グレアム様、また殴られちゃうかも」 

「大丈夫だよ」

 もう殴られるのは馴れたから、とグレアムは笑った。

 
 セリーヌの元婚約者である某伯爵家三男は、グレアムより2才年上の少し砕けた印象の男だった。

「迷惑をかけてごめんなさい」

 セリーヌが泣きそうな顔でそう言うと、

「俺と結婚するのが死ぬほど嫌だったんだ~」

 彼は冗談で言ったのだが、

「他に好きな人がいるのに結婚するのは、嘘つきだよね?
 ・・・だから私・・記憶が失くなれば、グレアム様と出会う前に戻れれば、・・お父様が決めた人とちゃんと仲良くできるって思って・・・」   

 いよいよセリーヌの目に涙が浮かんでくる。

「あーあー泣くなよ。
 ちょっと何言ってんだか分かんないけど・・・」

「申し訳ありません。
 私が無責任な行動をした為に大変なご迷惑をおかけしました」

 グレアムが陳謝すると、

「まあ、俺も新聞に名前までは出なかったし、金も貰えたからそこまでダメージ受けてないよ」

 へらへら笑う。

「ウチの親なんてさ、俺に女がいるのがバレたからお嬢ちゃんが川に飛び込んだって疑ってたくらいだから閣下が謝りに来た時は恐縮しまくってたよ。

まあさ、他に女がいたのはお互い様なんだし、この辺で手打ちにしようや」

 男が差し出した手をグレアムが掴んで二人は握手をした。

 別れ際に男は、

「とびきり可愛い嬢ちゃんだけど、いささかこっちが」
 
 と人差し指で自分の頭をトントンした。

「・・まあ、それも含めて可愛いんですけどね」

 グレアムが眉を下げて苦笑いすると、

「まあ、世間の好奇の目に晒されて苦労すんのはそっちの方だろうし・・・まあ、ガンバレ」

 耳打ちした男はグレアムの背中を二回労るように叩いて去って行った。



 







 



 


 
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