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久しぶりの美味しいご飯を堪能し、年齢相応の可愛らしいドレスを着せてもらってセレネはウキウキだった。
「え?これって王都で流行ってるボードゲームですよね?
い~な~。私もやってみたかったんですよ~。
学校で皆でやってるの楽しそうだったんだ~」
「持ってっていいぞ。・・・って、一人じゃやれないか!ハッハッハッ」
「ゼファー様ってクソ意地悪いですよね」
「ヘヘン、だ!」
そんな風にセレネが呑気に数日過ごしている間に、王都では、まあ、それなりに騒ぎにはなっていた。
継母と義妹はブツブツ文句を言いながらもバツが悪そうにしていたし、父親は家庭内の面倒事は全て放置していたくせに、今更ながらセレネの遺書に心を痛めていた。
「お父様は成長期の私が硬いパン一個と薄いスープしか与えられなかったことをご存知でしたか?
学園の入学式に亡くったお母様の時代遅れのドレスを自分で手直しして出席したことに気づいていましたか?」
そんな記述に傷ついた顔をして、
「あの子にかけるだけの充分な金は用意していた筈だろう。
君を信用した私が馬鹿だった」
などと家庭を顧みなかった事は棚に上げて、被害者面して夫人を詰った。
そして地獄淵への捜索隊に自ら参加し例の手紙を見つけると、悲劇の主人公さながら膝をついて淵に向かって
「セレネー!」
と慟哭した。
学校では呪いの手紙をもらった者同士が互いに罪をなすりつけながらもヒソヒソとセレネの悪口を言い合っていた。
「処罰とかないよね?」
「大丈夫よ。証拠が無いもん」
「そうよ。それに先生方だって見て見ぬふりしてたんだから、自分に火の粉がかからないように黙りを決め込むに違いないわよ」
「それにしてもセレネのヤツ頭にくるわね」
「生意気よ」
「呪ってやる!とか書いてたけど馬鹿じゃない?」
皆でハハハと笑っている。
そんな様子をセレネとゼファーはゼファーの部屋にある大きな鏡で見ている。
世界中のどこでもリアルタイムで見放題なんだそうだ。
「美女の入浴シーンなんか見放題だぞ!」
「最低~。あ、それお金取って見せれば商売できるんじゃないですか?」
「最低~!」
最低なのが二人でヒャッヒャッ笑っている。
「ハァ~、人ひとり死んだってこんなもんですよね。
なんにも変わりはしない。
こんなもんだろうって思ってましたから大してダメージは無いんですが、ほら、あそこの紫のリボンの子と紺色のワンピースの子。
あの二人は仲良しだったのよ。
あの子達にまで悪口言われてるのがズキズキくるわ~。
カサンドラの圧力に屈して仕方なくあっち側に加担してるんだって信じたかったんだけどね」
「人間なんてそんなもんよ。
でも、さすがに俺も他人事ながら腹立つわ。
ちょっと仕返ししないか?」
「仕返し?」
「オマエ顔がニヤついてるぞ」
「どうやって?」
「手始めに明日のオマエの葬式に出てみるか」
「生きてるのバレたら身も蓋もないですよ」
「幽霊になるんだよ」
「へ?」
それから二人は明日の葬式に向けて夜遅くまで予行練習をした。
翌日、しめやかな葬式には似つかわしくないピーカンの空の下セレネの告別式は挙行された。
自殺だから坊さんは来ない。
伯爵家の庭に設営された祭壇の空の棺の前に次々と参列者が神妙な面持ちで花を手向けていく。
かつて仲良しだったパトリシアの順番が来た。
パトリシアが花を置こうとした瞬間、台の下から仰向けのセレネの顔がにゅっと出てきた。
髪は水に濡れ、肌は蝋のように白く、目と口から血を流している。
一瞬バッチリと二人の目が合った。
キャーーーー!!!
パトリシアの悲鳴が響き渡った。
なんだなんだと人々が集まってくる。
「セ、セ、・・・セレネ・・」
「どうした?」
「いた・・・・そこ・・・セレネ・・・セレネがいたのよーーー!!!」
パトリシアが指差す先にセレネなんかいない。
とっくにゼファーに連れられて瞬間移動しているのだから。
気の所為だよと宥める周囲の人達に、確かに見た、と譲らないパトリシアは次第に我を失くして叫びだした。
「呪われてる!呪われてるのよ!」
引きずられるように会場を後にするパトリシアに、
「なんでも学校でセレネをイジメていたそうよ」
「罪悪感が見せる幻覚なのかしらね」
と部外者の面々は自分の関係者がセレネイジメに加担していなかったことに胸を撫で下ろしながら無責任な感想を漏らした。
セレネとゼファーは鏡の前でハイタッチした。
「次は?次はどうします?
誰に何しましょうか?」
「まあ、落ち着け」
ゼファーは馬にするようにドードーとセレネの肩を叩いた。
「こういうのは小出しにするのよ」
「小出し?」
「まず、パトリシアがオマエの幽霊を見たって噂になるだろ?
この時点では大抵の人間は気の所為だと思うだろう。
だけど、次にまた別の人間がオマエの幽霊を見たと怯える。
一人、また一人とオマエの幽霊を見たという証言が増えていく。
するとどうだ?
オマエの継母や義妹はこう思うだろう。
次は私の番だ・・・・」
「なるほど・・・・」
「え?これって王都で流行ってるボードゲームですよね?
い~な~。私もやってみたかったんですよ~。
学校で皆でやってるの楽しそうだったんだ~」
「持ってっていいぞ。・・・って、一人じゃやれないか!ハッハッハッ」
「ゼファー様ってクソ意地悪いですよね」
「ヘヘン、だ!」
そんな風にセレネが呑気に数日過ごしている間に、王都では、まあ、それなりに騒ぎにはなっていた。
継母と義妹はブツブツ文句を言いながらもバツが悪そうにしていたし、父親は家庭内の面倒事は全て放置していたくせに、今更ながらセレネの遺書に心を痛めていた。
「お父様は成長期の私が硬いパン一個と薄いスープしか与えられなかったことをご存知でしたか?
学園の入学式に亡くったお母様の時代遅れのドレスを自分で手直しして出席したことに気づいていましたか?」
そんな記述に傷ついた顔をして、
「あの子にかけるだけの充分な金は用意していた筈だろう。
君を信用した私が馬鹿だった」
などと家庭を顧みなかった事は棚に上げて、被害者面して夫人を詰った。
そして地獄淵への捜索隊に自ら参加し例の手紙を見つけると、悲劇の主人公さながら膝をついて淵に向かって
「セレネー!」
と慟哭した。
学校では呪いの手紙をもらった者同士が互いに罪をなすりつけながらもヒソヒソとセレネの悪口を言い合っていた。
「処罰とかないよね?」
「大丈夫よ。証拠が無いもん」
「そうよ。それに先生方だって見て見ぬふりしてたんだから、自分に火の粉がかからないように黙りを決め込むに違いないわよ」
「それにしてもセレネのヤツ頭にくるわね」
「生意気よ」
「呪ってやる!とか書いてたけど馬鹿じゃない?」
皆でハハハと笑っている。
そんな様子をセレネとゼファーはゼファーの部屋にある大きな鏡で見ている。
世界中のどこでもリアルタイムで見放題なんだそうだ。
「美女の入浴シーンなんか見放題だぞ!」
「最低~。あ、それお金取って見せれば商売できるんじゃないですか?」
「最低~!」
最低なのが二人でヒャッヒャッ笑っている。
「ハァ~、人ひとり死んだってこんなもんですよね。
なんにも変わりはしない。
こんなもんだろうって思ってましたから大してダメージは無いんですが、ほら、あそこの紫のリボンの子と紺色のワンピースの子。
あの二人は仲良しだったのよ。
あの子達にまで悪口言われてるのがズキズキくるわ~。
カサンドラの圧力に屈して仕方なくあっち側に加担してるんだって信じたかったんだけどね」
「人間なんてそんなもんよ。
でも、さすがに俺も他人事ながら腹立つわ。
ちょっと仕返ししないか?」
「仕返し?」
「オマエ顔がニヤついてるぞ」
「どうやって?」
「手始めに明日のオマエの葬式に出てみるか」
「生きてるのバレたら身も蓋もないですよ」
「幽霊になるんだよ」
「へ?」
それから二人は明日の葬式に向けて夜遅くまで予行練習をした。
翌日、しめやかな葬式には似つかわしくないピーカンの空の下セレネの告別式は挙行された。
自殺だから坊さんは来ない。
伯爵家の庭に設営された祭壇の空の棺の前に次々と参列者が神妙な面持ちで花を手向けていく。
かつて仲良しだったパトリシアの順番が来た。
パトリシアが花を置こうとした瞬間、台の下から仰向けのセレネの顔がにゅっと出てきた。
髪は水に濡れ、肌は蝋のように白く、目と口から血を流している。
一瞬バッチリと二人の目が合った。
キャーーーー!!!
パトリシアの悲鳴が響き渡った。
なんだなんだと人々が集まってくる。
「セ、セ、・・・セレネ・・」
「どうした?」
「いた・・・・そこ・・・セレネ・・・セレネがいたのよーーー!!!」
パトリシアが指差す先にセレネなんかいない。
とっくにゼファーに連れられて瞬間移動しているのだから。
気の所為だよと宥める周囲の人達に、確かに見た、と譲らないパトリシアは次第に我を失くして叫びだした。
「呪われてる!呪われてるのよ!」
引きずられるように会場を後にするパトリシアに、
「なんでも学校でセレネをイジメていたそうよ」
「罪悪感が見せる幻覚なのかしらね」
と部外者の面々は自分の関係者がセレネイジメに加担していなかったことに胸を撫で下ろしながら無責任な感想を漏らした。
セレネとゼファーは鏡の前でハイタッチした。
「次は?次はどうします?
誰に何しましょうか?」
「まあ、落ち着け」
ゼファーは馬にするようにドードーとセレネの肩を叩いた。
「こういうのは小出しにするのよ」
「小出し?」
「まず、パトリシアがオマエの幽霊を見たって噂になるだろ?
この時点では大抵の人間は気の所為だと思うだろう。
だけど、次にまた別の人間がオマエの幽霊を見たと怯える。
一人、また一人とオマエの幽霊を見たという証言が増えていく。
するとどうだ?
オマエの継母や義妹はこう思うだろう。
次は私の番だ・・・・」
「なるほど・・・・」
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