ペンフレンズ〜犬猿の二人の往復書簡〜

猫枕

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  建国記念日を挟んだ3連休にラナとユージンはデートを重ねた。

 「私ね、父がユージンのお父様の親友だったのに、どうして幼い頃の私達に交流がなかったのか不思議だったのよ」

「父親同士は割りと頻繁に会ってたみたいよ。ラナ達が東部に引っ越すまでは」

「私、その理由が分かった気がするの。
 うちの父よりユージンのお父様の方が優秀でしょ?
 家も立派だし。
 そういうのを母に見られたくなかったんじゃないかなって。
 母は悪い人じゃないんだけど、すっごく俗物的な人なの。
 リバティで同級生で親友だった人が自分の旦那さんより出世して良い家に住んでる、とか、そういうのが面白くない人なのよね。
 常に他人との比較の中で生きてるタイプなの」

「ふーん。僕の父だって、そんな歴史に名を残すほどの凄い学者ってわけじゃないよ」

「なんていうのかな、流石に『女王様と張り合おう』とかは思わないんだろうけど、同じ階級の中の上下に拘るっていうか・・・」

「あ~。なんとなく」

「うちの両親だって仲が悪いわけじゃないし、それなりに愛情はあるんだと思うけど、うちはお見合い結婚でしょ。
 母はハッキリと条件で結婚したって私に言ったの。
 だからやっぱり、旦那さんの社会的ポジションとか子供の出来不出来、収入とか家のグレード、そういったものでしか自分の人生が成功なのかどうか計れないんじゃない?」
 
 「確かに。『母親の価値は子供をどの学校に入れたかで決まる』って言った人が昔母の知り合いにいてさ、僕ゾッとしたもん」

「やっぱり、うちとユージンのとことは違うなって。
 ユージンのお母様はお父様のことホントに愛してるんだな~って、しみじみ感じたもの。
 
 父は母から愚痴られるの分かってたから私と母をユージンの家族と交流させなかったんじゃないかって思うの」

「う~ん。真相は分からないけど。
 でも、もしかして幼い頃に会ってたらスゴい喧嘩してラナが僕のこと大嫌いになってたかもしれないから、こうゆう成り行きで出会えて僕は良かったと思うよ」

「私は小さい頃のユージンに会いたかったな。絶対可愛いもん」

 ユージンが、コイツぅ~、と言ってラナの額をチョンと突く。

 えへへ、と笑ったラナを抱きしめたユージンが
「キスしていい?」
 と囁いて、
「もう、いちいち訊かないでよっ!」
 とラナが膨れて、
「その恥ずかしがった顔が見たい」
 とユージンが笑い、
「変態!」
 と怒るラナにユージンが何回もキスをする。
 そうやって二人がイチャイチャ3連休を過ごしている間にガブリエラは修羅場を迎えていた。




「お嬢さんとのお付き合いをお許しください」

 交際の許可をラウザー家から得ようとガブリエラとコルムは連休を利用して東部に来ていた。

 黙って交際することでガブリエラの立場を悪くしたくないとコルムが考えたからだ。

 ヴェートス特有の濃紺の髪を見た瞬間から、ガブリエラの父の顔は苦々しく歪んでいた。

「君はリバティから西部第一大学に進んだんだってね。
 優秀なのは認めよう。
 ヴェートスでありながら努力して精進するなんて素晴らしいよ。
 
 だけど、それと娘のこととは別問題だよ。

 これからも頑張って生きて行ってくれ。

 応援するよ。  

 但し、私達とは関係の無いところでな」

「お父様酷いわ!」

「ねぇ君。君は今迄何度も嫌な目に遭ってきただろう?
 それを私の娘にも味あわせるのか?
 ヴェートスに生まれなければ良かったのに、って何度も思っただろう?」

「・・・確かに私は何度も差別を受けてきました。
 しかしヴェートスに生まれなければ良かったと思ったことは一度もありません」

 「生意気を言うな!」

 ガブリエラの父はステッキでコルムを殴りつけた。

 コルムは声を発することも額に流れる血を拭うこともなく、しっかりとガブリエラの父の目を見た。
 その清廉な紺碧の瞳に自らの理不尽さを突きつけられた気持ちになったガブリエラの父は逆上してコルムを連打した。
 鍛えられた肉体のコルムは呻き声一つ上げず、黙って暴力に耐えた。

「止めて!止めてよお父様!」

「オマエのせいでこの男は打たれているんだ!
 わかったらくだらない恋愛ごっこなんか止めろ!

 人間にはそれぞれ〈居るべき場所〉が決まってるんだ」

 ガブリエラの目は怒りに燃えていた。

「私は!私はラウザーを捨てても彼と一緒に生きていきます!」

「勝手にしろ!」

 




 西部に帰る列車の中で、二人共無言だった。
 ボックスシートに並んで座る二人の間には重苦しい空気が流れ、途中で乗ってきたビジネスマン風の男が向いの席から顔に痣を作ったコルムに怪訝な目を向けてきた。

 西部中央駅に降り立つと、コルムが、

「俺に関わるのは止めた方が良い」

 と言い残して足早に去った。

 ガブリエラはその後を必死でついて行った。

 改札を抜けて、既に暗くなった夜の町を歩いて行く。
 コルムの後方から息が上がったガブリエラの足音が追いかけてくる。

 コルムは振り返るとガブリエラに言った。

「俺と一緒に来るのか?」

 ガブリエラは大きく首を縦に振る。

「きっと後悔するぞ」

「しない!」

「こっから先は苦難の道だぞ」

 ガブリエラは目にいっぱいナミダを溜めて、もう一度大きく頷いた。

 ガブリエラがコルムの胸に飛び込んで、コルムがしっかりと抱きとめた。
 街灯の下、抱き合う長身の二人は美しかった。

 通りすがりの女の子が、

「映画のポスターみたい」

 と呟いた。
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