ペンフレンズ〜犬猿の二人の往復書簡〜

猫枕

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「あーあ、カッコつけて奨学金の辞退なんかするんじゃなかった」

 眠そうな顔のガブリエラが冗談めかして薄く笑う。
 
 仕送りを止められたガブリエラは週6でウエイトレスのバイトを始めた。

 自分が使った食器を洗ったことすらなかったお嬢様が庶民の為に料理を運んだり汚れた皿を洗ったりしている。

「今となったらユージンに感謝だわ。
 入学前に勉強したお陰で今のところまだアドバンテージを保っていられるもの」

 学生食堂で二人共一番安いランチを食べる。

「恩に着るわ」

「アンタに奢る日が来るなんてね」

 ラナがわざとおどけて見せる。

「そのうち10倍にして返すから」

「楽しみにしとく」

 フフッと笑ったガブリエラの顔がひどく疲れて見えてラナは不安になる。


 それからしばらくして町中にコルムのポスターが踊った。

 肉体労働のバイトだけでは現状を打破できないと観念したコルムが、断り続けていたモデルの仕事を始めたのだ。

 古の戦士をモチーフにした衣装を纏ったコルムが精悍な顔でポーズを決めているファッションメーカーのポスターは貼った先から剥がされ持ち帰られた。

 一方ではいわれなき差別に苦しみながら、その一方では持ち上げられるコルム。

 ポスターの彼は自分の置かれている社会そのものを睨みつけているように見えてラナは痛ましく感じた。

 
 しばらくしてガブリエラが寮を退去した。
 コルムが町で借りたアパートで一緒に暮らすことにしたのだ。
 労働者階級の暮らす川沿いの安アパート。 
 ラナはガブリエラが遠くに行ってしまったような喪失感を味わった。

 「いーなー。僕もラナと一緒に暮らしたいよ」

 呑気にそんなことを言うユージンにラナは少し苛立ちを感じてしまう。

「生活費を節約する為にやってることでしょ?二人が心配じゃないの?」

「今は見守るしかないだろう?」

 ユージンは真剣な目をラナに向けた。

「大丈夫だよ。コルムはやる奴だ。
 ・・・いざとなれば僕の父も力になってくれる」

 
 ガブリエラは2年のカレッジの卒業後に4年制大学に編入するためのカリキュラムに出席しなくなった。

 生活が苦しくてそれどころではないのだろう。
 そう予測はついたが、ラナは敢えてガブリエラを問い質した。

「どうしたのよ。一緒に第一大学に行くって約束したじゃない」

 ガブリエラは力なく笑った。

「ごめん、ラナ。私、他にやることができたんだ」

 しかめっ面のラナにガブリエラは続けた。

「怒んないで。私、諦めた訳じゃないの。人生の目的が変わったのよ」



 パンとスープだけの質素な朝食の席で、コルムが封筒を差し出す。

「来学期の授業料だ」

「・・・・私、カレッジ辞めようかと思って」

「!」

「アルバイトじゃなくて、正式にどこかで雇ってもらった方が」

「ダメだ!絶対にダメだ!」

 ガブリエラの目から一筋の涙が溢れ落ちる。

「・・・だって・・・だってコルムが、・・・今まで頑張ってきたのに、私のせいで・・・やりたくもない人前に出る仕事までして、こんなに疲れて・・・なのに私はヘタクソな料理しかできないし・・・・あなたの幸せを願ってるのに・・・足を引っ張ってばっかりで・・・」

 コルムがガブリエラのそばに寄って、

「それ以上言うな」

 強く強く抱きしめた。

 そして耳元で小さな子供をあやすみたいに優しく優しく囁いた。

「ヴェートスの言伝えに、心を尽くして生きた者だけがたどり着ける理想郷があるんだ。
 丘の上には見たこともない一番大きな月が輝き、昼間のように照らされているんだ。
 そこには月の光でだけ咲く美しい花が一面に咲き乱れている。
 
 いつか、いつか必ず二人で行くんだ」

 





 
 
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