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11.ぽっちゃりなお兄さんは、好きですか
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「また昼飯抜いただろ」
「リアン……いやだなぁ。ちゃんと食べましたよ?夕飯の代わりに朝ご飯の下ごしらえをしながら、こう、つまんで……」
「座ってちゃんと食えって、言ってるだろーが」
リアンは歳下なのに、けっこう口うるさい。けれど彼が怒るのはいつも僕のためだということに、だんだんと気づきはじめていた。
家事代行の仕事を始めて数週間。無事に使っていない部屋の掃除まで手が回るようになって、家の中はピカピカだ。
僕も初めての仕事に慣れてきて、想像以上にストレスなく続けられている。
働いているうちに、敬称なしでリアンの名前を呼ぶ許可ももらった。雇用主を呼びすてだなんて……と思ったけど、歳下だし、本人が希望するのなら否やはない。
リアンは僕の作った料理に文句を言ったりしないし、残すこともない。僕はガッツリ系の揚げ物を作るときもあれば、素朴な煮物を作るときもある。
一応バランスを考えてサラダとか野菜の副菜をつけているけど、それもちゃんと食べてくれるから嬉しくなる。キリトは野菜をつけると怒ってたっけ。
仕事は隔日だから、あいだの日はスパ・スポールで過ごしている。あそこはお風呂もあるからゆっくりできるし、利用料が無料だから本当にありがたい。
最近キリトには会っていない。全然呼ばれなくなって、喧嘩をしたって訳ではないけど、会うと機嫌を損ねてしまうから僕も怖いのだ。
「メグ、もう時間だろ?」
「あ、ごめんなさい。もうちょっとキッチンの掃除だけしたら帰りますから」
「そんなの明日でいい。それより……このあと時間あるか?」
「ん?大丈夫ですけど」
「じゃあ夕飯を食べに行こう」
なんで?という感情が顔に出ていたらしい。リアンは「従業員を労うのも雇い主の義務だ」とかなんとか言って、ちょっと強引に僕を外へと連れ出した。
今日は夕飯の用意がいらないと言われていたから、なにか用事があるのかと思っていたのだ。もしかして、これのことだったのかな。
なぜかリアンはよく、僕に食事を与えようとする。最初はたまたまだったけど、あれから僕を見張ることにしたのか、時おり昼ごはんを買って仕事の合間に帰ってくるのだ。
仕事の帰りが遅くなる日も多いから、忙しいはずだと思うんだけどなぁ。
リアンに連れられて到着したのは、テラス席のあるおしゃれなレストランだった。
こちらに来てからほとんど外食をしてなかったけど、そうじゃなくても自分ではぜったいに選ばないような雰囲気だ……なんていうか、女の子同士とかカップルが来そうな感じ。
「こ……ここですか?」
「ピザが旨いらしい」
その言葉を聞いて、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。ピザが美味しいのなら、おしゃれでも入る価値はある。
夏の終わりがけ、この日は少し汗ばむ陽気だった。夜になったおかげで、案内されたテラス席は涼しい風が吹き抜けて気持ちいい。
風向きが変わると、ニンニクとトマトソースのいい香りが運ばれてくるのも気分的には最高だ。この世界の成人は十八だけど、僕たちはジュースで乾杯した。
「一か月ありがとう。これから直接雇用になるな。よろしく頼む」
「え……?あーっ!」
もう一か月経ってたのか!最初は乗り切れるか不安だったひと月も、慣れてからはあっという間に過ぎてしまった。
いつの間にか目標としていた継続雇用にたどり着いていたことに気づいて、じわじわと嬉しい気持ちが胸に広がる。
「あの、嬉しいですけど……僕で、よかったんですか……?」
「何がだ?メグの働きには、なんの問題もない。見ていなくてもサボらないし、物を盗んだりもしない。あと、料理が旨いな」
「えぇっ……。あ、ありがとうございます?」
はじめての家事代行だし、自分に自信がないからつい不安になって確認してしまったけど、予想外の答えだ。
比較対象がひどくない?え、そんな人がいたってこと?うーん、美形ゆえの弊害かもしれない。
料理を褒めてくれると思っていなかったから、驚きすぎて上手くお礼を言えなかった。
いつも夕飯を作って帰るだけで、リアンから料理についての感想をもらうことはなかったのだ。洗い物はあまりしないみたいで二日分溜まっていることもあるけれど、綺麗に食べてあるなとは思っていた。
えー……すごく、嬉しい。
ふわふわと幸せな気持ちになって、美味しいピザもたくさん平らげてしまった。なんだかこっちの世界に来てからは、好きなものを人生で一番食べている気がする。
それなのにスパ・スポールで運動したり家事で動き回ったりするおかげで、食べても太らなくなってきたのだ。むしろ、ちょっと痩せたかも……?
「メグは痩せすぎじゃないか?」
「はぇ!?そんなことないですよ!顔だって丸いしお腹だって出てるし……」
「俺は別にいいと思う」
そうなの?なんか前に言ってたことと違うんだけど……あれ、でも丸いって事実を言われただけだっけ?
まさかリアンに痩せすぎと言われるなんて思わなかった。体力をつけるために運動をしているものの、その副産物としてぽっちゃりを脱出できるのならそれに越したことはない。
うっかり喜びそうになったが、他人の言葉は鵜呑みにできない。まだまだぽっちゃりです。
「リアン……いやだなぁ。ちゃんと食べましたよ?夕飯の代わりに朝ご飯の下ごしらえをしながら、こう、つまんで……」
「座ってちゃんと食えって、言ってるだろーが」
リアンは歳下なのに、けっこう口うるさい。けれど彼が怒るのはいつも僕のためだということに、だんだんと気づきはじめていた。
家事代行の仕事を始めて数週間。無事に使っていない部屋の掃除まで手が回るようになって、家の中はピカピカだ。
僕も初めての仕事に慣れてきて、想像以上にストレスなく続けられている。
働いているうちに、敬称なしでリアンの名前を呼ぶ許可ももらった。雇用主を呼びすてだなんて……と思ったけど、歳下だし、本人が希望するのなら否やはない。
リアンは僕の作った料理に文句を言ったりしないし、残すこともない。僕はガッツリ系の揚げ物を作るときもあれば、素朴な煮物を作るときもある。
一応バランスを考えてサラダとか野菜の副菜をつけているけど、それもちゃんと食べてくれるから嬉しくなる。キリトは野菜をつけると怒ってたっけ。
仕事は隔日だから、あいだの日はスパ・スポールで過ごしている。あそこはお風呂もあるからゆっくりできるし、利用料が無料だから本当にありがたい。
最近キリトには会っていない。全然呼ばれなくなって、喧嘩をしたって訳ではないけど、会うと機嫌を損ねてしまうから僕も怖いのだ。
「メグ、もう時間だろ?」
「あ、ごめんなさい。もうちょっとキッチンの掃除だけしたら帰りますから」
「そんなの明日でいい。それより……このあと時間あるか?」
「ん?大丈夫ですけど」
「じゃあ夕飯を食べに行こう」
なんで?という感情が顔に出ていたらしい。リアンは「従業員を労うのも雇い主の義務だ」とかなんとか言って、ちょっと強引に僕を外へと連れ出した。
今日は夕飯の用意がいらないと言われていたから、なにか用事があるのかと思っていたのだ。もしかして、これのことだったのかな。
なぜかリアンはよく、僕に食事を与えようとする。最初はたまたまだったけど、あれから僕を見張ることにしたのか、時おり昼ごはんを買って仕事の合間に帰ってくるのだ。
仕事の帰りが遅くなる日も多いから、忙しいはずだと思うんだけどなぁ。
リアンに連れられて到着したのは、テラス席のあるおしゃれなレストランだった。
こちらに来てからほとんど外食をしてなかったけど、そうじゃなくても自分ではぜったいに選ばないような雰囲気だ……なんていうか、女の子同士とかカップルが来そうな感じ。
「こ……ここですか?」
「ピザが旨いらしい」
その言葉を聞いて、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。ピザが美味しいのなら、おしゃれでも入る価値はある。
夏の終わりがけ、この日は少し汗ばむ陽気だった。夜になったおかげで、案内されたテラス席は涼しい風が吹き抜けて気持ちいい。
風向きが変わると、ニンニクとトマトソースのいい香りが運ばれてくるのも気分的には最高だ。この世界の成人は十八だけど、僕たちはジュースで乾杯した。
「一か月ありがとう。これから直接雇用になるな。よろしく頼む」
「え……?あーっ!」
もう一か月経ってたのか!最初は乗り切れるか不安だったひと月も、慣れてからはあっという間に過ぎてしまった。
いつの間にか目標としていた継続雇用にたどり着いていたことに気づいて、じわじわと嬉しい気持ちが胸に広がる。
「あの、嬉しいですけど……僕で、よかったんですか……?」
「何がだ?メグの働きには、なんの問題もない。見ていなくてもサボらないし、物を盗んだりもしない。あと、料理が旨いな」
「えぇっ……。あ、ありがとうございます?」
はじめての家事代行だし、自分に自信がないからつい不安になって確認してしまったけど、予想外の答えだ。
比較対象がひどくない?え、そんな人がいたってこと?うーん、美形ゆえの弊害かもしれない。
料理を褒めてくれると思っていなかったから、驚きすぎて上手くお礼を言えなかった。
いつも夕飯を作って帰るだけで、リアンから料理についての感想をもらうことはなかったのだ。洗い物はあまりしないみたいで二日分溜まっていることもあるけれど、綺麗に食べてあるなとは思っていた。
えー……すごく、嬉しい。
ふわふわと幸せな気持ちになって、美味しいピザもたくさん平らげてしまった。なんだかこっちの世界に来てからは、好きなものを人生で一番食べている気がする。
それなのにスパ・スポールで運動したり家事で動き回ったりするおかげで、食べても太らなくなってきたのだ。むしろ、ちょっと痩せたかも……?
「メグは痩せすぎじゃないか?」
「はぇ!?そんなことないですよ!顔だって丸いしお腹だって出てるし……」
「俺は別にいいと思う」
そうなの?なんか前に言ってたことと違うんだけど……あれ、でも丸いって事実を言われただけだっけ?
まさかリアンに痩せすぎと言われるなんて思わなかった。体力をつけるために運動をしているものの、その副産物としてぽっちゃりを脱出できるのならそれに越したことはない。
うっかり喜びそうになったが、他人の言葉は鵜呑みにできない。まだまだぽっちゃりです。
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