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第一章
つまみ食いの事実
しおりを挟む騒がしい一行が居なくなり、食器の片付けが終わった頃に食卓に腰を下ろせば、向こうからルヴァンが"コト"とコーヒーの入ったカップをこちらに渡してきた。
目の前には真剣な表情の彼が居た。
「アンジェリカ様から許可して頂いた内容を伝えても良いかな?」
「いいけど、そもそも全ての情報が開示されていなかったことすら知らなかったんだけど…。」
「んー。結局は神様が人に全ての事を話して話してしまうと、人は"こうなる""こうすればいい"ってなって努力せず、本来起こり得る予定だったことが起こらなくなるんだって、だからあくまでも必要最低限の情報しか開示できない。ってことらしい。」
成る程、確かに"それならこれでもいいか"的な気の緩みが生まれそう。
何処か客観的な説明をするルヴァンに違和感を感じながらも、
「そういうことなら。」
と納得するような反応しか返せないのだから、これもアン様の手の上で転がされてるに過ぎないのかもしれない。
「けど、今回一部の情報を教えてくれる気になったのは何で?」
「まずは、あの王と王子が原因。ハウフロートは改革者と言われるような人や過激派が兎に角少なくて、王家のやり方に疑問も持たずに過ごしている人が多いんだ。それもこれも、今まで何とか飢餓に苦しむ人が出なかったからと言う奇跡的な理由と、隣国との大きな争いが無かったというのもあるのかもしれない。」
と言うことは今迄は何とかなっていたことが、どうにもならなそうになっている。と言うことなのかな?
そこで思い浮かんだのはケインさん一家の事だった。
「あとは、サラがアンジェリカ様から貰ったギフトや、送られてるアイテムや新しい力を全く使っていないってことと、本来なら一度に1人、2人の刻人しか送られないはずなのに、近々数名の刻人が送られることになるかも知れない。と言うのが大きいみたい。」
「え?」
ギフトって使わないで済むならそれでいいんじゃないの?
そもそも、あの恐怖のラインナップは使えと言われてホイホイ使える代物ではない気がする。
と言うか今、凄く大切な事を言われた気がするけど!
「地球の人が私たち以外にも来るの?いつ!?」
「予定だから何とも言えないよ。それについては僕も詳しくは教えてもらえなかったし。」
語尾が少し拗ねたように聞こえたのは、間違いではないと思う。
「あと今回、教えることのできる情報はサラがここハウフロートに来た理由だよ。」
これは願っても無い情報だ。
あのヒゲ王が息子の為と豪語していた内容の真相がわかるのだ。
「まずは、国王の強い希望があったと言うのが一つ。」
まさか本当に、あの王子の為に私はこの世界に来たって言うの…
何故だかわからないけれど、ヒゲ王から聞かされた時よりもショックが大きい。
「それから、今まで学者や研究者ばかりで、食に興味がないものばかりが刻人として来ていたから料理が全く進化しなくて、アンジェリカ様は御供えされる料理に飽き飽きしてたんだって。」
「へっ?」
「他の星の神々は美味しいものや新しい物を食べてるのに、妾はいつもおんなじ物…と仰ってたので多分こっちが本命。そのタイミングで料理に革命を起こしてくれる刻人を、と国王が願ったから"よしきた"って言う感じだと思うよ。」
何それ、アーンーさーまー!
ちょっと、否、かなり私情入ってるじゃないですか!
「そもそも、私、お供えとかしたことないよ?」
「あー、時々作った料理が減ったような、と感じることは無い?」
そう言えば、もう少し作らなかったっけ?と予定よりも完成した量が少ないと感じる事はちょこちょこある。
「アンジェリカ様がつまみ食いしてるからだと思う。」
「えぇーーーー!!?」
何それ、見えないのをいい事に、ひっそりとつまみ食いとか!
あの神々しく美しい女神は何をやってるの!
そして、あの時に感じた、お前の物は俺の物、俺の物は俺の物、的なハートの持ち主だと感じた直感は間違っていなかったのだと確信する。
グッと力が抜けていくのがわかる。
「『取られたくなかったら、妾にしっかりと供物を捧げよ。』なんて仰ってたよ。」
これには空笑いしか出てこなかった。
手グセの悪い女神様だ。
今度からはそんな事されないようにお供えしよう。
「とまあ、今話せるのはこれだけ。僕も知らないことの方が多いから、サラとそんなに変わらないって言うのが正直なところだよ。」
冷えてしまったコーヒーを口に運びながら、これ以上教えられる事はない。と少し疲れた様子が伺えた。
あの、アン様の元に行ってきたのだ、きっと翻弄されて疲れた事だろう。
心の中で"お疲れ様"と伝え
「今日はいっぱいご馳走作るからね。」
と言うと、いつもの様に私の目にしか見えない尻尾がブンブンと動いているのが見えた。
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