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【黒猫ユウレイ集会】
しおりを挟む黒猫の目的は、ぼくの手元にある、小皿なわけだけどね。
猫らしく、猫舌のため、猫用のぶんは取り分けて冷ましてあげていたのだ。甲斐甲斐しいだろ?
注目がぼくらに集まり、ふふん、とちょっと得意げな気持ち。
だって、この場にいるみんな、この黒猫にめろめろなんだからさ。
「君の猫耳めちゃくちゃ嬉しそうだね」
そこかよ。ぼくの方かよ。なんか恥ずかしい……。
みんなにニヤニヤ見られてしまった。
「おあがり」
「にゃ!」
それより黒猫鑑賞会しよう!
骨を取り除いた鯛の白身を、黒猫の小さな舌がざらりと絡めとり、食べていく。
たまらにゃい、というように、ぺろぺろと口の端までなんども舐めている。
「ほ、本当にユウレイが食べてるぅ……!」
「皿の底が見えてきてるもんな!?」
「あれ? みなさん、死後のこの黒猫ユウ……レイが食べているのを見るのは、初めてなんですか?」
意外に思った。
みんなは総じて首を縦にふる。
「当たり前だ。だから高級な鯛を持ってきたんだぜ、死んじまったこいつにお供えしようと思ってなぁ」
「僕もそうですね。幽霊の黒猫君……おっと、ユウレイくんに合ったのは先ほどが初めてでしたから」
「同じくっす」
なるほど、お供えだったのか。
ボクシング青年がカニカマを差し出すと、今は鯛に夢中な黒猫は、そっぽを向いた。
しょんぼりと肩を落としている彼の場合は、伏せた猫耳が、犬のように見える。
絶対に言えないけど、細マッチョな体に反して、可愛いとこがある人なんだな。
ボクシング青年は「皿ください」と言った。僕が小皿を渡すとそこにカニカマを置いて、黒猫の側へ、そっと置いておく。
自分で食べてしまうつもりはないらしい。
ふうん、優しい。
彼とも話してみよう。
「皿、ありがとうございました」
「うん。名前を聞いてもいい?」
「斎藤厚人です。十八っす」
「十八!? お、大人びて見えるな。せめて同じ歳くらいだと思ってた……!」
「よく言われます。お兄さんは?」
「前田陸」
ようやく、僕は自己紹介をした。
そっか、なんか怒涛の流れに飲み込まれていて、名乗る暇もなかったや。
ありがとな、と厚人くんの肩を叩いてお礼を言ったら、彼は首を傾げたので、名乗るきっかけがなかったからさ、と言うと笑った。やはり犬みたいな子だ。
「あっくんに、陸くんね! あたしは泉おねーさんと呼びなさい!」
「泉お姉さま」
「なによう」
そっちのほうが似合うでしょ。
見た目は綺麗なOLの泉さんは、話せば話すほど「元ギャル」らしい素が隠せなくなってきていた。軽快にぽんぽんと言葉を飛ばして、主に魚屋さんをノックアウトさせている。
ぼくたちが二人で「泉お姉さま」とからかって復唱すると、照れたように赤くなる。
彼女とはどんな話をしようか?
「ユウレイになにを食べさせてましたか?」
「猫缶だね。家にはあるんだけど、今は持ってきてない。仕事先からの帰り道に遭遇したから」
ぼくと彼女は勤め人同士なので、話は弾んだ。
それになにより、泉さんが話し上手なんだよな。
「うおおおおお」
今度は泣き声……? なにごとだ、魚屋の大吾さん……。
「泣き上戸みたいですね」
神谷さんが背中をさすってやっている。
「呑ませてませんよね?」
「雰囲気酔いなのかな?」
「えええ……そして絡み酒かと思っていましたけど」
「併用です」
「厄介すぎません?」
「かあちゃあああん!」
これは困った、年長の彼がいちばん困った人だ。
神谷さんはそのダンディな見た目とバリトンボイスで、魚屋さんに語りかける。
「奥様に愛想をつかされた……と。とても困っていますよね。しかし、これからどうしたいか、自分の気持ちは明確で、だめだった点も分かっているのでしょう? では、行動できるじゃないですか。それは希望です。さあ悔い改めなさい」
「神谷さん神谷さん神谷さん!」
思わず名前を連呼してしまった。
その物言いは宗教的にいいのか!?
「かあちゃんに戻ってきてほしいんだ!」
「そ、そうなんですか。素直でいい意見だと思いましたよ……鯛、食べます?」
「うめぇ」
酔っ払いの関心をとりあえず逸らしておいて、 口にごはんを入れて黙らせ、あとはまた神谷さんに相手をお願いした。このような人の対応は慣れているようで「若者たちで話しておいで」と応援された。
ぼく、雨宮さん、泉さん、厚人くん、みんなで他愛のない話をする。
鯛鍋はみんなの胃袋においしく収まった。
「今日はおひらき。ごちそうさまでした」
料理番をしたぼくが手を合わせて、今夜の集会はおしまいになった。
「ほんっとうに美味しかったよー! シメの雑炊も最高だったし!」
ぼくらは深く頷く。鯛の出汁が溶け込んだスープにお米、かつお節と、若者はチーズも。すごいものを食べてしまった……と感激した。
「デザートがあればもっと嬉しかったですよねー。だから今度はわたしたちも持ちよりますね」
「いいね!」
「今度?」
ぼくが聞き返す。
女子たちは、すでに次回集会に向けて、盛り上がり始めている。
なんと、そうきたか。
黒猫耳をごきげんに揺らして、語る。
「わたしはコンビニデザートが大好きなので、大学帰りに買ってきますー」
「あたしの勤め先は缶詰卸売を扱っているのよ。だから珍しい新作商品を差し入れするわ」
「俺は魚持ってくるからなぁ!」
「では僕は野菜を」
「うち……実家が精肉屋なんで。期待しててください」
みんな、またやってくる気が満々だ。
そして料理をするのはぼくなんだろう。食材提供はできなさそうだし。
黒猫はその食べる姿でみんなを癒してくれる役割、かな。
めちゃくちゃしっくりきてしまったので、ぼくは思わず頷いていた。
「やった! 陸くんの黒猫耳がピコピコ喜んでたから、オッケーしてくれるって思ってた!」
「まじですか。ほんと恥ずかしいなこれ……!」
猫耳を塞ぐように頭に手を置いてみても、手をすり抜けてぼくの気持ちを現すばかりだ。
ちくしょー。
顔が熱いぞ。
「黒猫ユウレイ集会! なーんて、いかがですか? わー、とってもいいと思います!」
雨宮さんがぱあっと顔を輝かせて、そんなメルヘンなことを言う。
顎に指を添えて考え込んでいたのは、それか!
この子の発想はすごく独特だ。
「にゃあん」
黒猫ユウレイが鳴いたので、この名称に決定した。
こうして、ぼくの家では黒猫たちが集うことになったのだ。
毎週末。
なんだかすごくわくわくしていた。
ーーーーー
【あとがき】
主人公くん、こっちのイメージの方が合ってるかな? よくいる黒髪リーマン、大体そんな感じでお願いします!
応援ありがとうございます!
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