★黒猫ユウレイ集会

黒杉くろん

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【黒猫ユウレイ集会】

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 黒猫の目的は、ぼくの手元にある、小皿なわけだけどね。
 猫らしく、猫舌のため、猫用のぶんは取り分けて冷ましてあげていたのだ。甲斐甲斐しいだろ?

 注目がぼくらに集まり、ふふん、とちょっと得意げな気持ち。

 だって、この場にいるみんな、この黒猫にめろめろなんだからさ。

「君の猫耳めちゃくちゃ嬉しそうだね」

 そこかよ。ぼくの方かよ。なんか恥ずかしい……。
 みんなにニヤニヤ見られてしまった。

「おあがり」
「にゃ!」

 それより黒猫鑑賞会しよう!

 骨を取り除いた鯛の白身を、黒猫の小さな舌がざらりと絡めとり、食べていく。
 たまらにゃい、というように、ぺろぺろと口の端までなんども舐めている。

「ほ、本当にユウレイが食べてるぅ……!」
「皿の底が見えてきてるもんな!?」
「あれ? みなさん、死後のこの黒猫ユウ……レイが食べているのを見るのは、初めてなんですか?」

 意外に思った。
 みんなは総じて首を縦にふる。

「当たり前だ。だから高級な鯛を持ってきたんだぜ、死んじまったこいつにお供えしようと思ってなぁ」
「僕もそうですね。幽霊の黒猫君……おっと、ユウレイくんに合ったのは先ほどが初めてでしたから」
「同じくっす」

 なるほど、お供えだったのか。

 ボクシング青年がカニカマを差し出すと、今は鯛に夢中な黒猫は、そっぽを向いた。

 しょんぼりと肩を落としている彼の場合は、伏せた猫耳が、犬のように見える。
 絶対に言えないけど、細マッチョな体に反して、可愛いとこがある人なんだな。

 ボクシング青年は「皿ください」と言った。僕が小皿を渡すとそこにカニカマを置いて、黒猫の側へ、そっと置いておく。
 自分で食べてしまうつもりはないらしい。

 ふうん、優しい。
 彼とも話してみよう。

「皿、ありがとうございました」
「うん。名前を聞いてもいい?」
「斎藤厚人です。十八っす」
「十八!? お、大人びて見えるな。せめて同じ歳くらいだと思ってた……!」
「よく言われます。お兄さんは?」
「前田陸」

 ようやく、僕は自己紹介をした。

 そっか、なんか怒涛の流れに飲み込まれていて、名乗る暇もなかったや。

 ありがとな、と厚人くんの肩を叩いてお礼を言ったら、彼は首を傾げたので、名乗るきっかけがなかったからさ、と言うと笑った。やはり犬みたいな子だ。

「あっくんに、陸くんね! あたしは泉おねーさんと呼びなさい!」
「泉お姉さま」
「なによう」

 そっちのほうが似合うでしょ。
 見た目は綺麗なOLの泉さんは、話せば話すほど「元ギャル」らしい素が隠せなくなってきていた。軽快にぽんぽんと言葉を飛ばして、主に魚屋さんをノックアウトさせている。

 ぼくたちが二人で「泉お姉さま」とからかって復唱すると、照れたように赤くなる。

 彼女とはどんな話をしようか?

「ユウレイになにを食べさせてましたか?」
「猫缶だね。家にはあるんだけど、今は持ってきてない。仕事先からの帰り道に遭遇したから」

 ぼくと彼女は勤め人同士なので、話は弾んだ。
 それになにより、泉さんが話し上手なんだよな。

「うおおおおお」

 今度は泣き声……? なにごとだ、魚屋の大吾さん……。

「泣き上戸みたいですね」

 神谷さんが背中をさすってやっている。

「呑ませてませんよね?」
「雰囲気酔いなのかな?」
「えええ……そして絡み酒かと思っていましたけど」
「併用です」
「厄介すぎません?」

「かあちゃあああん!」

 これは困った、年長の彼がいちばん困った人だ。
 神谷さんはそのダンディな見た目とバリトンボイスで、魚屋さんに語りかける。

「奥様に愛想をつかされた……と。とても困っていますよね。しかし、これからどうしたいか、自分の気持ちは明確で、だめだった点も分かっているのでしょう? では、行動できるじゃないですか。それは希望です。さあ悔い改めなさい」
「神谷さん神谷さん神谷さん!」

 思わず名前を連呼してしまった。
 その物言いは宗教的にいいのか!?

「かあちゃんに戻ってきてほしいんだ!」
「そ、そうなんですか。素直でいい意見だと思いましたよ……鯛、食べます?」
「うめぇ」

 酔っ払いの関心をとりあえず逸らしておいて、 口にごはんを入れて黙らせ、あとはまた神谷さんに相手をお願いした。このような人の対応は慣れているようで「若者たちで話しておいで」と応援された。

 ぼく、雨宮さん、泉さん、厚人くん、みんなで他愛のない話をする。
 鯛鍋はみんなの胃袋においしく収まった。

「今日はおひらき。ごちそうさまでした」

 料理番をしたぼくが手を合わせて、今夜の集会はおしまいになった。

「ほんっとうに美味しかったよー! シメの雑炊も最高だったし!」

 ぼくらは深く頷く。鯛の出汁が溶け込んだスープにお米、かつお節と、若者はチーズも。すごいものを食べてしまった……と感激した。

「デザートがあればもっと嬉しかったですよねー。だから今度はわたしたちも持ちよりますね」
「いいね!」
「今度?」

 ぼくが聞き返す。
 女子たちは、すでに次回集会に向けて、盛り上がり始めている。
 なんと、そうきたか。

 黒猫耳をごきげんに揺らして、語る。

「わたしはコンビニデザートが大好きなので、大学帰りに買ってきますー」
「あたしの勤め先は缶詰卸売を扱っているのよ。だから珍しい新作商品を差し入れするわ」
「俺は魚持ってくるからなぁ!」
「では僕は野菜を」
「うち……実家が精肉屋なんで。期待しててください」

 みんな、またやってくる気が満々だ。
 そして料理をするのはぼくなんだろう。食材提供はできなさそうだし。

 黒猫はその食べる姿でみんなを癒してくれる役割、かな。

 めちゃくちゃしっくりきてしまったので、ぼくは思わず頷いていた。

「やった! 陸くんの黒猫耳がピコピコ喜んでたから、オッケーしてくれるって思ってた!」
「まじですか。ほんと恥ずかしいなこれ……!」

 猫耳を塞ぐように頭に手を置いてみても、手をすり抜けてぼくの気持ちを現すばかりだ。
 ちくしょー。
 顔が熱いぞ。

「黒猫ユウレイ集会! なーんて、いかがですか? わー、とってもいいと思います!」
 
 雨宮さんがぱあっと顔を輝かせて、そんなメルヘンなことを言う。
 顎に指を添えて考え込んでいたのは、それか!
 この子の発想はすごく独特だ。

「にゃあん」
 
 黒猫ユウレイが鳴いたので、この名称に決定した。
 こうして、ぼくの家では黒猫たちが集うことになったのだ。

 毎週末。
 なんだかすごくわくわくしていた。



ーーーーー
【あとがき】

主人公くん、こっちのイメージの方が合ってるかな? よくいる黒髪リーマン、大体そんな感じでお願いします!
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