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一話

豆本と月

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「っつ、ぐす、っつ」

美術室の中は静かだった。月くんの嗚咽が聞こえる。
大丈夫かな?

「月」

航太くんが奥の机のそばで屈む。机の下で彼は泣いていた。

「航太くん、ごめんね」

泣きながら月くんは航太くんに抱き着いた。
航太くんも抱きしめ返している。

「俺は大丈夫だ。本田先生もいるし」

その言葉が僕にはなにより嬉しかった。
彼が初めて僕の名前を呼んでくれた。

「ほら、月。これお前のだろ?」

そう言って航太くんが月くんにさっきの豆本を渡している。

「あ、あったんだ。よかった。航太くんに初めてもらった宝物だから」

「お前・・・」

航太くん嬉しそうだな。
っていうか、僕邪魔かな?

「加那先生、ごめんなさい」

月くんが涙を拭いながら言う。

「大丈夫だよ。君が無事でよかった」

「僕、航太くんにも加那先生と仲良くなってもらいたかったの。だって二人とも、僕の宝物だから」

「そっか」

僕は彼の頭を撫でた。

「あ、授業始まってるよね?早く行かなくちゃ。航太くん行こう」

「おう」

去り際に航太くんが僕を見て頷いてくれた。
何はともあれよかった。
とりあえず図書室に戻ることにする。
宝物か。嬉しいな。

それにしても、また本に助けられてしまった。
不思議なことは重なるものだと昔聞いたけど、本当なんだな。

(この力はいつか消えるのかな・・・)

あまりこの力に依存するのはよくないと、僕の本能が言っている。
僕自身の力でできることはちゃんとやらなくちゃいけないんだよな。

(とりあえず仕事しないと)

僕は図書室の掃除を始めた。


続く
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