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SS
シュークリームを求めて
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※千尋視点です。
「おはようございます。千尋さん、これ、見てください」
「なんだよ、石田」
朝、会社に来たら後輩の石田(♀)に廊下で呼び止められた。こいつがこんなに早く来ているなんて珍しい。
彼女が掲げているのはスマートフォンだ。なんだ?
俺が近付くと、ピンク色のネイルがばっちり施された指で画面を示された。
こういうネイルを見ると女って大変だよな、なんて同情が湧いてくる。
本人たちはすこぶる楽しいらしいけど、俺にはよく分からない。
画面にはたっぷりカスタードのふわふわシュークリームという文字が躍っていた。
一緒にシュークリームの画像も載っている。シュークリームの表面に砂糖がかかっているようだ。
「なんだよ、これ」
そう尋ねると石田がにやりと笑う。
「最近オープンした、シュークリーム専門店のシュークリームです。
あたし、昨日行ってみたんですけど、もう品切れで買えなかったんですよ」
「それで、それがどうしたんだ?」
話がまだ見えない。
「悔しかったから、昨日注文してきたんです。加那さんの分も」
「加那の?」
「加那さん、甘いものが好きだって前に聞いたから」
「確かに加那は甘いもの、好きだな」
加那は美味しいものならなんでも沢山食べるけれど。
「昼休みにあたしの分もお店で受け取って来てください。お金は渡しますから」
「はあ?」
なんでそうなる。
「千尋さん、車ですよね?」
「そうだけど」
「加那さんに持っていけばきっと喜びますよ。それなのにいいんですか?」
「う・・・」
そういうことか。石田は俺のことをよく分かっているみたいだな。
俺が加那のためならなんでもするってことを。
「わかった。取ってくりゃいいんだろ」
「やった」
石田が小さくガッツポーズしてみせる。
まあ石田はこうして加那のことをいろいろ気にかけてくれるし、たまになら言うことを聞いてやってもいいか。
そして、昼休みがやってきた。
石田と来たら弁当を広げてゆっくり食べ始めている。俺も腹が減っているのに。
「千尋さん、お願いしますね!シュークリーム!」
こう、にこやかに見送られた。
こいつは。
加那のことがあるから仕方なく我慢する。
加那が喜んでくれればいいけれど。
石田に言われた店の住所をナビに打ち込む。ここからだと昼休みが終わる時間ギリギリになりそうだ。
俺は車を発進させた。
あまり時間がない。早く行って早く済ませよう。
シュークリーム専門店なるものは住宅街の中にあるようだった。
知る人ぞ知る店、ということらしい。
仕方なく少し離れた駐車場に車を停めて、そこから歩いた。
俺は方向音痴だから今はスマホがあって本当によかったと思う。
文明万歳。
ナビを見ながらなんとか店に辿り着いた。
(空いているようだな?)
店に入ると甘い匂いがする。シュークリームの匂いだろうか。
ショーケースに沢山のシュークリームが並んでいる。これが全部売り切れるのか、すごいな。
「いらっしゃいませー!」
俺はレジに向かった。
注文をしている旨を伝える。
「石田様ですね。承っております。ギフトの宛名は本田加那太様でよろしいでしょうか?」
ギフト?よく分からなかったけどとりあえず俺は頷いておいた。
会計を済ませてシュークリームの入った箱を2つ受け取る。
一つはおしゃれにラッピングされていた。
これがギフトってやつか。
(石田のやつ、わざわざ気遣ってくれたのか)
なんだかんだ言いながら、石田は俺達のために動いてくれる。
そこは感謝しなきゃいけない。
「千尋さん!買えましたか?」
会社に戻ると、まだ弁当を突いていた石田にこう言われた。
「あぁ。買えたよ。加那のためにありがとうな。金はいいよ」
石田は首を振って千円札二枚を俺に握らせてくれた。
「千尋さんは加那さんのためだけにお金を使ってください」
こいつ、時々すごく男らしいよな。
小さい華奢な女の子なのに。
「ありがとう、石田」
礼を言うと石田が嬉しそうに笑った。
「ただいま」
家に帰ると、加那がタマとおもちゃで遊んでいた。
(タマはウチの飼い猫だ)
今日は帰りが早かったんだな。
「千尋!お帰り!ご飯炊いておいたよ。鶏ささみ食べる?」
「あ、あぁ」
鶏ささみに加那はハマっているらしい。最近そればっかり食べている。
「それなに?」
加那がシュークリームの箱をじっと見ている。そりゃあ気になるよな。
「あぁ、シュークリームだってさ。
石田がお前にって」
「わぁあ、シュークリーム!嬉しい!」
加那に箱を渡してやる。
早速開けているのが加那太らしい。
「わぁ、すごく大きいシュークリームだね!
食べてもいい?」
「あぁ」
加那に一つシュークリームを手渡された。確かにでかいな。
ショーケースで見た時もでかいと思ったけれど、こうして改めて持つと中のクリームでずっしりしている。
「千尋も食べるよね?」
「わかった、食べるよ」
糖質制限は今日はいいか。
「いただきます!」
シュークリームに二人でかぶりつく。
中からとろっとしたカスタードクリームがたっぷり溢れ出てきた。中にはホイップクリームも入っているようだ。
「んまー!」
「うん、美味いな」
「石田さんにメールしとこっと」
本当、こいつら仲いいよな。
二人の話を聞いているとたまに寂しくなるくらいだ。
一人でぽつんとしていたら加那が抱きついてきた。
「聞いたよ、千尋。シュークリームを買いに行ってくれたんだってね」
「あぁ。一応な」
「ありがとう。昼休みに行くなんて忙しかったでしょ?」
加那が、そう言ってぎゅうとしがみついて来たから俺も抱きしめ返した。
加那が俺を見上げて笑う。やっぱり、何度見ても可愛いな。
「千尋の気持ちが、僕はいつも嬉しいよ」
「加那…」
加那がこうして俺に向かって笑ってくれさえすれば、それで十分だ。
これからも加那とずっと、お互いに思い遣りあえる関係でいたい。
そのための努力は怠らないつもりだ。
それはずっと変わらない。
おわり
「おはようございます。千尋さん、これ、見てください」
「なんだよ、石田」
朝、会社に来たら後輩の石田(♀)に廊下で呼び止められた。こいつがこんなに早く来ているなんて珍しい。
彼女が掲げているのはスマートフォンだ。なんだ?
俺が近付くと、ピンク色のネイルがばっちり施された指で画面を示された。
こういうネイルを見ると女って大変だよな、なんて同情が湧いてくる。
本人たちはすこぶる楽しいらしいけど、俺にはよく分からない。
画面にはたっぷりカスタードのふわふわシュークリームという文字が躍っていた。
一緒にシュークリームの画像も載っている。シュークリームの表面に砂糖がかかっているようだ。
「なんだよ、これ」
そう尋ねると石田がにやりと笑う。
「最近オープンした、シュークリーム専門店のシュークリームです。
あたし、昨日行ってみたんですけど、もう品切れで買えなかったんですよ」
「それで、それがどうしたんだ?」
話がまだ見えない。
「悔しかったから、昨日注文してきたんです。加那さんの分も」
「加那の?」
「加那さん、甘いものが好きだって前に聞いたから」
「確かに加那は甘いもの、好きだな」
加那は美味しいものならなんでも沢山食べるけれど。
「昼休みにあたしの分もお店で受け取って来てください。お金は渡しますから」
「はあ?」
なんでそうなる。
「千尋さん、車ですよね?」
「そうだけど」
「加那さんに持っていけばきっと喜びますよ。それなのにいいんですか?」
「う・・・」
そういうことか。石田は俺のことをよく分かっているみたいだな。
俺が加那のためならなんでもするってことを。
「わかった。取ってくりゃいいんだろ」
「やった」
石田が小さくガッツポーズしてみせる。
まあ石田はこうして加那のことをいろいろ気にかけてくれるし、たまになら言うことを聞いてやってもいいか。
そして、昼休みがやってきた。
石田と来たら弁当を広げてゆっくり食べ始めている。俺も腹が減っているのに。
「千尋さん、お願いしますね!シュークリーム!」
こう、にこやかに見送られた。
こいつは。
加那のことがあるから仕方なく我慢する。
加那が喜んでくれればいいけれど。
石田に言われた店の住所をナビに打ち込む。ここからだと昼休みが終わる時間ギリギリになりそうだ。
俺は車を発進させた。
あまり時間がない。早く行って早く済ませよう。
シュークリーム専門店なるものは住宅街の中にあるようだった。
知る人ぞ知る店、ということらしい。
仕方なく少し離れた駐車場に車を停めて、そこから歩いた。
俺は方向音痴だから今はスマホがあって本当によかったと思う。
文明万歳。
ナビを見ながらなんとか店に辿り着いた。
(空いているようだな?)
店に入ると甘い匂いがする。シュークリームの匂いだろうか。
ショーケースに沢山のシュークリームが並んでいる。これが全部売り切れるのか、すごいな。
「いらっしゃいませー!」
俺はレジに向かった。
注文をしている旨を伝える。
「石田様ですね。承っております。ギフトの宛名は本田加那太様でよろしいでしょうか?」
ギフト?よく分からなかったけどとりあえず俺は頷いておいた。
会計を済ませてシュークリームの入った箱を2つ受け取る。
一つはおしゃれにラッピングされていた。
これがギフトってやつか。
(石田のやつ、わざわざ気遣ってくれたのか)
なんだかんだ言いながら、石田は俺達のために動いてくれる。
そこは感謝しなきゃいけない。
「千尋さん!買えましたか?」
会社に戻ると、まだ弁当を突いていた石田にこう言われた。
「あぁ。買えたよ。加那のためにありがとうな。金はいいよ」
石田は首を振って千円札二枚を俺に握らせてくれた。
「千尋さんは加那さんのためだけにお金を使ってください」
こいつ、時々すごく男らしいよな。
小さい華奢な女の子なのに。
「ありがとう、石田」
礼を言うと石田が嬉しそうに笑った。
「ただいま」
家に帰ると、加那がタマとおもちゃで遊んでいた。
(タマはウチの飼い猫だ)
今日は帰りが早かったんだな。
「千尋!お帰り!ご飯炊いておいたよ。鶏ささみ食べる?」
「あ、あぁ」
鶏ささみに加那はハマっているらしい。最近そればっかり食べている。
「それなに?」
加那がシュークリームの箱をじっと見ている。そりゃあ気になるよな。
「あぁ、シュークリームだってさ。
石田がお前にって」
「わぁあ、シュークリーム!嬉しい!」
加那に箱を渡してやる。
早速開けているのが加那太らしい。
「わぁ、すごく大きいシュークリームだね!
食べてもいい?」
「あぁ」
加那に一つシュークリームを手渡された。確かにでかいな。
ショーケースで見た時もでかいと思ったけれど、こうして改めて持つと中のクリームでずっしりしている。
「千尋も食べるよね?」
「わかった、食べるよ」
糖質制限は今日はいいか。
「いただきます!」
シュークリームに二人でかぶりつく。
中からとろっとしたカスタードクリームがたっぷり溢れ出てきた。中にはホイップクリームも入っているようだ。
「んまー!」
「うん、美味いな」
「石田さんにメールしとこっと」
本当、こいつら仲いいよな。
二人の話を聞いているとたまに寂しくなるくらいだ。
一人でぽつんとしていたら加那が抱きついてきた。
「聞いたよ、千尋。シュークリームを買いに行ってくれたんだってね」
「あぁ。一応な」
「ありがとう。昼休みに行くなんて忙しかったでしょ?」
加那が、そう言ってぎゅうとしがみついて来たから俺も抱きしめ返した。
加那が俺を見上げて笑う。やっぱり、何度見ても可愛いな。
「千尋の気持ちが、僕はいつも嬉しいよ」
「加那…」
加那がこうして俺に向かって笑ってくれさえすれば、それで十分だ。
これからも加那とずっと、お互いに思い遣りあえる関係でいたい。
そのための努力は怠らないつもりだ。
それはずっと変わらない。
おわり
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