くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ

文字の大きさ
13 / 16

くまさんのマッサージ♡4(大地のこと①)

しおりを挟む
「本当にある…」

翼の驚いたような声に、大地は思わず噴き出してしまった。

「そりゃああるよ、翼さん」

今、2人は開店直後の書店にいる。今日は翼が手がけたコミックスの発売日だった。翼はまだ信じられないのかコミックスを手に取って眺めている。どう見ても翼のイラストで、作者の名前も翼その人で間違い無い。

「俺の本が本屋さんに並んでる」

翼はほう、とため息を吐いている。

「翼さん、サイン会明後日なんだから、場所とかちゃんと確認しておかなくちゃ」

と言いながら、大地はコミックスを5冊手に取った。

「ちょ、ちょっと待って。大地君?そんなに買うの?」

慌てている年上のパートナーはいつでも可愛らしい。大地は笑った。

「越野と林田に頼まれてるんだよ。ついでに買ってきてって」

「え、えええ」

翼が目を白黒させている間に、大地はレジに向かったのだった。

✢✢✢

「え…ええ」

その日の夜、翼が電話をしながら困ったような声をあげている。どうしたのだろうかと大地も心配になったが、ひとまずは見守ることにした。

「うん、分かった。1泊くらいなら、うん」

翼が戸惑った様子で電話を切る。

「翼さん?何かあった?」

大地が尋ねると、翼は困ったような顔で見上げてくる。

「うん、従姉妹の娘さんを預かって欲しいって頼まれたの」

「え?」

「俺のサイン会にどうしても行きたいって聞かないんだって。勝手に決めてごめんね」

「その子、何歳?」

「7歳。すごくませてるんだ。女の子ってみんなそうなのかな?」

「うーん。その子は迎えに行ったほうがいいの?」

「ううん、明日の夜、直接送り届けてもらえるみたい」

「そうなんだ。なら、サイン会の時は俺が一緒にいればいい?」

「うん、そうしてくれるとすごく助かるよ」

「小さい女の子と接したこと、あまりないから怖がらせないようにしないとね」

「大地君なら大丈夫だよ」

✢✢✢

そんなこんなでサイン会前日の夜になっている。

「翼お兄ちゃん!」

涼奈りょうなちゃん、久し振りだね」

翼の元に駆け寄ってきたのは赤いカチューシャを付けた可愛らしい子だった。赤いワンピースは明らかに上等なものである。

「お兄ちゃん、会いたかったー」

涼奈と呼ばれた少女は翼の太ももに抱き着いている。

「涼奈ちゃん、この人が大地君だよ」

「大地君、よろしくね」

涼奈の言葉に大地は笑ってしまった。舌足らずなのにちゃんと女の子なのだと感心してしまったのだ。

「涼奈ちゃん、何か食べたいものはある?」

大地は屈んで涼奈に問いかけた。

「涼奈ね、おとーふが好きなの」

「豆腐?!もしかして、湯豆腐かな?」

「えーと、お醤油がかかってるやつ」

どうやら冷奴らしい。涼奈の見た目からして、親はかなり裕福なのだと分かる。

大地は翼に後で話を聞こうと思ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

すみっこぼっちとお日さま後輩のベタ褒め愛

虎ノ威きよひ
BL
「満点とっても、どうせ誰も褒めてくれない」 高校2年生の杉菜幸哉《すぎなゆきや》は、いつも一人で黙々と勉強している。 友だちゼロのすみっこぼっちだ。 どうせ自分なんて、と諦めて、鬱々とした日々を送っていた。 そんなある日、イケメンの後輩・椿海斗《つばきかいと》がいきなり声をかけてくる。 「幸哉先輩、いつも満点ですごいです!」 「努力してる幸哉先輩、かっこいいです!」 「俺、頑張りました! 褒めてください!」 笑顔で名前を呼ばれ、思いっきり抱きつかれ、褒められ、褒めさせられ。 最初は「何だこいつ……」としか思ってなかった幸哉だったが。 「頑張ってるね」「えらいね」と真正面から言われるたびに、心の奥がじんわり熱くなっていく。 ――椿は、太陽みたいなやつだ。 お日さま後輩×すみっこぼっち先輩 褒め合いながら、恋をしていくお話です。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

処理中です...