29 / 68
29
しおりを挟む
「いちに、さんし」
「ね、ショーゴ。それ毎日やってるよね?」
俺は体をぐっと後ろにのけぞらせた。体がもう少し柔らかければな。エンオウさんとした修行もストレッチは基本だった。随分それで柔らかくなった気はするんだけどね。
「うん、ラジオ体操ね」
「ラジオ体操…?」
ルネが反復して、何それと聞いてきた。
「ラジオで曲を流して皆で一斉に体操をするんだ」
「じゃあ本当に皆で体操するんだ?」
「そう」
「へー!」
不思議なことに料理や遊びなんかはこちらの世界にも同じものがあったりするから、俺のいた日本となにかしらの繋がりはあるんだろうなとは思う。異世界はやっぱり不思議だ。最後に深呼吸をしておしまいだ。
「ふう、おしまい」
ラジオ体操も本気でやれば結構な運動になるからなあ。今日はいよいよダリアさんと戦う、わけだけど、ペンダントは既にルネの首にかかっているのだ。だってルネしか取り扱えなかったからね。
「ペンダント大丈夫?」
何か害はないんだろうかと不安になって聞いたら、ルネがペンダントを出した。今は昨日みたいに光っていない。
「落ち着いてるね。でも神殿には行かないといけないのかも。オババ様たちにまた聞いてみないとなぁ」
「龍の里に行くの?」
俺はワクワクして鼻息が荒くなった。
「ショーゴ、言っとくけど、そんないいものじゃないよ?期待しても無駄だからね」
「そうかな?楽しそうなのに」
ルネは首を横に振った。まあ故郷ってそういうものかもな。俺ももともといた地元が楽しいかって聞かれたら、ルネと同じ反応するもんな。
「よし、準備完了」
装備を確認してと。ゴルブさんは約束通り、朝イチで装備一式を持ってきてくれた。見たところ、全て能力が上がっていて驚いた。まだまだ強くなれるって思うと少し希望が湧くよな。俺は最強だってルネは言うけれど、うーん。
「ダリアに勝ってね!」
「頑張るよ」
とりあえず、ダリアさんに勝たないとカイエンさんに認めてもらえないだろうからな。今日は全部出しきろう。闘技場に向かうと今日も賑やかだった。俺の名前のコールがされている。
向こうからダリアさんがやってくると、更に場は盛り上がった。さすがだな。ダリアコールがすごい。この人と戦うことはこの場で最も栄誉なことだ。この中で無様な姿は見せられないぞ。
「ショーゴ、私は本気でいくからな。死ぬ気で来いよ」
ダリアさんからの宣戦布告に俺は思わず震え上がりそうになる。でもここで逃げるわけにはいかない。俺は彼女にカイエンさんから預かった鈴を投げた。彼女はそれを受け取る。鈴がチリンと鳴った。
「確かに」
「俺も全力でいかせてもらいます!」
ニヤッとダリアさんが笑った瞬間、いなくなった。急な気配の移動。俺は慌てて前へ跳んだ。ダリアさんの手刀が後ろから首に入っていたら、一撃でやられていた。それ程までに容赦がなかった。恐ろしいな。
「前から思っていたがお前は勘がいいな。私の見込みは間違っていなかったらしい」
ふふ、とダリアさんが笑う。
「そんなに簡単にやられませんよ」
「ならばこいつを見せてやるか」
ぐわ、という禍々しい気配。彼女が空間から何かを取り出す。まさか魔剣か?
「この子をここに連れてくるのは初めてでな」
ダリアさんが魔剣にキスすると、魔剣が形を変えていく。刃がますます鋭くなったぞ。こっわ。
「ダリア、ようやく私を使う気になったのですか」
魔剣からは落ち着いた女性の声。
「レディ、許せ。私は今まで戦いに本気が出せなくてな」
「あなたは戦いに関しては本当に不能でしたもんね」
くすくすと二人は笑っている。あまりの和やかな空気に俺は戸惑っていた。これ戦い、だよな?
女子会ってこんな感じ?妹情報だけど。ダリアさんが俺を見つめる。その瞳には「俺を殺す」という意志が宿っていた。いや、急に怖いな!
「ダリア、本気だね」
「ルネもそう思う?」
「うん、気を付けて」
ルネは冷静だな。
彼に頷いて俺は走り出した。もうすっかりバレているだろうけど影分身を繰り出しながらダリアさんと距離を詰める作戦だ。
「私にそんな小手先の技が通用するなどと!」
やばい、やっぱりバレてる。ダリアさんが直接本体の俺に切り掛かってきた。やばいな、このヒト。
なんとかドラゴナグルの剣で受け止める。ぎぃいという金属が擦れる音。
「ほう、やはり装備を新しくしていたか」
あ、それもバレるんですね。
「この意匠、ゴルブか」
一瞬でそこまで見抜かれちゃうの?
「ショーゴ、喜べ。ゴルブは一流の者にしか装備の整備をしない。つまりお前はそれだけ殺し甲斐のある男ということだ」
殺すこと前提なの止めてもらっていいですかね?
俺たちは切り合った。いや、正しくは俺がひたすら防いでいるだけだ。
「ふはは!いいぞ!今日は思い切り剣が振るえる!」
「よかったですね、ダリア」
俺はダリアさんの太刀筋を観察していた。エンオウさんにも言われたけれど、相手の動きをよく見て次の動きを読むことは大事だ。ダリアさんは本気を出すのが久しぶりだと言っていた。そこに何か穴はないかなと思ったのだけど、彼女に隙らしい隙もなく。
「ショーゴ!私のレディはすごいんだ!」
ダリアさんが何かを唱え始める。やばい、魔法の詠唱だ。俺は走った。闇の魔法が俺を狙い撃ちにしてくる。これじゃダリアさんに近付けないぞ。
でも諦めない。
魔法を避けながらダリアさんになんとか近付く。
そして俺は剣を鞘に収めた。この距離なら。
「む…なんだ?なんで剣をしまうんだ?」
ダリアさんがポカンと俺を見つめてくる。俺は最近覚えたばかりの居合い切りをしていた。カラン、とダリアさんの防具が壊れる。
「…え…?壊れた?なんで?」
彼女は状況をよく理解していない。俺は剣の切っ先を彼女の首元に突きつけた。
「俺の勝ち、ですよね?」
「っ…!!」
「勝者!!ショーゴ・カノー!」
観衆の騒ぎの中、ダリアさんが立ち尽くしている。大丈夫かな?
「だ、ダリアさん?」
「負けちゃったぁー!!悔しいー!!うあああ!」
ダリアさんがめちゃくちゃ大声で泣き出したぞ。
ど、どうしよう。
「もー、ダリア。何泣いてんの」
ルネが当然のように駆け寄ってきた。ダリアさんの頭を撫でてあげている。なんかルネって女の子の扱いに妙に慣れてるな。
「ショーゴ、ダリア抱っこだって」
「え…?」
「お姫様抱っこがいいって」
「…はぁ」
俺は彼女を抱き上げた。軽いな、このヒト。さっきの剣の重さはなんだったんだ?ダリアさんがじいっと俺を見つめている。
「どうかしましたか?」
「ショーゴ、大好き」
ぎゅっと彼女が抱き着いてくる。
「こら!ダリアー!!」
ルネが叫ぶ。
なんだかよく分からないうちに好かれていた。ダリアコールがずっと続いていた。
「ね、ショーゴ。それ毎日やってるよね?」
俺は体をぐっと後ろにのけぞらせた。体がもう少し柔らかければな。エンオウさんとした修行もストレッチは基本だった。随分それで柔らかくなった気はするんだけどね。
「うん、ラジオ体操ね」
「ラジオ体操…?」
ルネが反復して、何それと聞いてきた。
「ラジオで曲を流して皆で一斉に体操をするんだ」
「じゃあ本当に皆で体操するんだ?」
「そう」
「へー!」
不思議なことに料理や遊びなんかはこちらの世界にも同じものがあったりするから、俺のいた日本となにかしらの繋がりはあるんだろうなとは思う。異世界はやっぱり不思議だ。最後に深呼吸をしておしまいだ。
「ふう、おしまい」
ラジオ体操も本気でやれば結構な運動になるからなあ。今日はいよいよダリアさんと戦う、わけだけど、ペンダントは既にルネの首にかかっているのだ。だってルネしか取り扱えなかったからね。
「ペンダント大丈夫?」
何か害はないんだろうかと不安になって聞いたら、ルネがペンダントを出した。今は昨日みたいに光っていない。
「落ち着いてるね。でも神殿には行かないといけないのかも。オババ様たちにまた聞いてみないとなぁ」
「龍の里に行くの?」
俺はワクワクして鼻息が荒くなった。
「ショーゴ、言っとくけど、そんないいものじゃないよ?期待しても無駄だからね」
「そうかな?楽しそうなのに」
ルネは首を横に振った。まあ故郷ってそういうものかもな。俺ももともといた地元が楽しいかって聞かれたら、ルネと同じ反応するもんな。
「よし、準備完了」
装備を確認してと。ゴルブさんは約束通り、朝イチで装備一式を持ってきてくれた。見たところ、全て能力が上がっていて驚いた。まだまだ強くなれるって思うと少し希望が湧くよな。俺は最強だってルネは言うけれど、うーん。
「ダリアに勝ってね!」
「頑張るよ」
とりあえず、ダリアさんに勝たないとカイエンさんに認めてもらえないだろうからな。今日は全部出しきろう。闘技場に向かうと今日も賑やかだった。俺の名前のコールがされている。
向こうからダリアさんがやってくると、更に場は盛り上がった。さすがだな。ダリアコールがすごい。この人と戦うことはこの場で最も栄誉なことだ。この中で無様な姿は見せられないぞ。
「ショーゴ、私は本気でいくからな。死ぬ気で来いよ」
ダリアさんからの宣戦布告に俺は思わず震え上がりそうになる。でもここで逃げるわけにはいかない。俺は彼女にカイエンさんから預かった鈴を投げた。彼女はそれを受け取る。鈴がチリンと鳴った。
「確かに」
「俺も全力でいかせてもらいます!」
ニヤッとダリアさんが笑った瞬間、いなくなった。急な気配の移動。俺は慌てて前へ跳んだ。ダリアさんの手刀が後ろから首に入っていたら、一撃でやられていた。それ程までに容赦がなかった。恐ろしいな。
「前から思っていたがお前は勘がいいな。私の見込みは間違っていなかったらしい」
ふふ、とダリアさんが笑う。
「そんなに簡単にやられませんよ」
「ならばこいつを見せてやるか」
ぐわ、という禍々しい気配。彼女が空間から何かを取り出す。まさか魔剣か?
「この子をここに連れてくるのは初めてでな」
ダリアさんが魔剣にキスすると、魔剣が形を変えていく。刃がますます鋭くなったぞ。こっわ。
「ダリア、ようやく私を使う気になったのですか」
魔剣からは落ち着いた女性の声。
「レディ、許せ。私は今まで戦いに本気が出せなくてな」
「あなたは戦いに関しては本当に不能でしたもんね」
くすくすと二人は笑っている。あまりの和やかな空気に俺は戸惑っていた。これ戦い、だよな?
女子会ってこんな感じ?妹情報だけど。ダリアさんが俺を見つめる。その瞳には「俺を殺す」という意志が宿っていた。いや、急に怖いな!
「ダリア、本気だね」
「ルネもそう思う?」
「うん、気を付けて」
ルネは冷静だな。
彼に頷いて俺は走り出した。もうすっかりバレているだろうけど影分身を繰り出しながらダリアさんと距離を詰める作戦だ。
「私にそんな小手先の技が通用するなどと!」
やばい、やっぱりバレてる。ダリアさんが直接本体の俺に切り掛かってきた。やばいな、このヒト。
なんとかドラゴナグルの剣で受け止める。ぎぃいという金属が擦れる音。
「ほう、やはり装備を新しくしていたか」
あ、それもバレるんですね。
「この意匠、ゴルブか」
一瞬でそこまで見抜かれちゃうの?
「ショーゴ、喜べ。ゴルブは一流の者にしか装備の整備をしない。つまりお前はそれだけ殺し甲斐のある男ということだ」
殺すこと前提なの止めてもらっていいですかね?
俺たちは切り合った。いや、正しくは俺がひたすら防いでいるだけだ。
「ふはは!いいぞ!今日は思い切り剣が振るえる!」
「よかったですね、ダリア」
俺はダリアさんの太刀筋を観察していた。エンオウさんにも言われたけれど、相手の動きをよく見て次の動きを読むことは大事だ。ダリアさんは本気を出すのが久しぶりだと言っていた。そこに何か穴はないかなと思ったのだけど、彼女に隙らしい隙もなく。
「ショーゴ!私のレディはすごいんだ!」
ダリアさんが何かを唱え始める。やばい、魔法の詠唱だ。俺は走った。闇の魔法が俺を狙い撃ちにしてくる。これじゃダリアさんに近付けないぞ。
でも諦めない。
魔法を避けながらダリアさんになんとか近付く。
そして俺は剣を鞘に収めた。この距離なら。
「む…なんだ?なんで剣をしまうんだ?」
ダリアさんがポカンと俺を見つめてくる。俺は最近覚えたばかりの居合い切りをしていた。カラン、とダリアさんの防具が壊れる。
「…え…?壊れた?なんで?」
彼女は状況をよく理解していない。俺は剣の切っ先を彼女の首元に突きつけた。
「俺の勝ち、ですよね?」
「っ…!!」
「勝者!!ショーゴ・カノー!」
観衆の騒ぎの中、ダリアさんが立ち尽くしている。大丈夫かな?
「だ、ダリアさん?」
「負けちゃったぁー!!悔しいー!!うあああ!」
ダリアさんがめちゃくちゃ大声で泣き出したぞ。
ど、どうしよう。
「もー、ダリア。何泣いてんの」
ルネが当然のように駆け寄ってきた。ダリアさんの頭を撫でてあげている。なんかルネって女の子の扱いに妙に慣れてるな。
「ショーゴ、ダリア抱っこだって」
「え…?」
「お姫様抱っこがいいって」
「…はぁ」
俺は彼女を抱き上げた。軽いな、このヒト。さっきの剣の重さはなんだったんだ?ダリアさんがじいっと俺を見つめている。
「どうかしましたか?」
「ショーゴ、大好き」
ぎゅっと彼女が抱き着いてくる。
「こら!ダリアー!!」
ルネが叫ぶ。
なんだかよく分からないうちに好かれていた。ダリアコールがずっと続いていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
31
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる